第23話 塩漬けクエスト2


「大っきいです……」


 フォーリンがそう呟くのは当然だ。


 視界の100メートル以上先にいるのは大きな熊だ。

 この距離から見てもはっきりとわかる大きさだ。

 おそらく今まで放置されてどんどんと大きくなったのだろう。

 今や8メートルはあるだろうか。

 下手な家より大きいだろう。


「どうする?」


「エレン、先程採取した生肉を貸してくれ」


 道中で出会った鹿を捌いて持ってきていた。


「リン、毒を埋めることはできるか?」


「あ、はい。できると思います」


 治癒魔法に長けているものというのは人一倍毒といった危険に詳しい。

 その為、逆に毒を作る魔法を知っていてもおかしくないと思ったのだ。


「ポイズンギフト」


 フォーリンが魔法で生肉を毒肉へと変えた。

 幸い肉に変色はなく、匂いも生肉のままだ。

 これをギガントベアーに食わせれば毒で倒れるだろう。


「エレン、これをギガントベアーの口に入れてこれるか?」


「あぁ、じゃあ行ってくる」


「気をつけてね」「頑張ってください!」


 女達の応援を貰い、エレンは潜伏を使い毒生肉を持ってギガントベアーに近づいた。

 しかし、どういうわけかギガントベアーはエレンの方を向くと全速力で走ってきた。


「しまった。匂いだ。エレン、生肉を捨てて戻ってこい!」


「わあぁ!!!」


 エレンは毒生肉を前へ投げるとこちらへ全速力で戻ってきた。

 しかしギガントベアーは生肉に興味を示さず、こちらの方へ走ってくる。


 やばい、あの速度で突進されたら身体が一たまりもないだろう。

 しかし逃げても追っかけてくるはずだ。

 どうする?


 ここは、突進に合わせてレイド流で受け流すしかない。

 しかしこの速度の突進、無事受け流せるだろうか。

 失敗したらもろに食らって行動不能になるだろう。

 駄目だ。迷う暇があったら実行しろ!


 私は剣を抜くと、フォーリンとルディを庇う形で前に立った。

 そしてレイド流の基本の構えを取り、ギガントベアーの突進に備えた。


 来る!


