第3話

 バス停に着くと、まだ友人達は集まっておらず、宮脇みやわきだけしかいなかった。宮脇は私に気付くと「おおっ」と言いながら挨拶のつもりなのか軽く手を上げる。

 一目見てファストファッションとは違うと分かる派手なデザインのパーカーやパンツと風が吹くたびにさらさら揺れる長髪。平均的な顔立ちを自己肯定感の高さで補っている典型的な雰囲気イケメン。

 何かをされた覚えもないのだけれど、私はこの軽薄な感じのする男子をどうにも好きになれずにいた。

「周りに聞こえるように大きな声で喋るのは、みんながあなたの話を聞きたいとでも思っているの?」「お笑い芸人のギャグをそのまま言って誰かを笑わせているのには何か意味があるの?」

 いつかどこかのタイミングで直接本人に伝えてへこませてやりたいと密かに思うくらいに私は宮脇を好きではない。

 そんな苦手な男子と2人きりになるのは気まずくて、誰でもいいから早く来てほしいと思っていたのだけれど、来るはずだった友人達から立て続けに断りのLINEが来た。


 私はこれを理由に私達も行くのをやめて帰ろうと宮脇を見ると、宮脇はすでに「これから心霊スポットいってきます」と自撮り写真を貼り付けてTwitterにあげていて、待ち合わせをしたはずだった友人達からファボが付いていたり「頑張ってね」とリプが来ている。

 やられたと思った。おそらくこれは宮脇と友人達が仕組んだことだ。宮脇と私を2人きりにして、デート代わりに心霊スポットに行かせようとしていたのだ。

 私は腹が立ち「帰る」とだけ言って立ち去ろうとしたのに「えっ、何で?」と白々しいことを言いながら宮脇が慌てて私の後を追ってくる。

「とぼけないでよ」

 私は宮脇をにらんだ。すると宮脇は一瞬だけ「あっ、バレたんだ」という顔をした後に、悪びれることなくニヤッと笑った。

「だますようなことして悪かったよ。前原まえはらが俺のことを良く思ってないのも知ってる。こういうことはホントに最後にするからさ、お願いお願い。一生のお願いここで使うからさ、頼むよ」

 そう言った宮脇の表情は、薄っぺらい言葉とは裏腹に真剣だった。少なくとも私にはそう見えてしまった。そのいつになく真剣な表情に気圧けおされ、もともと押しに弱い私は結局誘いを断れずに行くことになってしまった。

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