第35話 法外都市ラルム2
「改めて。私はレイク・アレンシュタット」
「私はフォーリンです」
「私はそうさね、レインと名乗っとくかね」
「失礼だが、偽名なのか?」
「私は魔女だからね。本名は知られちゃあかんのさ」
やはり魔女だったか。
魔女は名前を知られてはいけないのか。
理由はおそらくだが、未だに魔女を狩ろうとする者がいるからだろう。
「あんた他に面白い特徴とかないのかい?」
「面白い?」
「今まで腐るほど人を見てきたからね。忘れてしまうのさ」
「私の父上は元勇者だが……特に話すようなことではないだろう」
「いいやあるね。その人が今までどういう風に生きて、どんな環境で育ち、誰と付き合い、どんな子供を産むか。人には人の人生がある。魔物にも同じように魔物の人生がある。だが一様に1人1つの人生しか味わえない。経験は武器だ。だから君の人生も知りたい」
経験は武器……
確かに私もそう思うが、レインが言うと重みが変わる。
「じゃあ、こちらから質問しよう。隣の女のことが好きか?」
「ななな何聞いてるんですか!?」
フォーリンが酷く慌てている。
一方レインはとても冷静だ。
さて何というべきか……
好きというのは簡単だ。
しかしこう言うと恋愛的に好きかどうかという質問が訪れる。
私は許嫁がいる。
一度しか会ったことはないが、それでも親達が決めてくれた相手だ。
裏切ることはできない。
質問に対して黙る私に対してフォーリンはチラチラとこちらの顔を伺っている。
「それは勿論好きだ。だが、恋愛感情は無い。まず第一こいつは許嫁の妹だ。恋愛感情を持ち合わせるわけがないだろう」
今ある気持ちをそのままぶつけた。
嘘をついてもこの人は見抜くだろう。
「そうか、つまらん解答だ。じゃあ女に聞く。隣の男は好きか?」
「……はい。理由はレイク様と同じです」
「その割には苦い顔をしているが?」
確かにフォーリンの顔は少し陰りがあった。
好きでないなら別に無理しなくてもいいのだが。
少し傷は付くが。
「お婆さま、フォーリンちゃんを虐めるのはやめてください。フォーリンちゃん、今から買い物に行くんだけど付き合って」
フォーリンの様子を見ていたエルメールはフォーリンを買い物に誘った。
好都合だ。
フォーリンがいると私も冷や冷やする。
それにこの人とまだ話したいことがある。
「はい、わかりました!」
フォーリンはこの場から逃げ出したかったのか、早い返事をし、席を立った。
そしてそのままエルメールと共に外へと出ていった。
「さて、邪魔者は消えた。聞きたいことがあるんだろう?言ってみろ」
やはり只者ではない。
顔に出ていただろうか。
「あぁ、魔女がどうしてここにいる? そしてここは一体どこなんだ?」
確か世界地図を見た時、ラーレン領の近くにこんなところはなかった筈だ。
それに魔物が平然と街中にいるなんて聞いたことがない。
「なんだ、そんなことかい。てっきりあんたの中にある黒い奴のことかと思っていたがね」
「私の中にある黒い奴?」
「心当たりがない? そうかい。まあそれならそうで、一つ忠告しておくよ。その黒い奴は今後あんたの障害となる」
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
「魔女の勘ってやつさね。それより、魔女がどうしてここにいて、ここはどこかだって?」
「あぁ、魔女は古くに討伐され尽くした筈だ」
レインはゆっくりと目を閉じ、こう呟いた。
「そうさね。少し昔話をしよう」
ーーー
フォーリン視点
私は今エルメールさんに連れられて街中へと買い物に出ています。
街はいろんな人や魔物で溢れており、かなり賑わっています。
魔物なので最初はびっくりしましたが、この街の魔物たちは人の言葉を喋り、日常に溶け込んでいます。
それに魔物特有の嫌な感じがしません。
前からオークの子供が走ってきて私の脚にぶつかってきました。
そのオークは人間にして3歳児程度の身長しかなく、私とぶつかって尻餅をついています。
そしてこちらを向いて「ごめんなさい」と謝罪をしてきました。
続いて大人のオークが現れ、「すみませんうちの子が。お怪我はされていませんか?」と丁寧な対応をしてくれました。
驚き続きであたふたしてしまいました。
ですが代わりにエルメールさんが対応してくれました。
「あはは、どう、この街は?」
「そうですね、こんな街があるなんて未だに信じられません」
「そうでしょそうでしょ! なんてったってここは偉大なる魔女ラルムアーズ様が作られた街だからね!」
ラルムアーズ。
その方は伝説とされている4人の魔女の1人です。
私の家にもラルムアーズの伝記がありました。
内容は世界中の生きとし生けるものは分かり合えると言うラルムアーズが、世界中を旅する物語です。
次々と魔物の心を掴む様子は子供ながらに衝撃だったのを覚えています。
確か伝記では最後は魔王に殺されて、魔族は敵だと言うことを再認識させられる内容だった気がします。
この街を見ると、ラルムアーズの理想が詰まっているのが見受けられます。
人も魔族も獣人も皆笑顔で会話を交わしています。
この街は今現在もあの伝記の内容が表れています。
もしかしてラルムアーズ又はその意志を継ぐものがこの街を支えているのでしょうか?
それとも、魔女パワーで生きてるとか?
「エルメールさん、もしかしてラルムアーズ様は未だにご存命なのでしょうか?」
「いいや、確かお亡くなりになってると思うよ」
やはり伝記は正しかったです。
最後は魔王に殺されたのでしょう。
ですがその前にこの街を作ったみたいです。
「そういえば気になったのですが、レイン様は魔女なんですよね? 確か魔女って昔に全員倒されたと聞いていたのですが……」
「フォーリンちゃん、会話はキャッチボールだよ! さっきフォーリンちゃんが質問したから次は私が質問する番!」
ここは不思議なところすぎてつい、質問攻めになってしまいそうになりました。
「フォーリンちゃん、本当はレイク君のこと好きでしょ? 勿論恋愛感情で」
!?!?!?
駄目なんです。
私はレイク様を好きになってはいけないのです。
レイク様にはお姉様がいて、私はただの旅のメンバーで……
「お顔真っ赤だよ?」
そう言ってからかってくる。
顔が熱い。
「どうなの? にひひ」
「その、駄目なんです! レイク様には許嫁がいて、その許嫁は私のお姉様で、私はただの妹で、攫われたお姉様を探す為のその時限りの関係で……」
「でも、好きなんでしょ?」
「……はい」
「許嫁がなんだ! 親が勝手に決めたカップルに本当の愛は存在しないね。断言できる」
「でも、レイク様は私のことを見ていませんし、私はそれでいいのです」
「そっか……でも後々苦しくなるよ?」
今でもすごく苦しいです。
でもしょうがないのです。
「わかってます。いつかキッパリ心の整理をしたいと思います」
「そんな簡単に忘れられるほど恋は弱くないと思うけどなー。ま、いいや。てか流しそうになったんだけど、お姉様を探してるの?」
「はい。実は4週間前に悪魔に攫われてしまいまして……」
「そっかー大変だね」
エルメールさんは酷く他人事の様でした。
実際他人事ではあるのですが、少しは心配して欲しかったです。
「えっと、魔女のことが聞きたいんだっけ?」
「あ、はい」
「まあ、お婆さまからの聞きづてではあるんだけど……」
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