第36話 法外都市ラルム3

「そうさね。少し昔話をしよう」


「昔、とても優れた魔法使いがいました。その魔法使いは幼い頃から魔法の道を進み、魔法学校に入る頃には4色の魔法が使えました。周りからは1000年に1人の逸材と言われもてはやされていた魔法使いでしたが、魔法学校でとある魔法使いに出逢います。その魔法使いは全色の魔法が使えました。周りからは1000年に1人の逸材が1年に2人現れたと言われました。ですがそれを4色の魔法使いはよく思ってなかったのです。魔法学校を次席で卒業した4色の魔法使いは5色の魔法使いを越えるべく魔法の研究を日々重ねていきました。しかし研究に研究を重ねても5色の魔法使いはいつも4色の魔法使いの上を行っていました。そしてついに4色の魔法使いはこのままでは5色の魔法使いを超えることが無理だということを悟りました。そこで4色の魔法使いは部下と共に悪魔と契約をし、強大な力を手に入れて、5色の魔法使いですら作ることのできなかった核撃魔法を完成させました。その魔法は世界を変えてしまうほど強力な魔法でした。それを危機と思った世界は魔女狩りを始めました。魔女は強大な力を得たとしても数万の軍勢には勝てませんでした。部下を多く失った4色の魔女は自分の首を差し出すことで魔女狩りを終わらせました」


「どうだい? そこそこ面白い話だろう。嫉妬から生まれた愚かな物語さ」


 レインは自嘲気味に話す。

 魔女は本の中だけの伝説だと思っていただけに人間味があることについて驚いた。


「つまり貴方はその生き残りと?」


「そういうことさね」


「話を聞いた限り魔女狩りは終わったかの様に思えるが?」


 レインの話によると魔女狩りは1人の魔女の首で終わった。

 そしてレインは今、ここにいる。

 まるで魔女狩りから逃げているかの様に。


「終わったよ、表面上はね。でも裏ではまだ刺客が送られているね。なんだって魔女を滅ぼさない限り核撃魔法の脅威は続くからね」


 核撃魔法……

 初めて聞く魔法だ。

 世界の脅威になり得る魔法があるとなればそれを巡ってまた争いが起きるだろう。


「もしかしてレインも核撃魔法を使えるのか?」


「使えない……と言って信じられるかい? 実は言うとあれは完成していないんだよ。完成間近まではきていたけどね」


 完成していない?

 先程核撃魔法のせいで、魔女狩りが始まったと言ったばかりではないか。


「ではどうして完成なんて話が広まったんだ?」


「これが面白い話、5色の魔法使いの嫉妬から生まれた説があるのさ。5色の魔法使いは自分ではできなかった核撃魔法を完成しそうな4色の魔法使いを消すために当時の中央国王に告げ口をした。まあそれが定かかどうかはわからないけどね。」


 何が面白いのか私にはわからない。

 だが、レインは心底楽しそうに話した。


「つまり魔女は生きてる。そして未だに魔女狩りは続いてるということでいいか? ということは、レインも未だに魔女狩りに遭ってるのか?」


「あぁそりゃ日常茶飯事さ。どうやって来てるのかわからないが、この街に度々中央国から使者が送られてくる。その度にこの街の座標を変えなきゃならなくてね。正直うんざりしてるよ」


「座標を変える? この街ごと移動ができるのか?」


「正確にはこの街の概念を移動と言った方がいいかな。君もここに来た時違和感を感じなかったかい? 地図上にはないところに来ていると」


「あぁ確かにここはあるはずのない場所に存在していた。そういえばエルメールからここは選ばれた者しか来れないとあったが、詳しく説明をお願いできるだろうか?」


「選ばれた者かい。エルメールも適当なことを言ったもんだい。確かにここにくる条件は明確にある。あんたなら大方予想はできてるんじゃないかい?」


「いいや、最初は人の意思では来れないものと思ったのだが、ここには普通の人もいる様だ」


 私達は馬の暴走によってここに来た。

 それ以外に来れる心当たりが見当たらない。


「ほう、正解だ。ここには、人間が自分の力では来れないようになってる。ちなみに君が見えていた人間は殆どがハーフのはずだよ。純粋な人間の来訪者は君が久しぶりさ」


「この街は元々はラルムアーズとその生き様に賛同した魔女と人間によって作られた街だ。この街にいた人間は今や皆死んでいる。寿命でな。だが、血は今も続いている」


「魔物と人間の間に子供ができたということか!?」


「信じられないか? だが、これが真実だ」


 信じられない。

 交配はどうやってするのだ?

