第41話 法外都市ラルム8
「あまり部下をいじめないでくれないか?」
レインが愉快そうに笑っている中、背後から声が聞こえた。
振り返るとそこにはこじんまりとした眼鏡をかけた少女が立っていた。
髪は肩まで伸びた綺麗な黒色。
小さな顔に大きな瞳は顔の幼さを強調している様に感じる。
しかしその少女からは恐ろしく大きな魔力を感じる。
なんなんだこの少女は。
フォーリンはその魔力に怯えている。
それもそうだろう。
フォーリンは私よりも魔力を感じられる。
私ですら大きく感じる魔力を更に大きく感じているのだ。
「れ、レイク様、逃げないと……」
「安心しろ小娘、小娘とそこの男には危害を与えるつもりはない」
私とフォーリンには?
つまりレインとエルメールには危害を加えるといった口振りだ。
「どうやってこの街に勇者が来てるのかと思ったらやっぱりあなたの仕業だったのね、カレン」
どうやら知り合いらしい。
待て、カレン?
どこかで聞いた名前だ。
「私もこんなことはしたくはないんだけど、ゴミクズ国王がうるさいんだ」
今国王のことをゴミって言ったのか?
なんて無礼な奴だ。
「じゃあ見逃してくれないかしら?」
「いいや、あなたの首を持ってこないとダメなんだ」
カレンと言われる少女がそう言うと、エルメールがカレンに極大の炎の弾を放った。
しかし炎の弾はカレンにぶつかることなく消滅した。
「エルメール、あんたは逃げな! こいつは化け物よ!」
「化け物……か」
「で、でもお婆さまが……」
「いいから! レイクとフォーリンを連れて遠くへ!」
エルメールはかなり狼狽えている。
レインは勝つ算段があるのだろうか。
「絶対に戻ってきてね!!」
そう言ってエルメールは私とフォーリンを拾い、テレポートをした。
ーーー
「お久しぶりね。何年振りかしら?」
「102年と3ヶ月振りだ」
時間が過ぎるのは早い。
魔女になってからよりそう思うようになった。
「あなたまだ、その
カレンは1初めて会った時からこの姿だ。
どうやら身体に満ちる魔力が成長を止めているらしい。
魔法学校にいた時もこの姿で、しかも主席でとても目立っていた。
「しょうがないだろ。成長したくてもできないんだ」
「はあ、羨ましいね。魔女でもないあなたがどうして魔女である私よりも魔力があるのよ」
「しらん、神に聞いてくれ」
神ね。
もし神がいるなら私はあの時を機に見放されているだろう。
「あなたなら魔王を倒すこともできるんじゃないの?」
「かもな。でも興味がない。それに……いやよそう」
「どうして勇者なんてしてるの?」
「それが一番楽だからだ。勇者というだけで金が貰える」
「昔からその合理的な考えは変わらないのね」
久しぶりの友人との世間話は楽しい。
柄にもなく昔を思い出させる。
しかしそんなひと時ももうすぐ終わる。
「ひとつ約束して。エルメールは見逃してくれないかしら。あの子は魔女じゃないし、才能がある。私の持てる術を一通り教えたわ。なんなら引き取ってくれないかしら? あなたならあの子を最強の魔法使いにできるわ」
「それは無理だな。私はあの子に嫌われる。引き取ろうと思っても断るだろう」
「フフっ、そうさね。あの子はあなたとは逆よ。あなたは魔力を抑えていることができているから今もその姿でいられるけど、あの子は逆に魔力が強すぎて成長してるの。本当は5歳なのに身体も頭脳も20歳以上よ」
「だからどうした?」
「あの子はあなたを超えるわ。見たくない? あなたを超える最強の魔法使いを」
「ふん、興味ないな」
フフっ、カレンはそう言っているけど、本当はめちゃくちゃ興味を示しているわ。
昔から興味あるものを見聞きすると、ニヤニヤする癖は直っていないのね。
遺言はのこした。
カレンならなんだかんだ言って、エルメールによくしてくれるだろう。
よく私がここまで生きてこれた。
中央国に密告した私が。
私のせいで多くの同志を失った。
私のせいでカレンに在らぬ噂をつけてしまった。
私のせいで、ラルムアーズ君が死んだ。
さようならエルメール。
ついでにレイクとフォーリン。
