第31話 ラーレン領6
ラーレン領に戻って私とフォーリンは領民に声をかけ、アイシェの行方を探した。
しかし探し始めて1時間が経つが、未だ目晴らしい情報が手に入らない。
本当にどこへ行ってしまったのだろうか。
「おーい、レイク様〜」
領民の男がこちらへ近づいてくる。
そしてその手には小さな靴があった。
「これ、もしかしてアイシェちゃんのものでねぇですか? あのぬまとこさまの池の上に浮かんでましたぁ」
「本当か!? フォーリンにも伝えといてくれ」
私はすぐあの池へと向かった。
ここは昨日までとは違く、嫌な感じがしない。
あのでかウナギももうやってこないだろう。
ん……待て、あのでかウナギは一体どこから現れたんだ?
滝の中からきたということは、滝の中には何かがあるということではないか?
調べなくてはならない。
私は滝の前の土地に移動し、アレフ流『豪覇』を打った。
『豪覇』は重い一撃を振ることで衝撃波を生み出す技だ。
溜める時間が長くなり実践的ではないが、こういったことに役立つ。
『豪覇』にて一瞬滝が左右へと割れる。
滝の中は思った通り空間があった。
しかし中は陸地がなく泳いでいくしかない様だ。
可能性はゼロに近い。
だが、もしかしたらこの中にアイシェがいるのかもしれない。
可能性がゼロではないなら行く。
滝が元に戻る……早く入らなくては。
滝の内に入ると中は当然暗く、前が見えない。
こんなとき役立つのが発光石だ。
ポーチから発光石を取り出し魔力を込める。
そうして魔力に応じた光が辺りを照らす。
広いな……
中は想像より深く、奥が見えない。
そして時期が時期な為、冷水が容赦なく体力を奪う。
だが、そんなことを考えている暇などない。
私は前へと進んだ。
5分ほど進んだところで陸地に着いた。
だが、相変わらず奥が見えない。
とりあえず服に水が吸って重い。
装備を脱いで、炎と風魔法を合わせて速乾性のある風を作り乾かした。
装備を付け直し奥へと進む。
奥に進めば進むほど嫌な感じがする。
確実に奥に何かがいるのが分かる。
もしアイシェがそこにいるのであれば助け出さなければならない。
カランカラン
何かを蹴ったようだ。
発光石を近づける。
骨だ。
辺りを見回すと至る所に骨が転がっている。
他にもくすんだ布切れが散らばっている。
推測するにこれは今まで生贄になった者達の亡骸だろう。
だが、あのでかウナギはフォーリン達を丸呑みにしようとしていた。
つまりあのでかウナギは飲み込んだ後、ここまで来て吐いていたのか?
「お前も馬鹿だなあ。わざわざこんなところに来るなんて」
「誰だ!?」
発光石を照らすと目の前には見たことのある派手な服を着た幼子……アイシェがいた。
「貴様、誰だ?」
「お探しのアイシェだよ……なんて嘘は通じないか。我輩のことを忘れるなんて酷いじゃないか。我輩の計画を邪魔しておいて。」
こいつはもしかしてあのでかウナギに乗り移っていた悪魔か?
