第27話 ラーレン領2

 滝の前の土地に着きました。

 アイシェちゃんは土地に着くと、正座をして手を組み目を瞑りました。

 震えています。

 死ぬとわかっていても死ぬのは怖いのです。


「おい、白いの! 早く祈りを捧げんか!」


 今言ったやつ、あとで家を燃やす!

 とりあえずぬまとこ様という奴を見る為、祈りを捧げるふりをしました。


「「「ぬまとこ様!!! 我らに子宝を恵み給え!!!」」」


 びっくりしたー。

 急に村人が大合唱した為心臓が止まりそうでした。

 すると、目の前の魔力が濃くなるのを感じます。

 これは、悪魔?


 目の前の滝が左右に割れ、おっきなナマズみたいな怪獣が現れました。

 魔力からして悪魔が乗り移っていることは明らかです。

 だったらどうにでもなります。


 正直、普通の魔物が来ていた場合危うかったです。

 アイシェちゃんを守りながらこの狭い土地で戦うのは厳しいと感じていました。

 悪魔なら祓うだけで大丈夫です。

 おそらくあの大きなナマズは無害でしょう。

 魔力の影響で体が大きくなっただけのナマズだと思います。


 大ナマズが口を開け私たちを食べようとしてきました。

 ですが、途中で止まりました。


「貴様、何のつもりだ?」


 どうやらしゃべれるみたいです。

 私の服のお陰で近づくことができなく、ご立腹の様です。


「今後村人を食べることを禁じます。 それができないというのであればここで貴方を祓います」


 アイシェは何が何だかわからない様で私とナマズを交互に見ています。


「そんなこと、貴様に出来るのか?」


「試してみます?」


「カイの差し金か?」


 カイとはラーレン領の領主のことだろう。


「いいえ、私は冒険者です。私の意志でここにいます」


「そうか。まあいい、今日のところは退こう。」


「いえ、もう村人を食べないと誓ってください。」


 悪魔にとって契約とは命と同等の重さを誇る代物です。

 契約を破るということは、死を意味すると同等。

 口約束も契約の一つ。

 その為、このナマズが誓えば、もう村人を食べることができなくなる。


「……よかろう。これでいいか?」


「はい」


 そうして滝の中へと戻っていった。


「何をしてるんじゃ小娘!」

「ぬまとこ様に無礼であろうが!」

「さっさとぬまとこ様に謝罪し、身を捧げんか!!」


 あー! うるさい!

 村人全員ぬまとこ様とやらに食わせてやろうか。


 アイシェちゃんは何が起こったのか、わからないのかただ呆然としています。

 それもそうです。

 生贄になる運命が突如変わるのですから。


 ただこれからどうしましょうか。

 この子はもうこの領地には居られないでしょう。

 かと言って私たちについて行かせるのは危険がいっぱいです。

 とりあえずレイク様に相談しようと思います。


 そのためにはまずここから出なくては……

 あれ、船は?

 辺りを見渡すと船は湖の上を漂っていました。

 固定するのを忘れていた為流れていってしまったみたいです。

 緊急事態です。

 私、泳げません!



ーーー



レイク視点


 何してんだあいつ?

