第34話 法外都市ラルム1

 凄い魔法だ。

 これは空間魔法だろう。

 空間魔法は無属性魔法だが、使える人は一握りと聞く。


 しかもこの人は馬車を合わせて1t近くある私達を浮かせている。

 何者だろうか。


「貴方は?」


「まず、言うことがあるでしょ?」


 フォーリンが肘でついてくる。

 感謝を伝えないとと耳打ちしてくる。

 そうか、助けられたのだから感謝を伝えなければ。


「済まない、感謝を忘れていた。ありがとう」


「違う! 感謝は当然だけどもっと他に私を見て言うことがあるでしょ!」


 なんだ?

 私を見て……

 派手な服を着ている?


「派手な服だな」


 その瞬間、魔法を解除され、地に落とされる。

 不意だったこともありかなりの衝撃がきた。

 馬も倒れている。


「何をする!?」


「君が失礼なことを言うからでしょ! この服はね、お婆さまから引き継いだ由緒正しい魔女服なんだからね!」


 魔女だと?

 ついさっき聞いたばかりだが、現代に魔女が生存しているとは驚きだ。


 魔女は魔術を知るために悪魔に魂を売った者のことを言う。

 勘違いされることも多いが、魔女は女だけではなく男も魔女と呼ばれる。

 ただ、男は剣を女は魔法をという固定概念から魔女という言葉になった。


 魔女は魔族にも与しているということで昔の大戦で滅びたはずだ。

 魔女は今や伝説の存在。

 そして忌み嫌われる存在でもある。


 しかしこの女は自分の祖母を魔女と言った。

 そんなことを言えば世間から迫害を受けそうなものだが……


 女は地面に降り立ち、こちらへ近づいてくる。


「あれ、よく見たら良い男じゃん。隣のお嬢さんも可愛い」


 可愛いといわれフォーリンは嬉しいのか少し照れている。


「で、君は誰なんだ?」


「んーまあ、イケメンに免じて許したげる。私の名前はエルメール。見ての通り魔女よ!」


 黒髪黒目、紫のコートに紫のとんがり帽子、先のとんがったブーツ。取ってつけたような魔女姿だ。


 しかし現代に魔女を名乗る者がいるとは……

 魔女狩りに間違われても知らないぞ。

 年齢は歳上かと思ったが、近くで見ると幼く感じる。20歳ぐらいだろうか。


「私の名前はレイク・アレンシュタット」


「私はフォーリンです」


「レイクにフォーリン、歓迎するわ。ようこそ法外都市ラルムへ!」




ーーー




 街の様子はランス王国と似て人がごった返している。

 しかし気になる点があった。

 魔物がいる……

 魔物だけではない、獣人や巨人もいる。


「しっかしよくこんなところへ来れたね。ここは普通は来れないよう認識阻害の結界を張ってるんだけど……」


「私もここにくるつもりはなかった。ただ馬が言うことを聞いてくれなくてな」


「あーね。ここは選ばれた者にしか来れないようになってるの」


「選ばれた者?」


「そう、選ばれた者」


「その選考基準はなんだ?」


「んーわからない。だって結界を張ってるのは私じゃないし」


 フォーリンがさっきから腕に抱きついている。

 魔物にビビるタチではないだろうに。

 正直鬱陶しいし、動きにくいが、さっきのこともあるので今日だけは好きにさせてやろうと思う。


「はい、ここが私のうち!」


 そうして連れてこられたのは物理法則を無視したキテレツな家だった。

 地震が起きれば転倒してしまうんじゃないかと思わせる。

 一階と二階がずれており、二階が前に出ている。

 そしてその二階よりも前に出ているのが三階だ。


「うわぁ凄いお家ですね!」


「わかってるじゃん! 私の自信作なの!」


「自分でお作りしたんですか!?」


 先程までじっとしていたのにキテレツな家を見ると、目を輝かせた。

 魔法が家の至る所にかかっているのがわかる。


「あったりまえよ! ほら入って入って、自慢したいところが沢山あるから!」


 そうして中に招待された。

 一階内装は想像よりシンプルで、広めの空間に大きめなテーブル、派手な椅子、クローゼット等の普通の家庭となんら遜色のないレイアウトだった。

 壁には大きな肖像画が飾ってある。

 その肖像画を見ていると、エルメールから声をかけられた。


「その肖像画は私のお婆さま」


 エルメールが静かなトーンでそう教えてくれる。

 先程のテンションとのギャップでこちらも少し寂しい気持ちになった。


 その肖像画の人はエルメールと同じような服装をしている。

 若い頃の姿だろうか。

 長い茶色の髪に、キリッとした目。

 失礼だが、今にも動き出しそうなリアルさが少し不気味だった。


「私が美しいのは自他共に認めているが、そんなにまじまじと見るな」


「うわぁ!!」


 思わず尻餅をついてしまった。

 なぜなら肖像画が喋ったからだ。


「はっはっはー、良い驚きようだ少年」


