第38話 法外都市ラルム5

 空間転移。

 一般的にスクロールの中に封じられている魔法ですが、生で使う人もいます。

 ですが、それができるのは世界中に一握りでしょう。


 今、私は生の空間転移を経験しました。

 とは言っても感覚はスクロールとほとんど同じですが。

 ですがエルメールさんの使う空間転移は一気に移動できるわけではなく、数メートル先までしか転移できないみたいです。


 空間魔法はその高度さゆえ、大量の魔力を使います。

 3回連続で空間転移したエルメールさんは既に荒い息をして苦しそうです。


 男は硬直が溶け、こちらへ向かって走っています。


「はあはあ、まだ、まだいけるよ」


 エルメールさんはそう言うと、再び転移魔法を使いました。

 ですが、そこは先ほどの位置から2メートル程度しか進んでおらずほとんど進めていません。

 そしてエルメールさんは力尽きて倒れてしまいました。


「追いついたぜ」


「お願いします! 何でもするので命だけはお救いください!」


 もう絶体絶命です。

 レイク様たちがいる家までまだ距離があります。

 このままでは確実にやられます。


 一縷いちるの望みをかけて私は頼みました。


「何でも? おいおい女がそんなこと言っていいのか?」


 男は下卑た笑みを浮かべています。

 本能的に体がぞわぞわします。


「だが、おめえ顔はいいが体がざけえ。魔女の居場所を教えるだけで許してやるよ」


 なんですとー!!

 私はまだまだ成長するし!

 なんて言ってる場合ではないです。

 教えなければ殺される。


 教えたら?

 魔女とレイク様に危害が及びます。

 すみません、魔女様、レイク様。


 返り討ちにしてください……


「魔女の居場所はここを真っ直ぐ行って、右に見える不思議なお家です」


「そうか、案内しろ」


 私は男を家へと案内しました。

 心の中は不甲斐ない心でいっぱいです。

 エルメールさんは置いていけと言われたので置いていきました。

 道の真ん中に置いてあります。


 心が痛いです……

 目的の家に着きました。

 ドアを開ければそこにはレイク様とレイン様がいるはずです。

 ですが、開けてもそこには誰もいませんでした。


「おい、どこにいる?」


「にに2階だと思います」


 殺される恐怖から言葉が震えます。

 これで2階に居なかったら私は殺されるのでしょうか?

 それならそれでいいです。

 この人は強力なスキルを持っています。

 反射と言っていました。

 文字通り攻撃を跳ね返すのでしょう。

 そんなの倒せるわけが……


 瞬間、男の首が私の足元に転がってきました。


「きゃー!!」


「おう、彼氏いるのに男連れ込んじゃあかんでしょ」


 そう言って笑うのはレイン様です。

 レイン様は私の上にいました。

 男の首を落としたのはレイン様でしょう。


「今のが魔女狩りか?」


 2階からレイク様が降りてきました」


「あぁしつこいったらありゃしない」


 そしてレイン様は男の死体をどこかへ消してしまいました。


 私はただ呆然とするしかありませんでした。




ーーー




 私がレインからいろいろ聞いている時、急にレインが上に上がれと指示をしてきた。


「何が起きる?」


「魔女狩りが来るよ」


「どうしてそんなことがわかる?」


「言ったろ? この街の空間は私が管理してると。だからこの街に誰かが来るとわかるのさ」


「わかった。加勢は必要か?」


「今のあんたなんて戦力にならんよ。黙って上にいな」


 私が戦力にならないだと?

 舐められたものだが、悔しいが本当のことなんだろう。

 指示に従い2階に上がる。


 2階には本が沢山並んでおり、部屋の真ん中には壺が置いてあった。

 私は本棚から適当に本を一冊取り出す。

 しかし中身は全くわからなかった。

 別の言語のようだ。

 この世界の言語は万国共通のはずだ。


 ということはこれは人の言葉ではない?

 悪魔語か? それとも獣人の一部で使われている獣人語?


 他の本もそうだった。

 全く読めない。


 壺の中は何も入っていなかった。

 どうしてここに壺があるのかは疑問だ。

 何か調合しているのだろうか?