 ぬまとこ様とやらを帰らせて戻ろうとしたが、ボートが流されて帰れないみたいだ。

 しょうがない、助けてやるか。

 私はバース流『水面渡り』で流されてるボートに一度着地し、続けてフォーリン達のいるところへ移動した。


「レイク様! 助けに来てくれたんですか!? ありがとうございます!」


「聞きたいことは山ほどあるがとりあえずここから出るぞ」


「はい! さ、アイシェちゃんもう大丈夫だよ。」


 フォーリンがそう言うがアイシェの表情は晴れない。


「私に掴まれ、飛ぶぞ」


「はい。さあアイシェちゃん、捕まって」


 しかしアイシェは動こうとしない。


「どうした? 戻るぞ」


「私、やっぱりぬまとこさまに謝って身を捧げます!」


 アイシェはそう言うと、滝のある方へ飛び込んだ。

 そして滝のある方へ泳ぎ始めた。


「レイク様、助けてください!」


「あぁ、待ってろ」


 私も続いて湖に飛び込んで、アイシェの元へ泳ぎ始めた。

 そして無事滝の寸前で捕まえることができた。


「やめてくだ……」


 私は有無を言わさずアイシェを気絶させた。

 そしてアイシェを連れてフォーリンのところへ戻った。


「アイシェちゃんは無事ですか?」


「あぁだが、今は気絶させてる」


「そうですか……よかったです」


「戻るぞ」


「はい」


 私は再びバース流の『水面渡り』でボートに行った。

 しかしそこから元の場所に戻るには2人抱えては無理なので、そこからはボートを漕いだ。


 住民達は止めることなく私たちに暴言をぶつけてきている。

 しかしその中には絶望といった表情をしている住民がちらほらいることに気づいた。


 そして住民達の前にたどり着いた。

 いや、私たちが着くところへ住民達が移動してきていた。


「貴様、どこの誰だ?」


「人の名を聞く前に自分の名を名乗るのが礼儀ではないのか?」


 そう言うと、周りの住民がかなり騒いでいる。

 しかし目の前の小太りの白髪混じりの男は手を横に出し、うるさい住民を黙らせた。


「わしの名は、カイ・ラーレン。この領の領主をしておる」


「私の名はレイク・アレンシュタット。貴方に聞きたいことがある。少し時間をくれないか?」


「わかった。わしの家へ案内する」



ーーー



 領主に案内され先程訪れた家へと着いた。


「本題だが、ぬまとこさまとは何だ?」


「ぬまとこさまは、この領地に古くから住み着く守り神じゃ。ぬまとこさまのおかげで我らは魔物などから守られておる」


「それで代償に子供を?」


「……そうじゃ」


「見たところこの領地には子供が少ない様に感じるが? 子供どころか子供を作れそうな大人すらいない様にも感じる」


 先程集まっていた住民に少なくとも子供はいなかった。

 しかし普通に30代ぐらいの大人はちらほらいた。

 だが、子供いない。

 これは何かあると思いブラフを打った。


「……」


「アイシェは誰の子だ?」


 念のために聞いてみる。

 おそらくアイシェの血の繋がった親はこの領地にはいない。


「…アイシェは買った子じゃ。この領地はもう子供がいない。移民してくる者もいない。じゃが、生贄は必要なんじゃ」


 やはりそうだ。

 この地には子供ができない。

 原因はまだ不明だが、何かがこの領地で子供をできない様にしている。

 そしてぬまとこさまは子供を求めている。


 その二つだけで色々察しがつくだろう。

 つまりこれはマッチポンプだ。

 確実に終わりのくる条件を出して、できなければ何か災厄を起こすといったところだろう。


「生贄を捧げてもこの領地の終わりは目に見えている」


「待ってくださいレイク様! 私も領主様に聞きたいことがあります」


 どうやらフォーリンも気づいた様だ。


「なんじゃ?」


「この領地に子供ができなくなったのはいつからですか?」


「20年前じゃ」


「では、ぬまとこさまが生贄を要求し始めたのはいつからですか?」


「……20年前じゃ」


「やっぱり。あのぬまとこさまとやらは悪魔に取り憑かれています。その悪魔の呪いがこの地に薄く広がっています。その為子供ができないのではないでしょうか?」


 私と同じ推察だ。

 もしかしたらフォーリンはもうわかっているのかもしれない。

 ぬまとこさまと対峙したフォーリンならば。


「フォーリン。だがどうしてそうする必要がある? ぬまとこさまは子供が欲しいんだろ? 子供を作れない様にしたら元も子もないではないか?」


「そうですね。私もそこが気になっていました。ですが、もし、子供を出せなければ何かしら災厄を与えると脅されていたら?」


「どうなんだ領主?」


 領主は黙った。

 長い沈黙。

 これはビンゴだろう。


「……これはわしの罪じゃ。20年前に起きた魔物の襲来の際、助けてくれたぬまとこさまに完全に魅入ってた。その為、あんな契約を結んでしまった……」


「その契約とは?」


「毎年10歳の子供を1人捧げる。できなければ領地全員の魂を貰う。というものじゃ」


 やはりそうだったか。

 だが、領地全員の魂とは。

 そんなことが可能なのか?


「どうしてそんな契約を!?」


「その時のわしは憔悴しきっていた。魔物に領地を荒らされ、それを助けてくださったぬまとこさまをわしは神だと思ったのじゃ」


「お願いじゃ。アイシェをぬまとこさまに捧げてはくれないか?」


「駄目だ。今アイシェを渡しても、来年次の生贄を準備することになる。」


「そうか……アーレン領もここで終わりじゃな……」


「フォーリン、聞きたいことがある。実際にこの領地全員の魂を奪うなんてことできるのか?」


「どうでしょう……ですが、不可能とは言えません。」


 領主は俯いている。

 もう諦めているのだろう。

 しょうがない。

 私もどうせなら宿で寝たいからな。


「わかった、ぬまとこさまを駆除する。いいな?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る