第40話 法外都市ラルム7
「だが、条件がある」
「ほう、魔女に条件と?」
「魔女狩りが来るまででいい、無詠唱魔法を教えてくれ。それと魔女狩りを倒したらこの街から出してくれ」
「無詠唱魔法! 私も気になっていました!」
フォーリンも食いついている。
無詠唱魔法が使えれば戦略の幅が大きく広がる。
「フフ、まあいいだろう、だが、無詠唱魔法は無理だ」
しかし無理らしい。
「一応理由を聞こう」
「覚えても意味がないからだ」
「意味がない? どうしてだ?」
「聞かない方がいい……早速だ、朝早くにご苦労なことだ」
どうやら魔女狩りが来たらしい。
エルメールが颯爽と家から出ていく。
追いかけるべきか。
「やれやれ、私たちも行くよ」
そうして私たちもエルメールに追いつくべく家を出た。
ーーー
ようやくのこと、エルメールを見つけた。
だが既に1人の重装備をつけている男か女かわからない奴と対峙していた。
エルメールが幾度も炎系魔法をぶつけている。
しかし重装備の奴はびくともしていない。
どうやらあの装備は魔法を弾くみたいだ。
だが、重装備の奴は一歩も動いていない。
ただひたすらにエルメールの攻撃を受けている。
このままではエルメールの魔力が尽きて終わりだ。
止めて、私が戦った方がいいだろう。
「エルメール! こいつ魔法が効いてない、私と代われ!」
「まあ、見てな。エルメールも無策で戦う質たちじゃないよ。」
しばらくしてエルメールは炎系魔法を使うのをやめた。
すると、重装備の男は前に倒れた。
「何が起きたんだ……?」
「魔力中毒ですか?」
フォーリンがレインにそう聞く。
レインは無言で頷く。
「魔法には魔力が纏われている。どうやらあの鎧は魔力を分散させる様だね。だからあの相手の周りには四散されたエルメールの魔力が漂ってる。それを吸いすぎて魔力中毒が起きたんだね」
そんな戦い方があったのか。
私も一度魔力中毒を起こしたことがあるからその苦しさは痛いほどわかる。
「少年、あの鎧を奪ってきな」
「断る。敵とはいえ物を奪うことはしたくない」
「敵に情けは捨てな。奪うんじゃなくて無力化するんだよ。奴はまだ生きてる。殺さないだけありがたいと思いな」
レインの言葉は妙に沁みる。
たしかに戦いに情けは捨てなければならない。
レインの言葉は、まるで昔それで後悔したことがあるかの様な重みがあった。
「わかった。済まない」
言われた通り装備を剥ぐ。
まずは兜から。
兜を剥ぐと中には女の顔があった。
まさか女だったとは。
続けて鎧を剥ぐと、中から薄いインナーを着た細い体が出てきた。
しかしその細い体とは不釣り合いな大きな胸があった。
その為、思わず目を逸らす。
おそらく下は下着のままだろう。
その為フォーリンを呼んで代わってもらった。
剥ぎ終えると、レインが魔法でどこかへ消してしまった。
もしかして殺したのか?
「レイン、さっきの女はどうした?」
「安心しな。元の場所に戻しただけさね」
下着姿で外に出されるとは敵ながらに可哀想だ。
そういえばエルメールがいない。
もう次の魔女狩りの場所へ行ったのだろうか?
近くで煙が上がっている。
あそこだ。
煙の場所へ行くと、家が燃えていた。
燃え広がる炎をレインは一瞬で浄火した。
そして焼け落ちたドアから見えるのは3人の獣人の親子だ。
急いで外に出ようとしたが間に合わなかったのだろう。
胸糞が悪い。
そしておそらく張本人はエルメールと対峙していた。
先程もそうだったが、エルメールの様子がおかしい。
いつものちゃらけた雰囲気とは一転、とても恐ろしい表情をしている。
張本人の男は手から大きな火の玉を空中にいるエルメールへと飛ばしていた。
その火の玉をエルメールは水系魔法で相殺していた。
完全な膠着状態。
これは男に奇襲をしかけるべきか。
しかし相手の男はこちらに気づいた。
これでは奇襲ができない。
まあいい、エルメールの手助けにはなるだろう。
私はバース流『神速』で一気に距離を詰め、その速さのまま横薙ぎに払った。
しかしその攻撃は魔力障壁で止められた。
そして男の右手から大きな炎が形成されていく。
やばい、避けられない。
防がれた反動で少し硬直している。
当たる…と思ったが、こちらも魔力障壁で防げた。
私は魔力障壁が使えない。
これはフォーリンの魔力障壁だ。
しかし一回の攻撃で魔力障壁は砕けてしまった。
私の攻撃をもろともしないどころか、片手間で防ぐのか……
これが勇者の実力。
「ざまあないね。少しは使えるとは思ったが全くじゃないかい」
悔しいがその通りだ。
私は相手から気にも取られていない。
むしろ足手まといになってしまう。
くそっ、もう少しやれると思っていた自分が恥ずかしい。
「悔しいかい?」
「あぁ」
「力を分け与えるって言ったら貰うかい?」
力を分け与える?
