第43話 魔女2

 後日、いつもの食堂にて。


「聞いたぞ、レイン。水を被ったらしいな」


「その話はしないで」


「いいではないか。久々に興味を持つ話しだ」


 カレンは、基本的に物事に興味を抱かない。

 そんな、カレンが興味を持つということはよっぽどのことだ。


「はあ、夢かと思ったの」


「どうして?」


「どうしてって……その、嬉しいことが一気に起きて」


「その嬉しいこととは具体的に何だ?」


「だから! ラルムアーズ君と……」


 やばい、大きな声を出しすぎた。

 周りの目線が集まる。

 恥ずかしい。

 

「あの、呼んだ?」


 なぜか、偶然か必然かわからないが、近くでラルムアーズ君が食事をしていた。


 ラルムアーズ君はいつも、教室でお弁当を食べているのに、どうしてこんな日に限って食堂にいるの!?

 私もラルムアーズ君の作ったお弁当食べたい……じゃなくて、この状態をなんとかしなくては。


「お前か、レインの好いんご」


 危ない。

 あとちょっとで、私の淡い恋心が本人の前で暴露される所だった。

 

「ははは……その、一緒に食べる? カレンさんも一緒に」


「私は別に」「食べる!」


 私は強引にカレンの手を取って、ラルムアーズ君の席にお邪魔した。

 とは、言っても緊張で食事しかできない。


 食事を終えたカレンが、なぜか私の顔をじっと見ている。

 ほっぺにソースでもついてるのだろうか?


「時にラルムアーズとやら、お前に好きな人はいないのか?」


 !?!?

 な、なんてことを質問してるんだ!!

 でも、ちょっと気になる。

 いや、だいぶけっこうかなり気になる。


「カレンさんからそんな質問が飛んでくるとは思わなかったな。なんかレインさんもそうだけど、意外なところが見られてよかった。

この学校にもう9年もいるのにね」


「御宅はいい。いるのかいないのか?」


「んー、カレンさんが答えたらいいよ」


「いない。答えろ」


「あははは……あっと、もうそろそろ授業の準備をしなきゃ。じゃ、またね」


 そう言ってラルムアーズ君は逃げるように行ってしまった。

 

「カレン! なんてことを聞くのよ!」


「お前も気になっていただろう。たまには友人らしいことをしようと思ってな」


「友人……ってその言葉には騙されないわよ! もしこれでラルムアーズ君に嫌われてたら、カレンが密かに鉄棒にぶら下がってたこと周りに言い回るから!」


「な、どうしてそれを」


「って、私も移動教室だった! じゃ!」




ーーー




 ラルムアーズ君とはクラスが違う。

 この魔法学校は毎年クラス替えがあり、去年と一昨年はラルムアーズ君と一緒だった。


 その為、今年ラルムアーズ君と会えるのは合同で授業をする時しかない。


 今日はラルムアーズ君と一緒になれなかった。

 残念だけど、前回みたいな失敗をしないようになると考えればいい。

 意識するな意識するな。

 おい、そこの女! ラルムアーズ君と離れろ。

 名は確かアグニス。

 同じクラスになったことはないが、彼女も毎度成績でトップ10に入ってくる優等生だ。

 ま、私は一度も負けたことはないが。


 見た目からしてラルムアーズ君に相応しくない。

 伝統ある制服を着くずし、肌の露出を増やしている。

 あれじゃただの淫乱女だ。

 

 この学校は実力主義な面が強い為、優秀な成績を残しているアグニスに強く言えるものは先生を含め少ない。


 アグニスは授業も真面目に受けている為、少し着くずしていようと、水に流しているふちがある。


 駄目だ集中集中。

 ちらりとラルムアーズ君の方を見ると、アグニスがいなくなっていた。

 と思ったら、ラルムアーズの膝あたりから頭が出てきた。

 

 え!?

 もしかして、授業中に膝枕してた?

 それとも、あっち?

 授業中にそんなこと……

 ラルムアーズ君達がいる方向は先生の視界から見えにくい。

 下半身は隠れているだろう。

 だからといって授業中に……

 

 いや、あの淫乱女ならやりかねない。

 授業中というスリルを楽しんでいるに違いない。


 集中集中。

 今はマンドラゴラという木の魔物ととロイヤルビーという蜂の魔物の調合だ。

 これは、成功すれば万病を治すと言われる秘薬が完成するが、失敗すれば劇薬が生まれる。

 極めて難易度の高い調合だ。


 辺りで爆発が相次いでいる。

 この調合のコツは、素早くやること。

 魔物は死んで時間が経つと魔素に変換される。

 爆発する原因はその魔素が混ざり込むからだ。

 

 だから、空間魔法で一時的に魔素になるのを防げばいい。

 まあ、その空間魔法を使えるのが少ないのだが。

 

「きゃー!」


 アグニスの悲鳴が聞こえた。

 ざまあないね。

 失敗してやんのー!


「大丈夫!?」


「うん、大丈夫。ありがとうラルムアーズ君」


 これが狙いかぁ! この淫乱女!!


「れ、レインさん、その……」


 私がラルムアーズ君達を見ていたら、肩を叩かれた。

 いけない。集中集中。


「その魔物、生きてない?」


「え?」


 気づいた時には、マンドラゴラの悲鳴が耳を貫いていた。




ーーー




「あ、覚めた?」


「ラルムアーズ君?」


「残念、私」


「何だ、いん……アグニスさんか」


「何だとは酷いな! レインさんを介護したのは私なんだよ! 私、魔物についてちょっと詳しいからさ」


 確か、この子は魔物学はいつもカレンと並んで満点だった気がする。

 そうか、わかった。

 この子はサキュバスなんだ。


「ありがとう」


「それにしては全然ありがとうって顔じゃないけど?」


「うっ」


 アグニスが私に顔を近づける。

 アグニスはうっすらと化粧をしており、とても可愛い。

 

「授業中、ずっと私のこと見てたよね? 訂正、ラルムアーズ君のこと見てたよね?」


「み、見てない」


「じゃあ、なんで目を合わせてくれないのかな?」


「それは……」


「好きなの?」


 顔が熱い。

 もしかしたら顔が赤くなってるかもしれない。


「お顔、赤いよ?」


「うっさい!」


「じゃあライバルだ。私もラルムアーズ君が好き。レインさんもラルムアーズ君が好き。負けないよ私は」


「望む所よ。私、カレン以外に負けたことないから」


 その答えに満足したのか、アグニスは笑顔になると保健室を出て行った。

 

「青春だね」


 遮蔽カーテンの先で保健室の先生の声が聞こえた。

 


 



 

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