第42話 魔女1

これは、今から100年以上前の出来事である。


「カレン、一緒にご飯食べよ」


「うむ」


 カレン……カレン・アミュレットは私よりもずっと小さく、ずっと強い。

 初めて会った時から私は勝てないと悟った。

 4色の魔法が使える私は、故郷で、過去最高に期待されていた。

 お前なら、王国最強、いや、世界を取れるとまで言われていた。


 だがこの魔法学校に来て、この子に会って、私はその期待に沿えないとわかった。

 テストでは常にお互い一位。

 100点満点までしかないためである。

 この記録は入学して卒業まで続いた。


「カレン、もっと食べないと大きくなれないよ」


「そんなことで身長が伸びるならいくらでも食べている」


 カレンは、身長130センチしかない。

 10歳を迎えた時から身長が伸びなくなったとのこと。

 

 魔法学校は世界から選ばれたものだけが入学を許される。

 そのため、ここにいるものは等しく優秀な人材だ。

 魔法学校は10歳から20歳までの10年間通うことになる。

 

 いくら最強の魔法使いと言われても、構造は人とは変わらない。

 そのため、年頃にもなると、それなりに誰かに恋心は抱くことになるし、性欲も出てくる。

 カレンは一切そういったことはなかったが……


「カレン、本当に好きな人いないの? 例えば……その、ラルムアーズ君とか」


「いないと言っているだろう。本当に君達はそういう話が好きだな」


 誰かに恋バナを振るとき、それはすなわち、聞いてほしいということだ。

 だが、カレンはそれがわからない。

 もしわかっていたとしても、振ることはしないだろう。

 なぜなら、面倒くさいからだ。


 だったら、他の人に振ればいいだろうだって?

 そうしたいのはやまやまだが、私がいなければ、カレンは一人ぼっちになってしまう。

 決して、他に友達がいないというわけではない。

 ただ、なぜか、私に対してみんなよそよそしいのだ。

 まるで、私のことが上級生に見えるみたいに。

 私と対等? に接してくれるのはカレンだけだった。




ー--




 わたしには好きな人がいる。

 それはラルムアーズ君だ。

 なぜ好きになったのか。

 そんなの私にもわからない。

 いつの間にか目で追っており、いつの間にか好きになっていた。


 ラルムアーズ君は、きれいなエメラルドグリーンの神に、優しい目をした男だ。

 成績は特別優秀ではなく、特別悪いわけではない。

 いわゆる平凡だ。

 

 そして私は好きと気づいてかれこれ2年が経過している。

 話しかけようと何度も試みたが、全てむなしく終わった。

 私がこの二年間で、ラルムアーズ君と会話した回数は11回。

 その全てをもちろん記憶している。


 卒業まではあと一年。

 もう時間がない。

 今年やらなきゃ、一生後悔する。


「あ、あのラル……」

「ラルムアーズ君、移動教室一緒にいこ!」


 そう、勇気を出したときに限ってこうだ。

 神は私のことが嫌いみたいだ。


「あ、あぁいいよ。レインさんも一緒にどう?」


「え、あ、うん。行き……ます……」


 前言撤回。

 神様ありがとう!!




ー--




「レインさん、さっきぶりだね」


 なんということでしょう。

 私は明日死んでしまうのでしょうか?

 今日の授業はグループワーク。

 4人1組になって行う授業だ。

 そのグループでわたしはあろうことかラルムアーズ君と一緒になった。


「そ、そうで、だすね」


 私の馬鹿ぁ。

 そうだすねって、なんだよ!

 まるで山賊みたいじゃないの!


「あはは、レインさんって面白いんだね」


 あー、同情されてる。

 死のうかな。


 この日の授業は授業の内容が全く耳に入らず、初めて先生に怒られた。


「レインさん、珍しいね。初めて見たよ」


「あ、うん。恥ずかしいところ見せちゃったね。死ぬね」


「え、あ、全然気にすることないよ! 僕だってしょっちゅう怒られてるし、それに……」


「それに?」


「なんか、レインさんもちゃんと年相応なところがあって可愛いって思った」


 ん? 今なんて? 可愛い? 私が?

 あ、夢か。


 こんな夢見ない方がいい。

 なぜなら夢が覚めた時、気の迷いで告白してしまいそうになるから。


 私は魔法で水を作ると、上から被せた。


「れ、レインさん!?」


 ほら、やっぱり夢だ。

 ラルムアーズ君が私の肩を掴んでいるし、顔が僅か数センチの距離にある。


 私はこの感触を抱きつつ、夢から覚めるため目を瞑った。




ーーー




「あ、よかった。気がついた〜」


 目が覚めるとそこには、あろうことかラルムアーズ君がいた。

 

 ここはどこ? 天国?


「レインさん、今日体調悪いのかな? 急に水を被り出してびっくりしたよ」


 え、どうして……これも夢?

 額をつねる。

 痛い。

 ってことは、現実!?

 

「ご、ごめんなさい! 今拭いてくる」


 ベットから起きあがろうとした所、ラルムアーズ君の腕によって塞がれた。

 胸に当たって。


「ご、ごめん。そんなつもりじゃ」

「好き」


 静寂が広がる。

 あれ? 今私はなんて言った?

 数秒前の記憶がない。


「やっぱり疲れてるようだから、今日はゆっくり休んで。先生には僕から言っておくから」


 そう言って、ラルムアーズ君は保健室から出て行った。

 

「青春だね」


 遮蔽カーテンの先から保健室の先生の声が聞こえた。



 

 



 

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