 まず、魔物は魔力から生まれるはずだ。


「魔物には生殖器がない。そう思っているね」


「あぁ、魔物は原則として魔力から生まれるはずだ。今まで倒してきた魔物からも生殖器みたいなものはなかったと記憶する」


「その通りだよ。だが、どうして生殖器がないのかわかるかい?」


 どうして生殖器がないか?

 考えたこともなかった。


「わからない……」


「それは知能がないからさ。つまり知能を身につければ人に近い存在となる。だからこの街の住民は皆同じ言葉を交わし生活している。だからこの街の住民のことを魔物と呼ばないでくれ。この街では魔者ヒューマージと呼ぶ様に」


「わかった」


「この街の存在意義はまさにそれだ。知能のない魔物を招き入れ、知能を与える。そうして人間との壁を無くし、ラルムアーズの目標であった人間と魔族との和平を成し遂げる。素晴らしいだろう?」


「確かにそれは理想の姿だ。だがそれはあくまで理想。現実にはなり得ない」


 私は言い切った。

 理由はいくつかある。

 まず、この街以外に住む人間が魔族との和平を望んでいない。

 それに、魔族も人間との和平を望んでいないだろう。


「私は何年かかっても実現させるよ」


 その言葉には本気の思いが込められていた。

 邪魔をする者は殺してでも成し遂げるという気迫があった。




ーーー




「魔女にそんな過去があったんですね。嫉妬する気持ちとてもわかります。エルメールさんも大変でしたね」


 エルメールさんから魔女の歴史について聞きました。

 嫉妬から生まれた悲劇。

 その悲劇の中にいたエルメールさんは今どんな心で生きているのでしょうか?


「なんで?」


 エルメールさんは意味がわからないといった感じで疑問を浮かべました。


「エルメールさんも魔女なんですよね?」


「いーや違うよ」


「え、そうだったんですか? でも最初会った時自分で自分のこと魔女だって……」


「そりゃ魔女になりたいよ。でもお婆さまがダメだって」


 そりゃそうでしょう。

 魔女になれば凄い力が手に入るかもしれないです。

 ですが、その代償は大きいと聞きます。


 レイン様はおそらく魔女でしょう。

 少しですが、嫌な感じがしました。

 それに私の来ていた服を嫌がっていました。


 ですが一応聞いてみます。

 もし魔女であったなら是非ともお話を聞いてみたいです。


「レイン様は魔女なんですか?」


「そう! でも、誰にも言っちゃダメだよ。この街に魔女狩りがいるかもしれないからね」


 さっき魔女狩りは1人の魔女の首で終わったと言ったばかりではないですか。


「え、魔女狩りは終わったのではないんですか?」


「終わってないのよこれが! ほんと嫌になっちゃう」


「でもここは選ばれたものにしか来れないって……」


「そのはずなんだけどねー。どうやってか来るんだよここに。しかも来るのは毎回勇者クラスの人間でさ、倒すのが大変で大変で」


 勇者を倒せるって凄すぎます。

 ん、待ってください。

 勇者がどうして魔女狩りなんかを。


「勇者ってあの勇者ですよね? 魔王から世界を守るあの……」




「なんじゃない? いつも来る時ご丁寧に名乗りをあげてくるから。我なになに王国より使わされた勇者誰々だーってね」


 私の中の勇者像が少し崩れた気がします。


「きゃー!!」


 数メートル先から女性の悲鳴が聞こえました。




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