第26話 ラーレン領1

 ラーレン領


 ここは二つの村から成る小さな領だ。

 見渡す限り畑と田んぼだらけだ。

 送ってくれた馬車はもうランス王国へと戻っていった。 


 今日はラーレン領の何処か泊まれるところで1日を過ごす。

 その為に宿を探しているのだが、全く見つからない。

 宿どころか村人すら見当たらない。

 そういえばフォーリンはここに来たことがあるのではないか?

 バレットスター領からランス王国へ来るんだったらここを通っていてもおかしくない。


「フォーリン、ここに来たことはあるか?」


「ありません。私は顔バレするかと思って村は避けて来ましたから。今思えば、そんなに私有名じゃないというのがわかったので無駄だったと後悔してます」


「そうか……」


「人いませんね」


 建物はちらほら見かける。

 しかし建物から生活音がしない。

 たまたまかもしれないが、今までに見つけた建物には誰もいなかった。


 とりあえず領主の家に向かおうと思う。

 領主の家はだいたい領地の真ん中にあるのが相場だ。

 だが、その領地の真ん中がわからない。


「どこに向かってるんですか?」


「領主のところだ。」


「だったらさっき通った十字路を左です。」


「どうして領主の家を知っているんだ?」


「だって看板ありましたよ?」


 フォーリンの指差す方向を見ると確かに看板があった。

 看板には『この先、カイ・ラーレン様家』と、書いてあった。

 こんなに堂々とあるのに見落とすとは……

 十分すぎるくらい寝たのに疲れているのかもしれない。


 看板の通り進むと、一際大きな家があった。


「すみません。領主様はいますか?」


 しかし反応がない。

 だが、ここまで人がいないことなんてあるか?

 何か事件があったとか?

 それともどこかに集まっているのか?


「いませんね。どこかに集まっているのでしょうか?」


「手分けして探すぞ。2時間後さっきの看板の前だ」


「わかりました」



 それから手分けして探した。

 しかし、見渡す限り田畑ばかりで人のいる様子がない。

 まるで領地の全員が神隠しにでもあったかの様に。


 そろそろ2時間経つので戻ることにした。

 まだフォーリンはいないようだ。


 2時間が経過した。

 まだフォーリンが来ない。

 今まで時間を破ることのなかったフォーリンが遅れるとは。

 それから30分が経過した。

 まだフォーリンが来ない。

 流石に遅い。

 これは何かがあった。

 探さなければ。


 フォーリンが探していたのはだいたいこの辺りだろう。

 しかし、ここも見渡す限り田畑ばかり。


 ん、何だこの音は? 

 ざーっと激しい雨が降っているかのような音が微かに聞こえる。

 音の方向に向かうとそこには多くの人がいてた。

 音の原因は滝だ。

 なにやらおかしな雰囲気を感じたので気づかれないように少し近づいた。


 どうやらなんかの儀式を行なっている最中みたいだ。


 滝の前には不自然な大地があり、誰かが2人いる。

 1人は派手な衣装を着た小さい子

 もう1人は白い服を着た子……

 遠くてよく見えないがあの、ある意味目立つ服は……もしかしてフォーリンか?


 もう少し近づく。

 そうすると、村人の多くが老人であることに気づいた。

 そしてやはり、あの白い子はフォーリンだ。

 何をしているのだろうか。


「「「ぬまとこ様!!! 我らに子宝を恵み給え!!!」」」


 びっくりした。

 急に村人が大合唱し始めた。

 その声は大地を震わせるほどの声量を誇っており、耳を塞がないと耳がいかれそうだ。

 いや、声で大地が震えているのではない。

 何者かが地震を起こしている。


 滝の方を見ると、滝が左右に割れ、大きな人形ナマズが現れた。


 まずい、フォーリンは何をしているんだ。

 あのままではあのでかいナマズに食われてしまうぞ!!。


 大ナマズが2人の前へ近づいてくる。

 そして口を開け食べようとした。


 やばい、このままではフォーリンが食べられる!!

 私はバース流の「瞬足」の構えを取り一気に距離を詰めた。

 しかし距離がありすぎて全く届かない。


「フォーリン!!!」


 駄目だ、食われる。

 フォーリンを守ると誓ったのに、私は何もできないのか。

 しかし大ナマズはフォーリン達を食べる直前で止まった。

 フォーリンは何やら話している。

 しかし遠くて音が拾えない。

 何を話しているのだろうか。


 大ナマズは滝の中へと戻っていった。

 何があったのだろうか。

 心配させやがって!

