第30話 ラーレン領5
朝、日がまだ登りきっていないとき私は目覚めた。
理由は簡単だ。
フォーリンの寝相が悪く、私の気道を締めていたからだ。
当のフォーリンはよだれを垂らしながらだらしなく寝ている。
その綺麗なデコにデコピンを喰らわせたいところだが、気持ちよさそうに寝てるので、憚られた。
ゆっくりとベットから出る。
顔を洗い、朝食を作ろうと思い、フォーリンを起こそうとまたベットへと戻る。
しかしそこであるものを見つけた。
これは……パンツか?
ベットの側に女ものの下着が落ちていた。
もしや、フォーリンが昨日つけていたものか?
もしかして今、フォーリンは……
「あ、レイク様、おはようござい……ま……」
どうしてこんな都合の悪い時に目覚めるんだこいつは!!
フォーリンが今見ているのは、パンツを持った私だ。
まずい、これでは私が取ったみたいじゃないか!!
「誤解だ! 私はただベットに落ちていたから拾っただけで……」
「はい……大丈夫です。ですので、その、パンツ返してください」
糾弾されると思ったが、フォーリンは冷静だ。
いや、普通考えてそうだ。
私はただパンツを拾っただけ。
脱ぎ捨てたのはフォーリンだ。
私は悪くない。
私はパンツをフォーリンへと投げると、フォーリンは恥ずかしそうに布団の中でゴソゴソしだした。
「その、昨日のことは覚えていませんよね?」
「何のことだ?」
「いえ、なんでもないです。それより、さっきのは忘れてくださいね」
「あぁ」
忘れられるわけないだろ!!!
今はまだ馬車が来るまで時間がある。
ここで何か朝食を食べていきたいところだが、勝手に台所を借りても良いだろうか?
まあ、家主の分も作れば大丈夫だろう。
「フォーリン!」
「は、はい!」
何やら緊張している。
先程のことを引きずっているのだろう。
「だいぶ早いが朝食を作るぞ。家主の分もな」
「わかりました」
フォーリンと共に朝食を作る。
空間魔法は便利なもので、中に入ったものは時間が停止しているらしい。
その為生物でも保存ができる。
フォーリンが持って来ていた肉と野菜を炒めた簡単な野菜炒めだ。
正直貴重な野菜を使うのは憚はばかれたが、部屋を貸してくれた恩も込めて、振る舞おうと思う。
匂いに気づいたのか例の男女も顔を出してきた。
「台所を勝手に借りてる。大丈夫だったか?」
「はい。もちろんです」
そして完成した料理を並べていると、男女は棚から瓶を取り出してきた。
「これは?」
「この領地の特産物のオランです」
男が瓶の中身をコップに注いだ。
黄色の飲み物だ。
さっそく口にする。
「っ……」
「酸っぱい!」
フォーリンが素直な感想を口にする。
「はっはっは。そうでしょう。これでも果実のままよりは抑えてあるんですよ」
「そうなんですか? でも、なんだか癖になりますね」
「そう言っただかれると幸いです。ぜひ、持って行ってください」
男はそう言うと、瓶を新たに3本差し出して来た。
「ありがたく頂こう」
ーーー
朝食を終え、馬車乗り場へと向かう。
しかし時間になっても馬車が来ない。
「いないですね……」
「そうだな……」
どういうことだろうか。
もしかして何かあったのだろうか?
「レイク様ー!!」
馬車乗り場で待っていると、領主がこちらへ向かって馬車できた。
「どうした?」
「そのですね、実は数年前から馬車が来なくなりましてね。今はランス王国としか交流が無いのです。なので私めがお送り致します」
「わかった。では頼む」
ーーー
馬車に揺られて小1時間が経過した。
ふと気になったことがある。
アイシェのことだ。
そういえば昨日の宴にも来てなかった気がする。
一体どこにいるのだろうか。
「フォーリン、アイシェは昨日宴に来てたか?」
「そういえば見てないですね。聞いてみましょうか?」
「ラーレン様、アイシェのことなのですが、どうしてますか?」
「あぁ、あの子ならうちで寝ていると思うよ」
領主はこちらに振り向くことなくそう答えた。
その声音からは嘘か本当かはわからない。
しかし私にはどうも嘘臭く感じる。
「だそうですよ。例え買われた子でも、今の領なら元気に暮らせるんじゃないですかね」
だといいが……
一応少し鎌をかけてみるか。
「昨日、夜遅くに私達にお礼にと届けてくれたオランのジュース、とても美味しかった」
フォーリンが何言ってるんだこいつといった目でこちらを見てくる。
いいから合わせろと目で言った。
そうすると、フォーリンはリュックからオランのジュースを取り出して飲み始めた。
「やっぱり美味しいですね。本当にありがとうございます」
「そうか、そりゃよかった。オランはここの特産でね。自慢なんだ」
この領主は今おかしいことを言った。
フォーリンもそれに気づく。
「そうなんですね。で、アイシェちゃんはどこにいるんですか?」
その声音はいつもと変わりないが、怒りが込められていた。
フォーリンのその問いに、領主は諦めたのか、左手を顔につけている。
「……はぁ、まんまと引っかかったって訳かい。あの子のことなんて知らんよ、どこに行ったかなんて」
私は領主のいるところへ行き、胸ぐらを掴んだ。
お陰で馬が驚き、馬車が停止する。
「貴様、あの子は生贄になることを震えもせず受け入れていた。普通は怖くて震えるのに震えずにそれを受けいれていた」
領主は黙っている。
「聞いているのか貴様! アイシェはつまりもう死ぬことの方がいいと思っていたってことじゃないのか!?」
未だ領主は黙秘を続けている。
これは領主が何かやっているに違いない。
「答えなければ、貴様にも死ぬ方が楽に思えることをしてやる」
だが、領主はまだ口を開かない。
もしや、この私がそんなことができるわけがないとたかを括っているのか?