 そう言う絵画はこちらへと歩いてきて、絵画の中から飛び出してきた。


「お婆さま!」


「おい、お婆さまとやらは亡くなったんじゃなかったのか!?」


「え? 私が一言でもお婆さまが死んだなんて言った?」


 そう言えば言っていなかったなこいつ……


 しかしあの表情は作り物だったのか。

 驚かせるために変な芝居をしやがって。


 お婆さまとやらとエルメールはハイタッチをしている。


「んで、君は誰だ? もしかしてエルメールの恋人かい?」


「ち、違います!」


 そう言うのは、フォーリンだ。

 どうしてお前が答える。


「おや、いたのかい? 影が薄くて気づかなかったよ」


「影が……薄い……」


 フォーリンは何やらショックを受けている。

 いや割と存在感あるとは思うが……


「薄影、その服から嫌な感じがするから今すぐ脱いでくれないかい?」


 絵から出てきた女は露骨に嫌そうな顔をし、フォーリンにそう言った。


「え、すみません。着替えがこれしかなくて……」


 瞬間、フォーリンは下着姿になった。

 何をしたのだろうか。

 おそらく魔法だが、いつ魔法をかけたのか全くわからなかった。


 フォーリンは何が起きたかわからない様子だ。

 そして徐々に自分の姿を認識し、顔を赤らめる。

 私は急いで目を背ける。


「きゃー!!」


 フォーリンの悲鳴が聞こえる。


「貧相な身体だね。ちゃんと飯食ってるのかい? エルメール、あんたの服貸してやんな」


「はーい」


 伸びた返事をしたエルメールは鼻歌を歌いながらクローゼットから服を取り出しては、んー違う、んー違うと言っている。


「よし、これがいい!」


「え、これはちょっと大胆過ぎませんか?」


「大丈夫大丈夫! 可愛いって!」


「そうですか? ちょっと恥ずかしいです……」


 着替え終わったのか、うん! やっぱり可愛いと聞こえた。


「イケメン君、こっち見ていいよ」


「私の名前はレイク・アレンシュタットだ」


 振り返るとそこには、短いスカートを必死に伸ばしてモジモジしているフォーリンの姿があった。

 フォーリンの服装は黒で統一されており、白い肌と相まってなかなかいいコントラストを描いている。


 だが、肝心の服だが、鎖骨がはっきり見え、短いスカートから白く細い脚が見えている。

 高貴な感じを出しつつ、可愛らしさを出していて、フォーリンにかなり似合っていた。


「その、どうですか?」


「あぁ、けっこういいんじゃないか?」


「そ、そうですか。よかったです」


「ほら、よかったじゃん! 流石私、後で写真を撮らせて」


「しゃしん?」


「そうそう! 私が最近開発した空間魔法を応用して、その時のことを一枚の絵として残すことができるの!!」


「ん……つまり、私が今見ているものを瞬時に絵にするみたいな感じですか?」


「理解が早くて助かるよ! そんな風に思ってもらって大丈夫」


 しゃしん……

 聞いたことのない機械の名前だ。

 瞬時に絵にするとは凄いとは思うが、何に使えるのだろうか。


「聞くより実践した方が早いよ! はい、こっち見て〜」


 エルメールの言う通りエルメールの方を向くと、エルメールは何か機械を持っていた。

 そして、機械のボタンを押した。


 何も起きない。

 何か来るかと思って構えたが、不要だったみたいだ。

 と思ったら、機械から紙が一枚出てきた。


「ハハハハハ! 見てこれ! ハハハハハ!」


 エルメールから紙を渡される。

 そこに映っていたのは私とフォーリンだ。

 しかしフォーリンは表情が固く、私に至っては目を瞑っていた。


「なんだこれは!?」


 エルメールに聞いてはみたものの、未だに笑い転げている。

 そして少し収まったのちにこう答えた。


「だから、写真だってば。この機械に写した物が瞬時に記録されて写像されるってわけ」


 そして言い終えると、また笑い始めた。

 くそっ、この男が私か?

 別に顔がいいことを言いたいわけではないが、取り直しを希望する。


「もう一度撮り直せ!私の目が閉じているではないか!」


「ハハハハハ! やめて、死ぬ〜」


「あの、私も取り直して欲しいです」


 フォーリンも撮り直しを希望している。

 別にフォーリンは普通だとは思うのだが……


「わかったわかった。でも、次撮るにはインターバルが必要だから、それまで待って」


「もう済んだか? 私はまだ君たちの自己紹介を貰っていないんだが?」


 絵から出てきた女がそう言う。

 そういえばそうであった。

 私もこの女が気になる。


 フォーリンの服を嫌がると言うことは悪魔に準ずる何かということだ。

 ことによっては敵かもしれない。


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