短い間だったが、実に楽しかったぞ。
私は魔力で刃を作り、自分の首を切断した。
ーーー
エルメールが急にテレポートを止め、振り返る。
理由は私にもわかった。
レインが死んだ。
フォーリンは口を抑えて泣いている。
エルメールは泣きたいだろうに我慢してテレポートを再開した。
そして家に着いた。
しかしその家は2階建てになっていた。
おそらくレインが死んだからだろう。
2階の増えていた部屋も無くなっていた。
「レイク君、フォーリンちゃん、大事な話があるの」
エルメールの表情は泣き顔と本気の顔が混ざった複雑な顔だった。
「今からレイク君とフォーリンちゃんを元の場所に戻す。でも、レイク君とフォーリンちゃんの記憶を消さなきゃいけないの」
「どうしてですか!?」
フォーリンが質問する。
「外に出てこの街の記憶を持っていると、この街の情報が外に出ちゃうことになるから」
「私たち、言いふらしたりしないですよ!!」
「でもダメなの……もしフォーリンちゃんの記憶を取られたりしたらこの街の情報が出ることになるの」
レイン亡き今、この街の安全を守るのはエルメールだろう。
いきなり役目を引き継ぐことになり、普通は混乱するはずなのにエルメールはその役目を果たそうとしている。
「でも、でも……」
フォーリンは目から涙が次々とこぼれ落ちている。
「お願い、わかって」
「フォーリン」
私はエルメールの頭に手を置いた。
「うわぁぁん!!!」
堪えきれなかったのだろう。
今までにないくらい涙を流している。
説明を終えるとエルメールは怪しげな飲み物を2本出してきた。
おそらくこれが記憶を消す薬だろう。
「さあ、これを飲んで」
しかしフォーリンはなかなか飲もうとしない。
そのとき、ドアが開いた。
ドアの前に立っていたのはカレンだ。
「さあ、早く!」
私はフォーリンの口に無理やり飲み物を注ぎ、私も一気に喉に流し込んだ。
「テレポート!」
ーーー
あれ? ここはどこだ?
今、いるところは辺り一面草花に囲まれた所だ。
思い出した。
馬が暴走してこんな変なところまで来てしまったんだ。
あれ? その馬がいない。
どうなっている……
フォーリンも同じなのか、辺りをキョロキョロしている。
「レイク様、ここはどこでしょうか?」
「わからない。お前が馬を暴走させてきたんだろ?」
「そうでしたね……あれでも馬は?」
「どこか行ってしまったようだな」
「えー!! じゃあ私たち遭難したってことですか!?」
「暴走した馬に放り出されて気絶した。そして気づいたら馬がいない。そんなところか」
「冷静に分析してる場合ですか!?」
「テレポート使って移動すればいいだろ」
「それもそうですね……あれ、でもどうやってテレポート使うんです?」
「それは……どうしてテレポート使えばいいと思ったんだ?」
「私にもわかりません」
「というか、お前、いつ着替えたんだ?」
フォーリンの服装はあの目立つ白から魔女を思わせる黒に変わっていた。
「え、な、なんで!?」
フォーリン自身もわからないといった様子だ。
「でも、なんだかこの服暖かいです」
フォーリンはなんだか嬉しそうだ。
あの白い服、なかなかの値段してなかったか?
すると、懐から一枚の紙がひらりと足下に落ちてきた。
「なんだこれ?」
「なんですか?」
紙には目を瞑っている私となんとも恥ずかしい格好をしたフォーリンが写っていた。
「ななな何ですかこれは!? レイク様見ないでください!!」
「あ、あぁ」
フォーリンに紙を取られた。
しかしなんだろうこの気持ちは。
懐かしいような悲しいような気持ちは。
「フォーリン! もう一回見せてくれ」
「はい」
この紙に写っているのはどこだ?
全く見覚えのない場所だ……
「レイク様……」
フォーリンの目には涙が浮かんでいた。
どうしてだろう、この紙を見ているとこちらまで涙が出てくる。
「フォーリン、行くぞ」
「はい」
こうして、次の目的地ブレイブ領へ向かうのであった。
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