「ホーリーバリア!」


 しかし、ギガントベアーは見えない壁に頭からぶつかり、そのまま動かなくなった。


 ルディは死を覚悟していたのか腰を抜かして動けなくなっていた。

 エレンはルディだけでも守ろうとしたのかルディの前に立ち尽くしていた。

 そしてフォーリンは勝ち誇ったような顔でこちらを見ていた。


「リンちゃん!!」


 ルディがフォーリンに抱きついている。


「どうですか? 役に立てましたか?」


 そのドヤ顔をやめろ。

 確かにフォーリンの魔法で助かったのは事実だが、それをしなくても受け流せた……はずだ。

 私はドヤ顔に少しイラついたのでその白いデコにデコピンを与えた。


「痛っ」


「それより、依頼の毛皮を採取するぞ」


 エレンが慣れた手つきでギガントベアーの毛皮を剥ぎ取る。

 どうやら即死だったみたいだ。

 その大きさはかなりのものでルディの巻物でワープして戻った。




ーーー


「ほら、報酬の20万ゴル」


「1人あたり15万だ。情けはいらん」


「ついでに取ったギガントベアーの肝が高く売れたんだよ」


 どうやらついでにギガントベアーの肝を採取していたらしい。


「わあ、ありがとうございます!」


「感謝するのはこっちだぜ? 今回はリンの手柄だからな」


 フォーリンがドヤ顔をしてくる。

 だからその顔でこっちを見るな。


「素直じゃないお年頃なの」


「ルディ、聞こえてるぞ」


「あー、リン。今日はお前のお陰で助かった。明日からも頼む」


「はい!」



 それ以降も様々な塩漬けクエストを消化していき、1週間で130万ゴル溜めることができた。

 そして借金も無事返し、これからキールからマーチルの情報を聞き出すところだ。

 しかし、肝心のキールが見当たらない。

 普段どこにいるか聞いとくべきだった。


「キールのやつ、最近見てないか?」


 キールはこの宿の風呂をとても気に入っていると言っていた。

 だから、宿の主人は何か知っているかもしれない。


「いいや、見てないね」


「そうか、では居そうなところとかわかるか?」


「あん? 女風呂にでもいるんじゃねえか? 知らんよあいつのことなんて」


 手詰まりか……

 しょうがない、マーチルが飛んで行った方向に沿って向かい、道行く人たちに聞いて回るしかないか。


「おう主人、酷い偏見だな。俺は直接行かず、離れて見る紳士だ。見くびるんじゃないぜ」


 噂をすればなんとやら。

 キールが姿を現した。


「一週間ぶりだな、レイクの旦那。聞いてるぜ、お前らの評判。無事金も貯めれたみたいだな」


「あぁ、さっそくだが、マーチルの場所をー--」

「レイクの旦那、そのことなんだが、悪いが教えられない。事情は分かってる。だが、あれは勇者でもない旦那が手を出してはいけない案件だ。下手すると六傑案件にもなるかもしれない。顔見知りが死ぬのは見過ごせない」


 六傑案件。

 六傑と呼ばれる最強の勇者にしか対処できないといわれる最高難易度のクエストだ。

 エンペラーゴブリンやエンペラートロルといった、数十年に一度現れる厄災があてはまる。


「それでも、私はやらなくてはならない。自分の身内の問題は自分でなんとかする。教えられないならそれでいい。自力でなんとかする」


 私はそう言い捨て、宿から出た。


「待ってくれ旦那!」


「なんだ?」


「死の渓谷デスバレーにあの娘はいるはずだ。あそこは魔獣の宝庫とも言われているからだ。でもそこは勇者以外立ち入り禁止にされてる。理由は単純、危険すぎるからだ」


 死の渓谷……

 噂だが、今の六傑第一席が剣の一振りで作ったとされる渓谷。

 場所は確か、中央国ガウェイ王国の近くだ。

 ランス王国とは真逆の位置にある。

 かなり遠いな。

 だが、行かなくては。


「ありがとう。これは約束の10万ゴルだ」


「いらないよ。それよりもその金でちゃんとした装備を整えな。その剣、悲鳴をあげてるぜ?」


「お気持ちに甘えるとしよう。では」


 キールとはまたどこかで会う気がする。

 その時、礼の限りを尽くそう。




 ー--




「明日から、私は許嫁を探す旅に出る。エレン、ルディ、今までありがとう」


「なんだ、お前からそんな言葉が聞けるなんて、明日は大雨か?」


「レイクと、リンちゃんのお陰で私たちもたっぷり稼がせてもらったわ。絶対、許嫁助けるのよ」


「ああ、では元気でな」


 キールからマーチルの場所は教えてもらえた。

 旅の順番からすると、ニーナを攫った悪魔の所、そしてマーチルということになる。


 当初はトリス王国とガラハ王国の中間地点に向かう。

 明日から長旅になる。

 今日は防具も新調し、道具も買い揃えねば。


 武器屋に行くと、フォーリンがいた。

 どうやらフォーリンも同じく武器と防具を新調するようだ。

 フォーリンは借金の金額が、少なかった為、なかなかにいい値段のする杖を見ても臆することなく手に取っていた。


 服も白を基調とした、綺麗な服に、白のとんがり帽子、白いブーツと全身真っ白だ。

 白すぎる。

 肌も髪も白いのにどうして白い服など着るのだ。


 なにやらこちらに気づいたようで服をアピールしている。

 とりあえず無視をした。


「どうして無視をするんですか!?」


「あー悪いシロ、白くて目に入らなかった」


「私の名前はシロじゃありません!」


「明日から悪魔が住む場所に行くんだぞ。そんな服装じゃ目立って仕方ない」


「大丈夫です! この服は魔物避けのまじないがかかっていて、魔物や悪魔といったものが来ても私のところへは来ません!」


 つまり、代わりに私のところに来るということではないだろうか?


「レイク様こそ、そんな薄い防具で大丈夫なんですか? 簡単に貫通しそうなんですけど」


「私は攻撃を喰らわないから大丈夫だ。それに金属を使うと重くて、リンを置き去りに逃げることができん」


「なんてこと考えてるんですか!? やめてくださいね。絶対ですよ!!」


「あの、お客さん、店の前でいちゃつかないでください」


「すまない」「すみません」


 まあ何はともあれ無事に武器と防具を新調できた。


 明日からはフォーリンと共にニーナを助けに行く。

 フォーリンは死んでも守らなければならない。

 そうしないとニーナを助けたとしても報われないからな。


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