その間違いを正してやる。
「フォーリン、治癒魔法の準備をしろ。こいつを死ぬ寸前まで痛めつける」
「え、は、はい」
「ひぃ、話します。話しますからどうか命だけは」
治癒魔法を引き合いに出したことにより本気だと思ったのだろう。
やっと口を開く様になった。
「その、その前に確認ですが、話せば何もしないんですよね?」
「嘘偽りを感じたらやる。話せ」
領主曰く、アイシェが8歳の頃、人攫いの奴から買ったらしい。
そして10歳になって生贄になるまでの間、性的暴行を加えていたとのこと。
老体の癖に性欲だけはあるみたいだな。
異常性癖め。
「話しましたよ。さあ、席に戻ってください。ブレイブ領まではまだまだありますから」
「確かに正直に話した様だな。反吐が出そうだ。約束通り私から貴様に危害を加えることはない」
領主はその言葉に安堵をした。
しかしその安堵は早いのではないか?
異常性癖者の話を乗席で黙って聞いていたフォーリンは私よりも怒りの様子を露わにしていた。
「私からは何もしない。だろ、フォーリン?」
領主も釣られてフォーリンを見る。
そしてその様子に驚いていた。
「レイク様そこ、変わってください」
冷たく冷静な声。
フォーリンに言われた通り場所を変わる。
その隙に異常性癖者は馬車から逃げようとするが、ビビって腰が抜けているみたいでうまく歩けていない。
そしてフォーリンは杖を両手に持って、思いっきり異常性癖者に振りかぶった。
その杖は異常性癖者の顔に直撃し、鮮血を散らした。
異常性癖者は顔面を抑え、溢れ出る鼻血を抑えている。
続けて蹴りを与え、異常性癖者は馬車から落ちる。
フォーリンは降りて追撃をしようとしていたが、止めた。
それよりアイシェを探さなければ。
馬車の操作はやったことはあるがあまり得意ではない。
馬の気持ちを知れと教わったが、どうやったらわかるものなのか。
だが、今はそんなこと言っている場合ではない。
馬車を操作するのは5年ぶりだ。
「フォーリン、そいつを乗車席に乗せろ」
「嫌です」
「こいつには謝罪をさせる」
「わかりました……でも私も前にいさせてください。この変態と一緒にいたくありません」
「わかったから、早く」
フォーリンはその小さな体からは想像もつかない力で、小太りの領主を持ち上げ、乗車席に投げ入れた。
そして、私の膝の上に座る。
前の席はあいにく一人様だ。
これはしょうがないのだ。
「お願いだ。言うことを聞いてくれ」
馬は私の言うことを全く聞いてくれず、首を左右に振って手綱からの命令を拒否してくる。
「私に貸してください」
「出来るのか?」
「わかりません」
私じゃどうにもできないので手綱を握らせた。
そうすると何故か急に大人しくなり、ラーレン領の方向へ進み始めた。
「どうしてできるんだ!?」
「レイク様、馬と心を通わせれば簡単ですよ」
解せぬ。
「レイク様は馬の心も乙女心も学んだ方がいいと思いますよ」
「他人の考えなどわかるものか」
「レイク様だって、この変態の考えてることがわかったじゃないですか」
その言い方だと、私も変態だからわかったみたいに聞こえるのだが……
「違う、あれは領主の態度と昨日の状況を見て推察したに過ぎない」
「じゃあ、私が今考えていることもわからないのですか?」
「あぁ全くわからん」
「そうですか。にぶいんですね。将来いろんな女性をたぶらかしそうで怖いです」
「そんなことするやつに見えるか?」
「さあ、どうでしょう」
くそ、手玉に取られている気がする。
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