第32話 ラーレン領7
はっはっはー、馬鹿め。まんまと引っかかりよった。
我輩ともなると魔力を抑えるなんてお手のものなのだよ。
あの忌々しい女の一撃を食らいそうになった時は冷や冷やしたが、無事騙すことに成功した。
現在、我輩は骸骨となり滝の外へと向かっている。
理由はあの男の体を得る為だ。
我輩はしっかりと確認した。
あの男の中にある黒い感情を。
黒い感情がある者には乗っ取りやすい。
アイシェといったガキは憎悪に満ちていた。
その為乗っ取ることなんて容易であった。
当初はアイシェの体でこの領地全員の魂を回収するつもりであったが、あの男の体ならもっとでかい魂を取ることができる。
そして魔界に戻り、魔王様の護衛に選ばれるのだ!
骸骨の体は脆いが軽い。
水の上なんて楽々走れる。
滝は我輩の魔力障壁でガードした。
はっはっは、運がいい。
滝の前にあの男が倒れているではないか!
さっそく乗っ取るとしよう。
骸骨の体を手放し精神生命体の形に戻る。
悪魔が離れた骸骨はその場で崩れ、湖に浮かんでいる。
男に触れる。
乗っ取る方法は簡単だ。
体に触れて、中に入るだけだ。
悪の心を持てば持つほど乗っ取りがうまくいく。
よし、中に入れた。
あとは心に侵略するだけ……
なんだこいつ……
おかしい、心が二つある?
(見るな!!!)
二つのうち、黒い心を覗いてみたら我輩よりも憎悪の籠ったやつがいた。
我輩よりも上位の悪魔か?
いや違う、誰だこいつは。
だが、先客がいるだと……
そんな風には見えなかったが。
くそっ作戦失敗だ。
今すぐ戻らねば。
外に出るが、この男の他に乗り移れそうな者がいない。
しまった。
焦って湖の上で骸骨を手放さなければよかった。
ひゅん
我輩の顔スレスレに光の矢が飛んできた。
もう戻って来たのか。
振り返るが、そこには誰もいない。
続けて光の矢が滝の中から飛んでくる。
あの女どんな魔力してんだ?
魔法というのは基本的に脆い。
強い力の前では通じない。
例えば鋼の鎧に魔法の矢を撃っても貫けず、魔力が四散する。
あの滝は常に大きな力を下に与えているため、生半可な魔力なら通すことはない。
だが、あの女が放った矢は威力を落とさずこちらへ来る。
くそっ、どうするどうする。
このままだとやられてしまう。
まだ名を貰っていないのに……
光の矢が我輩を貫通する。
「ぐおおおお」
熱い熱い熱い熱い熱い熱い
光が体内を燃やしているようだ。
そして数発、体を貫通した。
どうして場所がわかるんだ?
滝で見えないはずなのに……
くそっ、また最初からやり直しかよ……
せっかく20人近くの魂を食らったのに……
まあいい、次はうまくやる。
ーーー
無事倒せました!
一時はレイク様に取りつこうとしていて焦りましたが、なんとかなったみたいです。
え?私がどこにいるかって?
私はずっと滝の前に居ましたよ。
『ホーリーベール』
悪き心を持つ者には見えなくなる魔法です。
レイク様褒めてくれるかな?
弱ってるレイク様ならもしかして褒めてくれるかもしれません。
「レイク様、無事倒しま……し…レイク様! レイク様!」
顔色がかなり青白い。
息も荒い。
さっきの悪魔の仕業でしょうか?