今までの私なら断っていただろう。
しかし今のままでは役に立つどころか足を引っ張ってしまう。
プライドは捨てろ。
「貰おう、力を」
「ほう、てっきりプライドが邪魔で断ると思っていたのだかね。いいだろう。こっちへ来い」
レインに近づく。
そうするとレインは私の頭に手を置いた。
何かが体の中に入るのを感じる。
これが力なのか?
しかし入った力が抜けていく感じがする。
いや、逃げ出している?
それを感じたレインは頭から手を離した。
「残念だが、無理の様だ。何かが邪魔をしている」
レインがそう言った。
どういうことだ?
「おそらくだが、前言った黒い奴の仕業だろう」
「そうか……」
「しょうがない、魔女特製の支援魔法をかけてやろう! デメリットは1時間しか効力がない。そして終わった後は1日中動かなくなるだろう」
「待て、なんだその……」
「えい!」
私が止めることなく謎の支援魔法をかけられた。
なんだこの感じは。
力が漲みなぎる。
早く力を何かにぶつけないと自分自身が爆発してしまいそうだ。
先程の男に狙いを定める。
またバース流『神速』で距離を詰めて斬ろう。
そうと決まれば『神速』の構えをとる。
そして一挙に男に近づいた。
しかし勢いが凄く、そのまま男を巻き込んで吹っ飛んでしまった。
これではただの突進だ。
しかし、私自身痛くも痒くもない。
男は完全にのびている。
後ろを振り向くと誰もいない。
一体どれだけ吹っ飛んだのだろう。
急いで戻る。
しかし、走るスピードが尋常でなく、危うくフォーリンに突進しそうになった。
エルメールは呆気に取られていたが、こちらは降りてきた
「私の敵、奪わないでよ!」
「済まない、力が制御できないんだ」
「ほう、これほどまで強化できるのか」
レインが興味深そうに感想を述べている。
「もしかして使うの初めてか?」
「あぁ、だが安心したまえ、効力はさっき言った通りのはずさ……多分。さあ、次の魔女狩りを倒しにいこう」
私のことを実験台にしたのか!?
ーーー
次々と現れる勇者も、無事この力で倒せた。
その間、エルメールもレインもフォーリンも何もしていない。
剣を使うと相手が死ぬので、全て突進で倒した。
全身骨折ぐらいだろうが、死にはしないだろう。
そして倒れたそばから、レインがどこかへ飛ばしている。
というか勇者ってこんなことばかりしているのか?
私の中の勇者像が壊れていく。
勇者とは人々を魔王の脅威から遠ざけるための存在なのではないのだろうか?
次々と現れる勇者は皆、粗暴が悪い様に感じる。
本当に勇者なのだろうか?
というか勇者はパーティで活動するものではないのか?
現れるのは個人個人だ。
一気に送ればいいもののどうして時間差を開けて送るのか。
「レイン、本当に魔女狩りに来ているのは勇者なのか?」
「そのはずだ……しかしおかしい。どれも勇者に相応しくない者ばかりだ。それにパーティで来ないのも気になる。ちょいと拷問してみるかね」
そう言って気絶している男に治癒魔法をかけた。
男はすぐに目を開けるが、レインは男が起きてすぐに目と鼻の先に悍ましいオーラを放つ魔弾を生み出した。
「質問に答えてもらう。いいな?」
男はこくこくと頷いている。
正直敵ながらに可哀想だと思った。
「お前は勇者か?」
「ははははい!」
遠く離れていても感じるこの悍ましいオーラを間近で食らっている男は、震えて返事もろくにできていない。
「パーティはどうした?」
「その、俺、いや僕は今はソロでやっていて……」
「ほう、どうしてソロでやっている?」
「ちょっと、パーティでいざこざがあって……」
「そうか。誰の依頼でここに来た?」
「と、トリス国王です」
「報酬は?」
「1000万ゴルです」
「ほう、金に目が眩んで魔女を殺しにきたのか?」
「すすすみません! もう2度とこの様なことは致しませんので命だけはお救いください!」
「よかろう、もういいぞ」
レインさんは作った魔弾を取り消すと思いきや、大きな音を立てて爆発させた。
その音にびびって男は気絶したみたいだ。
股間から液体が出ている。
本当に可哀想だ。
対照的にレインは愉快そうに笑っている。
レインは敵に回してはいけないと再認識できた。
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