 他にこの部屋でめぼしい物はない。

 部屋に置いてある椅子へと座る。

 そうして5分くらい経った頃に家のドアが開けられる音がした。


 男の声が聞こえる。

 と思ったら女の悲鳴が聞こえてきた。

 この悲鳴はフォーリンだろう。

 何かあったか。

 私は急いで階段を降りる。


 そこで見えたのは、首を切断された男と呆然としているフォーリン、そして宙を漂うレインだった。




ーーー




「おや、エルメールはどこだい?」


「すみません、道の真ん中で置いてきちゃいました」


 フォーリンは俯いている。

 何があったかは容易に想像できる。


「そうかい」


 レインはそう言うと、ドアの前にエルメールを持ってきた。

 何が起きたのか。


 フォーリンも急にエルメールが隣にいてびっくりしている。


「あんた魔力使いすぎだよ」


 レインはそう言ってエルメールに手をかざす。

 魔力を分け与えているのだろう。

 簡単に行っているように見えるが、こんなことができるなんて聞いたことがない。


「あれ、お婆さま? 私は一体……」


「無茶しすぎだよ。魔女狩りを見つけても行っちゃ駄目だって散々言ってるだろう」


「ごめんなさい、お婆さま」


「ほらあんたも後ろ向いて」


 フォーリンは指示に従い後ろを向いた。

 そこには大きな切り傷がついていた。

 女にも容赦なしなのか。


 とてもイライラする。


 そしてレインの魔法でフォーリンの傷が癒えていく。

 赤く酷い怪我に見えていたが、いまや綺麗な元の白い肌となった。


「ありがとうございます。でも、せっかくいただいた服が……」


「気にしなさんな。エルメール、別の服を用意してやんな」


「はーい」




ーーー




「え、これだけは駄目です!」


「大丈夫大丈夫可愛いって!」


「えー、いややっぱり無理です!」


「大丈夫だって私を信じて! 前の服も好評だったでしょ」


「うー、本当に大丈夫でしょうか?」


「うん! とっても可愛い!」


 私は2階にいるが会話は全部聞こえていた。

 前の服も結構危なかったが、それより危ない服だったらエルメールに拳骨を食らわそう。


「レイク君、降りてきていいよー」


 そう言われ、階段を降りる。

 そしてすぐに二階に戻った。

 理由は勿論フォーリンの服だ。


 黒いコートをかけてはいるが、その中は殆ど裸だった。

 大事なところをささやかながら隠しているだけの服に、黒のミニスカート。

 白く綺麗なお腹が丸見えでとても直視できなかった。


「あら、レイク君ってけっこううぶなのね」


「エルメールさんのバカ!!」


「ははははは!!」


 フォーリンの泣いてるような怒ってるような声が聞こえる。

 エルメールは笑っている。 


「ちょっと撮らないでください!!」


「いいねえ次は腕を前に組んでみようか。」


 下が騒がしい。

 エルメールはしゃしんとやらを撮っているのだろう。

 ……想像するな私!




ーーー




 10分ぐらい経って下に降りていいと言われたので下に降りた。

 フォーリンの姿はさっきとは打って変わって、体を全部包む黒のローブを身につけていた。


 エルメールがこちらに近づき一枚の写真を渡してきた。


「お客さん、この写真一万ゴルでどうだい?」


 それは先ほどの破廉恥なフォーリンの姿が収められた写真だった。


「ちょっ、エルメールさん!! レイク様も見ないでください!!」


 フォーリンがこちらへ飛び込んできて写真を奪ってビリビリに破いてしまった。


「はあ……あ、そうです! あのオークを助けに行かないと!」


「フォーリンちゃん安心して、この街の住民はそんな簡単に死なないから。多分もう傷も癒えてピンピンしてるんじゃないかな?」


「え、そうなんですか?」


「少年には言ったが、この街の住民は人間と魔物の混血が大半を占めている。その為か再生力が桁外れて高いんだ」


「ちなみにこの街の住民は魔者ヒューマージと呼べ。魔物と一緒にしたら怒るからな」


「わかりました」


「それはそうと、今日はここで泊まるといい。2階に部屋を増やしておくからそこで寝な。ベットは一個でいいかい?」


「駄目に決まっているだろう!」


 最近やたらとフォーリンと寝ることが多い気がする。

 ベットが一つしかなかったので仕方なかったが、二つにできるのならそれに越したことはない。


 それに先ほどのフォーリンの写真を見てしまいフォーリンと一緒にいたらあの写真がフラッシュバックしてしまいそうだ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る