『ギガヒール』『ギガヒール』
しかし顔色が良くなりません。
どうしましょう。
もしかしてポーションを一気飲みしたのかもしれません。
ポーションを確認する。
しかし少しも服用されていません。
どうしたらいいでしょう……
涙が自然と出てきます。
「あぁどうしたら……誰か……お願いです……レイク様ぁ」
しかし周りには誰もいません。
これはスクロールで一回ランス王国に戻った方がいいでしょうか……
いつもはレイク様がいろいろ決めてくれるので私が決めるのは難しいです。
ですが、戻らないとレイク様が死んでしまうかもしれません。
「フォーリン……大丈夫だ。ちょっと、嫌な夢を見ただけだ。」
私がポーチからスクロールを出して広げる前にレイク様が目醒めました。
ですが、相変わらず顔色が悪いです。
「レイク様ぁ」
「あぁだから泣くな」
「はい」
ーーー
またこの夢か。
目の前の男は同じ歳ぐらいの男と口喧嘩をしている。
聞きなれない単語だらけで意味がわからない。
しかし、相手の男が目の前の男に対して失礼なことを言い、それに怒っていることはわかった。
急に場面が変わる。
今度は部屋の机に蹴りを入れ、破損させている。
代償に足を抑えて痛がっているが……
その音に気づいた父親らしき男が部屋に入ってきて、怒っている。
息子の方はそれに逆ギレしあろうことか父親に対して手を出した。
父親の方は口から血を流している。
そして我に返ったのか、父親に必死に謝罪を入れている。
また場面が変わる。
男は機械いじりに熱中している。
そして飽きたのか机に座り、勉強をする準備をした。
その時に部屋の外から母親らしき女から何かを言われ、これまた逆ギレし、教科書をドアに投げた。
そしてまた場面は変わり……
私は一体何を見せられているのだろうか。
見るからにこいつはまるでダメな男だ。
怒りっぽく手がすぐ出る。
あろうことか親にも手を出す。
親も親だ。
子供にそうさせない程の威厳を持て。
そうすれば子供に反抗されなくて済むのだ。
次の場面はなんだ……暗い。
ひたすらに暗い。
だが、その暗い空間に1人の男がいた。
例の男だ。
本当になんなんだろうか。
どうして私の夢に出てくるのだろうか。
男はこちらをじっと見てくる。
「いいよな、恵まれた環境に生まれて」
何を言っている……
「イケメンで、強くて、許嫁もいる……」
私のことを言っているのか?
どうして私のことを知っている?
「俺からはマ◯チ◯を奪い、今は白髪の美少女といる……」
マ……なんだって? 白髪美少女? フォーリンのことか?
貴様は一体誰なんだ!?
「いいよなぁ勇者になればハーレム作り放題じゃん」
くそっ、私の言うことが聞こえていない。
「ずるいな、俺だったらもっといい立ち回りをできるのに……」
さっきから何を……
「いいなあずるいなうらやましいないいなずるいなうらやましいないいなずるいなうらやましいな……」
何を……
「頂戴」
瞬間首を凄い力で掴まれる。
「頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴……」
く、苦しい。
これは夢ではないのか?
もしや現実か……
まずい、このままでは……
瞬間大きな光に当てられた。
優しく、落ち着く光。
そしてその光と共にあの男の呪縛から解き放たれた。
「あぁどうしたら……誰か……お願いです……レイク様ぁ……」
目の前に涙を流しながら狼狽えているフォーリンがいた。
もしかしてさっきの光はフォーリンがしてくれたのか?
「フォーリン……大丈夫だ。ちょっと、嫌な夢を見ただけだ」
「レイク様ぁ」
「あぁだから泣くな」
「はい」
体がだるい。
そういえばあの悪魔は倒したのだろうか?
「フォーリン、あの悪魔は?」
「ぐずん、はい、私が倒しました」
未だ涙を堪えきれないフォーリンはそう答えた。
「そうか、よくやった」
つい柄にもなく頭を撫でてしまった。
泣いている女を見るとつい宥めようと頭を撫でてしまう。
妹はだいたいこれで泣き止んだ。
だがフォーリンはキョトンとした顔をしたかと思えば、少しニヤけている感じもする。
感情の忙しいやつだ。
まあ、泣き止んだならこれでいいか。
「あ、そうでした。アイシェちゃんもこの通り無事です!」
アイシェはボートに揺られ横になっていた。
「そうか。じゃあ戻るか」
「そうですね」
こうしてアイシェも助け出すことに成功し、この領地で残すはあとは領主の処分だけとなった。
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