第28話 ラーレン領3

 現在私は領主と共に領民全員の前に立っている。

 理由は領主からの謝罪とぬまとこさまを討伐することへの説明だ。

 領民の表情は様々だ。

 怒りを露わにしつつも、領主の前だからか抑えているもの。

 絶望の表情を浮かべるもの。

 共通して言えることは、快く迎いいれられていないということだ。


「皆の衆、今まで騙していて悪かった。ぬまとこさまは神なのではない。悪魔じゃ。わし達はこの20年間騙されていた。そして今ここに終止符を打ってくれる若者達が来ておる」


「紹介に預かったレイク・アレンシュタットだ。詳しくはこの女に聞いてくれ」


「フォーリンです。ぬまとこさまとやらは悪魔です。その悪魔の影響でこの地には子供ができません。この地を少し見ましたが全土に呪いがかかっていることを確認しました。この呪いを取り除くにはぬまとこさまを倒す他ありません」


「そういうことだ。必ず倒すことを約束しよう」


 しかし領民の反応は様々だ。

 不安そうな顔をする者。

 怪しむ者。

 すがる様な気持ちの者。

 しかしそれら全てを領主の言動で一つにした。


「すまなかった。実は倒さなければ、わしら全員の魂を取られる契約を交わしておる。わしの独断で決めたことじゃ。首を差し出す覚悟はできておる。だから信じてくれ」


 実は魂を取られることは言わない約束だった。

 無理に心配させる必要はないからだ。

 そして言えば領主の地位も危うくなる。

 しかし領主は言った。

 領民の反応がいまいちだったからだろう。


 しかし領民は領主に罵詈雑言を与えることはしなかった。

 領民は皆一様に領主を励ましていた。

 今まで背負わせてごめんという意志を感じた。


 この領主は領民からの信頼を得ている。

 その信頼の積み重ねが今の状態に繋がっているのだろう。

 私も恐らくは後々アレンシュタット領を引き継ぐことになる。

 この領主の様に信頼を得られる様にならなければ。

 そう思わされた。


「本当にこの状況を変えてくれるんだな?」


 そう言うのは領民の中で一際若い男だった。

 隣には妻だろうか、若い女もいる。


「あぁ約束しよう」


「さあ、道を開けよ。レイク様がぬまとこさま……あの魔物を討伐されるぞ」


「「「おー!!!」」」



ーーー



 先程の滝の前に来た。

 フォーリンは苦い顔をしている。


「先程より魔力がかなり濃くなっています」


 私はあまり魔力を感じることができないが、それでも嫌な感じがするのはわかった。

 領民は置いてきている。

 巻き添えになったら元も子もないからだ。


「フォーリン、魔物を誘き出すことはできるか?」


「はい、『ホーリーアロー』」


 フォーリンは魔法で聖なる矢を作り、滝の中へ打ち込んだ。

 しかし滝の中から何も起きない。


 突如地面が揺れる。


「なんだ?」


「レイク様、後ろです!」


 後ろからぬまとこさまが現れ、こちらへ噛みつこうとしてきた。

 私たちがここにくることを見越して待ち伏せをしていたのか……

 フォーリンがつかさずホーリーバリアを展開するが、あっけなく砕かれた。


「貴様のちんけな魔法がこのわたしに効くと思ったかマヌケめ」


「な、なんですとー!!」


「フォーリン、ここじゃ相手の有利だ。ここから出るぞ」


 フォーリンを掴んで広い土地に移動した。

 まさか、フォーリンの魔法が効かないとは……


「恐らくですが、この領地に流していた魔力を自分の元に集めてます」


「フォーリンの魔法は通用しないか?」


「舐めないでください! きついの1発食らわせます。レイク様、時間稼ぎをお願いしてもよろしいでしょうか?」


「わかった」


 フォーリンは上級魔法の準備に取り掛かっている。

 私は魔法が完成するまでの時間稼ぎだ。

 正直言って私には、あの魔物を倒すことは無理と言っていい。

 あんな大きな魔物に剣が通るかどうかも怪しい。


 ぬまとこさま……いや、あのでかウナギは私の方へ向かってくる。

 私はレイド流の構えを取り攻撃を受け流す準備をした。


 でかウナギは身体を横唸らせて私に攻撃をしてきた。

 質量の暴力。

 まともに食らったら簡単に体中の骨が砕けるだろう。


 それをレイド流『流水』で受け流す。

 『流水』は相手の攻撃の威力をそのままにベクトルを変える技だ。

 でかウナギは自分の攻撃の威力で唸らせた方向に向かって飛んでいった。


「貴様、何をした!?」


 どうやら怒っているみたいだ。

 自分の力で飛んでおいてなんてやつだ。

 答える義理はないので無視をした。


 続けて身体を縦にしならせて攻撃してきた。

 それを次はレイド流『滑』で横にずらす。

 『滑』は攻撃を逸らすだけの基本の技だ。

 だが、単純ゆえに強い。

 でかウナギは身体を思いきり地面に叩きつけた。

 そして私はその隙にアレフ流『豪雷』をでかウナギの顔にぶつけた。

 『豪雷』は雷の如く縦の一撃を食らわす技だ。

 威力が高い分、外した時の隙はでかい。

 だが、今の様に隙だらけの相手にはかなり有効だ。


 でかウナギに大きな傷を与えることに成功した。

 大量の血を流して暴れている。

 それが返って不規則な攻撃となり反撃を貰ってしまった。

 レイド流は基本的に相手の攻撃に合わせて使う技だ。

 こういう攻撃の読めない奴には使えない。


 フォーリンはまだか?

 フォーリンを見ると、徐々に目の前にひかる大砲の様な物が組み上がっていく。

 そして丁度完成したみたいだ。


『ホーリーバースト!』


 フォーリンが放った光の奔流はでかウナギを包んだ。


 しかし目の前には未だ暴れているでかウナギがいる。


「はあはあ、やりました」


「やったのか?」


「はい、悪魔はいなくなりました。あれはただの大きなウナギさんです」


 フォーリンはそう言うと、でかウナギに近づき、治癒魔法をかけた。

 私が開けた傷口はみるみる塞がっていき、傷跡は残るものの回復したみたいだ。

 そしてでかウナギは何事もなかったの様に滝の中へと戻っていった。



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