それは舞い散る桜のようで

あまたろう

本編

 空を見上げる。満開の桜に映える、雲ひとつない青空だ。

 連絡がアイツから来なくなって、そろそろ1年になる。

 春、ちょうど桜が散り始める頃だったと思う。連絡が途絶えてすぐにアイツの母親に連絡を入れてみたが、大学には出ていないが実家には顔を出していると言っていたので、そういう心配はせずに済んでいる。

 「まだアイツから直接連絡ないの?」

 行きつけのラウンジで一緒に飲んでいるのは、アイツと3人でよくつるんでた親友だ。

 小さいころからよく遊んだ仲で、小学校から中高、大学もずっと同じところに通うことになった。


 ルームシェアを始めたのは、大学に進学したとき。

 3人ではアイツだけが女だったが、それを意識させないぐらいの付き合いの長さだったし、俺たちの生活に溶け込んでいたと思っていた。

 腐れ縁とも言うべきその関係が壊れたのは、大学生活とルームシェアを始めてから2年ほど経ってからだった。

 ラウンジでいつもの通り過ごしていた俺たちだったが、なぜかアイツの様子がおかしかった。

 ノリもいつものそれではなく、間に入っていた親友もどことなくよそよそしい感じがした。

 「用事思い出したから、俺は先帰るわ。今日は2人でゆっくりしてこいよ」

 嘘がバレバレの大根演技で帰った親友と、残された俺たち。

 「……デート、みたいになっちゃったね」

 「デートなあ。俺とおまえなら今さらだな」

 「うん。でもね、私ね」

 「用事って言ってたけど、すっげえわざとらしかったな。まあでも」

 残された者同士仲良く過ごして帰るか、と言ったとき、アイツの顔が真っ赤になった。

 「ら、来週……さ、2人でどっか遊びに行かないかな?」

 黒い大きな瞳でまっすぐ俺の方を見ながら、アイツは言った。

 さっきまでとは打って変わって真剣な眼差し。

 ルックスもいいんだよな、と改めて思う。今まで意識していなかった、しなかったのが不思議なくらい、アイツが眩しく見えた。

 「ちょ、ちょっと待ってくれ。これは本気のアレなのか?」

 今さらながら、俺はあいつのことを女として見ていなかった、見ようとする目を閉ざしていたことを痛感した。親友のこともあったのはもちろんそうだったのだが。

 まっすぐこちらを見つめるアイツの顔を見ながら、俺は今までの3人のことを思い出していた。親友との関係が壊れてしまうのではないかと思うと、答えに困った。

 「……は、恥ずかしいね。ごめん、今の忘れて」


 連絡が取れなくなると同時にアイツがふわりと姿を消したのは、ラウンジであの後2人で会話らしい会話もなく別れた翌日のことだった。

 それは舞い散る桜のようで。

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