生き延びていたのか。
「あの忌々しい女は連れていないのか。はっはっは、好都合だ。この女を返してほしいか?」
「返してほしいと言ったら返してくれるのか?」
「はっはっは、もちろんだとも。だが代わりにお前の体をいただくぞ」
くそっ。
この悪魔を切り捨てたいが、アイシェの体を傷つけてしまう。
今は一旦戻ってフォーリンを連れてくるしかないか。
アイシェがこちらへ歩いてくる。
「どうしたの? 逃げないでよー寂しいよー」
わざとらしい言葉に苛立ちを覚える。
「来るな!」
「酷いよ〜お兄ちゃん〜」
まずはフォーリンを連れてくる。
その為にまずここから出なくては。
目を塞ぎ、手に持つ発光石に大量の魔力を注ぐ。
発光石はその魔力に応じて眩い光を放った。
これで目眩しになっただろう。
この隙にバース流の足捌きで一挙に来た道を戻る。
そして水が見えてきたのでバース流『水面渡り』で水を一回蹴り、滝の前に着水した。
くそっ、水の中だと剣が振りにくい。
これでは滝を破ることができない。
しょうがない、滝の下を潜って通るしかない。
水圧が凄い。
痛みと共に体が湖の底へと沈んでいく。
だが、なんとか潜ることができた。
やばい、息が苦しい。
早く顔を出さなければ……
ぷはっ
死ぬ寸前だった。
ここまで苦しい思いをしたのは父上からの初めての実践練習をした時以来かもしれない。
「レイク様!」
丁度ボートに乗ったフォーリンと出くわし、差し出してきた手を掴む。
そして引き上げてもらい、無事ボートへと乗り込むことができた。
「大丈夫ですか!?」
「はぁはぁ、大丈夫だ、はぁ、それより、中にアイシェが、いる」
「え、どうして!?」
「昨日払った悪魔が、取り憑いていた」
頭がクラクラする。
酸欠だろう。
力が入らない。
「レイク様、本当に大丈夫ですか?」
「悪い、ヒールをかけてくれ」
「はい、『ヒール』」
暖かい光が私を包む。
しかしこの気分の悪さは晴れない。
「もしかして魔力酔いを起こしているかもしれません」
魔力酔い…
瞬間に強い魔力を浴びたときに起きる障害だ。
恐らく発光石に魔力を込めすぎて耐性が落ちていたのだろう。
「レイク様はここで休んでいてください。私一人で行ってきます」
「駄目だ、俺も行く」
「大丈夫です。悪魔相手なら負ける気がしません。それになにより今のレイク様がいたら足手まといです」
「足手まとい……」
「はい、足手まといです。たまには私に頼ってください」
フォーリンはいつにもましてどや顔を見せてくる。
いつもならデコピンをするところだが、今回は頼もしく見えた。
「そうか、わかった。無理はするなよ」
「はい!」
そうして、私は一度滝の前の土地へと置かれた。
「あ、これ飲んでおいてください」
そうして渡されたのは緑の液体が入った小瓶だ。
「ポーションです。一気に飲まないで少しずつ飲んでくださいね」
少しずつ飲む理由は魔力を一気に体内に入れない為だろう。
特に今は魔力酔いが起きている状態だ。
フォーリンの言う通りにしよう。
「あぁ、ありがとう」
「いえいえ、では行ってきます」
そうしてフォーリンは滝の方へボートを漕いで行った。
ーーー
レイク様からありがとうが聞けるとは……相当弱っていると見えます。
あの人は照れ屋なのでお礼はいつも「済まない。」と固いのです。
俄然やる気が出てきました。
ここで成果を出して次はよくやったなって言われたいです。
ボートを漕いで騒音を奏でる滝の前に来ました。
目の前には広がる滝は魔力障壁を展開し楽々通ります。
滝の内側は暗いので、私は『ホーリーライト』を使って進みます。
5分ほど進むと陸地に着きました。
奥から明かりが見えます。
おそらくそこにアイシェちゃんがいるのでしょう。
少し進むと急に奥の明かりが消えました。
おそらく発光石に込めた魔力が切れたのでしょう。
「きゃっ!」
骨が、骸骨が沢山転がっています。
そしてその骸骨に服がかかっているものもあります。
そしてその骸骨は皆小さいです。
もしかしてこれは今まで生贄になった子達の亡骸なのではないでしょうか?
……そういえば魔力を感じません。
おかしい、レイク様の話が本当なら奥には悪魔が乗っ取ったアイシェちゃんがいるはずです。
悪魔の魔力は禍々しいので感じるはずです。
ですが、その魔力を感じません。
「アイシェちゃん!」
奥まで来ると、倒れているアイシェちゃんがいました。
アイシェちゃんからはあまり魔力を感じません。
息は……しています。
よかった。
ぱっと見だ感じ怪我もありません。
一応服を脱がします。
「酷い……」
服の下はあざだらけでした。
目には見えないところに至る所に。
悪魔に実体はないため、悪魔が暴行を与えたとは考えにくい。
それにどのあざも最近のものではない……
あの性癖異常者の仕業だ……
許さない……絶対に。
とりあえず背中に背負って外に出ようと思います。
アイシェちゃんを背負って来た道を戻ろうとした時、何かが歩く音が聞こえました。
暗くてあまり見えません。
何でしょうか。
嫌な予感がします。
私はアイシェちゃんを背負って足早に歩き始めました。
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