第4話


 雑木林に足を一歩踏み入れるだけでスマホのライト無しでは何も見えない真っ暗な世界が広がっていた。足元にライトを当てると敷石が点々と敷かれていて、おばあちゃんの家まで続いている。

「ねえ、本当に行くの?」

「もうここまで来ちゃったし、パッと行ってチャチャッと写真撮って帰ればすぐだよ」

 きっと宮脇は撮った写真をTwitterかInstagramにでも載せるつもりなんだろう。

そんなちっぽけな功名心に私は付き合わされている。腹が立った。

 ただ、ここまで来てしまって1人にされるのは怖い。情けないけど、私は宮脇のパーカーの袖をつまみながら歩くことしかできなかった。

 日の光を浴びていない雑木林の地面はぬかるんでいて、敷石を歩くとたまにぐらりと足元がふらつく。

 あと少し我慢すれば終わる。あと少し我慢すれば終わる。そう言い聞かせながら怖いものが見えてしまわないように足元だけを照らし続けて歩いていると、宮脇が立ち止まった。

「これがおばあちゃんの家か」

 どうやらおばあちゃんの家に着いたらしい。

 宮脇が家の中に入っていこうとしたので私は悲鳴のような声をあげた。

「ふざけないでよ!行くなら1人で行って!」

 私の剣幕にぎょっとしながらも宮脇は「分かったよ、じゃあ、ここで待ってて」と本当に1人で中に入っていってしまった。

 私は月明かりも届かない、目を開けているのか閉じているのかも分からないような暗闇で独りにされてしまった。

「何でこんなことになるの…」

 泣き声まじりに1人でつぶやいた。声を出してでもいないと気がふれてしまいそうだった。スマホがあるのだから音楽でも聴いていればよかったのかもしれないのに、音楽を聴いている最中にノイズが入り、不気味な女の声でも聴こえてきたらどうしようなどと考えてしまって、音楽も聴けない。見えないだけで、大勢の霊が私を取り囲んでいてにらみつけているかもしれない。

 こんな時にだけ無駄に豊かになる自分の想像力を呪った。早く戻ってきてほしいのに、いったいいつまで私を待たせる気なんだと宮脇に対する怒りで恐怖をごまかしていたその時、宮脇が家に入っていく時には開けっ放しになっていたはずのドアが独りでに閉まった。

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