 後でたっぷりと叱ろう。


「何をしてるんじゃ小娘!」

「ぬまとこ様に無礼であろうが!」

「さっさとぬまとこ様に謝罪し、身を捧げんか!!」


 あの大ナマズはどうやらぬまとこ様というらしい。

 そのぬまとこ様が何もせず帰る様子を見て村人達は怒りを爆発させている。

 しかしフォーリンは一体どうしてあそこにいて、どうして身を捧げることになっていたのか……



フォーリン視点



 宿を探しているのですが、一向に宿はおろか人すら見つかりません。

 そこでレイク様は手分けして探そうと提案しました。

 正直1人は心細いです。

 ですが、野宿はもっと嫌なので頑張りたいと思います。


 当初は魔力の濃いところへ行こうと思います。

 もしかしたら誰かが魔法の訓練をしてるかもしれないと思ったからです。


 何やら滝の音がします。

 もしかして魔力の湖があるのかもしれません。

 魔力の湖の周辺には珍しい植物が生えるので、ついでに採取していこうと思います。


 近くまで来ました。

 濁りのない綺麗な湖、大きな滝、とても味のある風景です。

 周辺には、回復ポーションの材料にもなるタロの実が沢山生えています。


 タロの実を採取していると後ろに気配を感じました。

 後ろを振り向くと、多くの人々が私のことを見ていました。


「神は私たちを見離してはいなかった!」

「「「おー!!!」」」


「ひゃあ!!……」


 いきなり大きな声を出さないでください!

 ま、それは置いといて、神? なんのことでしょうか?

 どうやらタロの実を採取したことを怒っているわけではないみたいです。


「きゃっ! 何するんですか!?」


 村人の老人に腕を掴まれました。

 そしてそのまま船の上に乗せられました。

 抵抗することもできましたが、村人に危害を与えたら泊めてくれなくなると思ったので抵抗せずついて行くことにしました。

 船の上には綺麗な服で着飾った10歳ぐらいの女の子がいました。

 女の子は笑顔でこんにちわと挨拶してくれました。


 船には私たち2人以外にいません。

 女の子はオールを持つと、滝の前にある土地へと漕ぎ始めました。

 何のために……は野暮ですね。

 これは、十中八九生贄でしょう。

 

 生贄なんて時代錯誤です。

 悪魔が己のために作った風習でしたが、今も信仰してるところがあるとは驚きです。


「君、名前は何かな?」


「アイシェです」


「そっか、いい名前だね。ところでアイシェちゃん、今から何をするの?」


 わかったうえでの質問。

 なぜなら、これが生贄だと知らされてるかどうかが、知りたいからです。


「私はぬまとこ様への捧げ物としてあそこに奉られます」


 アイシェちゃんは、怖くないのか、それとも自らの運命を受け入れているのか、様子がおかしくない。

 普通なら怖いはずなのに……


 生贄は悪き文化です。

 厄災を何かのせいにして、誰かのせいにして、関係のない誰かに押し付ける。

 そんな非人道的、非科学的な文化。

 しかもアイシェちゃんの様なまだ幼い子供を生贄にするなんて……許せない。


「アイシェちゃん、夢とかやり残したことってある?」


「え……」


「食べてみたいもの、行ってみたいところ、何でもいいよ」


 そう問うとアイシェちゃんの動きが止まりました。


「わからない……何もわからないです」


 私は決めました。

 こんな子にこんなことをさせる村に泊まってたまるか!

 とても、かわいそうだ。

 今まで生贄になるべく育てられたのでしょう。

 外との干渉を無くして、何にも興味を持たない様にしてきたのでしょう。


「どうした! 早く行け! ぬまとこさまを待たせるな!」


 村人からの怒号が飛んできます。

 かなり腹が立ちました。

 あとであの村人に毒を盛りたいと思います。

 アイシェちゃんは怒号に恐れてか漕ぐスピードを上げました。


「アイシェちゃん、この村から出よ?」


「無理です。外は危険が一杯。怖いところ」


 そう教えられてきたのでしょう。

 外は確かに怖いところです。

 何度も危険な目に遭いました。

 ですが、それ以上のわくわくとドキドキがありました。

 その景色を見せてあげたい。


 

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