第44話 魔女3

 それから、私の青春は加速した。

 今思えばあの頃が1番楽しかったのかもしれない。

 結局私は選ばれなかった。

 でも負けてない。

 

 私は中央国に呼ばれていた。

 是非とも中央国の近衛魔道士になってくれと。

 魔法学校に属するものは皆そこを狙っている。

 私は選ばれた。

 でも、ラルムアーズ君は選ばれなかった。


 私は辞退するか迷った。

 だが、ラルムアーズ君がそれを許さなかった。

 当たり前だ。

 誰もが喉から手を出すほど求める中央国の近衛魔道士。

 その切符を捨てる行為は、欲しくても取れなかった者への侮辱である。


 中央国の近衛魔道士に選ばれたのは、私とカレン、そしてサタネという男の3人だ。

 アグニスは選ばれていない。

 アグニスのことだ。

 もしかしたら、わざと選ばれないように成績を下げていたのかもしれない。


 アグニスならきっとよくやってくれるだろう。

 最後の一年間だけだったが、彼女のことは誰よりも見てきた。

 彼女の癖や習慣、どんなメイク道具を使っているか、どんな石鹸を使っているか全て把握してある。

 

「アグニス、ラルムアーズ君を頼んだわよ」


「ええ……当たり前…よ……」


 なぜだかアグニスは泣いている。

 

「何で泣くのよ?」


「あら? それはこっちのセリフよ」


 アグニスは声は震えているものの、そう返した。


 今気づいた。

 私の頬に涙が通っていた。

 最後に泣いたのはいつだろうか?

 多分、この学校に入学して最初の試験でカレンに負けた時だろう。

 

「私の完全勝利ね」


「そうね……」


「……ちょっと、調子狂うんですけど」


 私はアグニスに抱きついた。

 それは、感謝の証明だ。

 

 アグニスは当初どうしたものかと迷っていたが、抱き返してくれた。


 そしてその状態が数分経った時、一人の男が近づいて来た。

 ラルムアーズ君だ。


「レイン、アグニス、今までありがとう」


 私はアグニスから足速に離れると、ラルムアーズ君に抱きついた。


「ちょっ! まだ私もしたことないのに!!」


「あはは、レイン、中央でも頑張ってね」


 ラルムアーズ君が背中をさすってくれてる。

 あぁ、やっぱり私はラルムアーズ君が好きだ。


「ちょっと! 離れなさいって!!」


 アグニスによって幸福のひと時を邪魔された。

 一年前の私ならこんなことはしなかっただろう。

 話しかけるのも躊躇していたのに、よくここまで成長できたものだ。


「ほら、レインの彼氏さんが来てるからそっち行って!!」


 アグニスの視線の先にはカレンがいた。

 カレンの隣にはサタネとあと、中央国の紋章入りの鎧を来た騎士がいた。


「もう時間か……」


「何悲しそうな顔してるのよ。もう一生会えないわけじゃないでしょ? まあ次会う時は私達の子どもを見せてあげる」


「もしかしてもう……」


「まだしてないわよ!!」


「まだ?」


「うっさいもう! さっさと行く!」


 これが私が一年間アグニスを見てきて気付いたアグニスの弱点。

 アグニスは下の話を恥ずかしがる。

 もう20歳だというのに。

 逆に言えばそれ以外弱点という弱点を見つけられなかった。


 アグニスに押され、カレンの元へ行かされた。


「レイン、別れの挨拶は済んだか?」


「ええ。行きましょう」


 中央国の騎士がスクロールを取り出す。

 中には転移魔法が入っている。

 ちなみに空間魔法の転移魔法を開発したのは他でもない、カレンだ。

 そのカレンの開発した転移魔法で私たちはあっという間に中央国へと招き入れられたのであった。


「青春だね」


 転移する直前、そんな言葉が聞こえたような気がした。




ーーー




 中央国に配属されて20年が経った。

 その間、私はいつも通り魔法の研究をしていた。

 

 ラルムアーズ君とアグニスとは今もたまに連絡を取る。

 どうやら、魔物と人間は分かり合えるということを布教しに回っているらしい。

 その反響はそこそこあり、今や中央国に危険視されるレベルまで成長した。


 魔物と人間は分かり合えると主張するものを魔女も呼ぶらしい。

 最近はその魔女を炙り出すために色々とやってるみたいだ。


 だが、王国はラルムアーズ君とアグニスの居場所はなかなか掴めていない。

 当たり前だ。

 カレンお手製の別空間に拠点を作っているから、見つかるわけがない。


 カレンは現在何をしているのかというと、私にもわからない。

 そもそも学生の頃から何をしているのかわからなかった。

 中央国にいるとは思うが、ここ数年は顔を見ていない。




ーーー




 周りが魔女狩りに奮闘している中、ラルムアーズ君とアグニスの間に子どもができた。

 名はエルメール。

 

 その為、私は十数年ぶりに二人に会いに行った。


「出産おめでとう」


「ありがとうレイン。この子は私たちの結晶、世界を変える子になるわよ」


「ふふっ、本当にそうなるかもしれないわね。内なる魔力が凄いわ。もしかしたらカレンを超えるかもしれないわね」


「うん……でもこの子には私たちの宿命を背負わせてしまう。だからレイン頼み事があるの」


「何?」


「もし、私たちが死んだらこの子を引き取ってほしいの」


「死ぬって……どうしてそんなこと言うの?」


「わかるでしょ? 今、世界が私たちを狙ってる。せっかく集めた仲間も次々と弾圧されてる。こうなることは最初からわかってた。でも、いつか私たちの思いが世界にも通じると思っていたの。でも無理だと悟ったよ。だからもうやめる」


「そっか……死ぬつもりはないよね?」


「…………」


「ラルムアーズ君は?」


「彼は今外にいる。子どもの存在を知られない為に」


 外とは通常の空間のことを指している。


「駄目よ! 今すぐ隠れなきゃ! ラルムアーズ君殺されちゃう!!」






 



 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る