第22話 塩漬けクエスト1
誰だお前……
目の前に目元が隠れるほどに長い黒髪、低い鼻、精気の感じられない白い肌をした男がいた。
その男は窓を眺め、道を通る12~14歳程度の男女を見て、汚い言葉を吐いていた。
そして机に座った。
机には何やら教科書のようなものが乱雑に置かれており、ノートには見たことのない言語のようなものが書かれていた。
男はペンのようなものを持つと、ノートに何かを書き出しては消し、書き出しては消すを繰り返して、うんざりしたのかノートをビリビリに破いてゴミ箱へ投げ入れた。
そして男はベットへ身を投げた。
なんだこの男は。
こんな人間見たことがない。
よく見ると、見たことのない服を着ている。
部屋を見渡してみると、部屋はゴミに溢れており、足の踏み場がない。
見たことのない機械のようなものもある。
何をする機械だろうか。
触ってみる。
しかし手が透けて触ることが出来ない。
男がベットに口を当てなにやら叫んでいる。
情緒が不安定のようだ。
肩を誰かに叩かれた。
だが、後ろには誰もいない。
今度は体が揺らされている。
なんだ、何が起きてる。
あぁ、そうかこれは夢なんだ。
「起きてください!」
目の前にはさっきの冴えない男とはうってちがって、
白髪に白い肌。
もこもこして暖かそうな部屋着を着ている女、フォーリン・バレットスターがいた。
「朝ごはんはどうしますか?」
「あぁ、頼む」
「え、私料理が苦手で。できれば作ってくれると助かるのですが……」
作らせるためにわざわざ起こしたのか。
しかし、私もあいにく、料理は専門外だ。
「何でもいい。お腹に入れば」
「……わかりました。でも、味は保証しませんよ」
私は先程の夢の続きが気になり、もう一度寝ようと、再び目を閉じた。
何やら焦げ臭い匂いがする。
しかも叫び声まで……って
顔を上げるとそこには、フライパンから炎を上げてあたふたしているフォーリンがいた。
「すみませんー!! 助けてください!!」
「ウォーターボール!!」
私は慌てて魔法で火を消した。
あと少しで丸焦げにされるところだった。
「これは……?」
「目玉焼きです」
目の前に出されたのは黒焦げになった何かだった。
「いや違う、これは魔素の塊だ」
「すみません。ちょっと失敗しちゃいました」
「ちょっと?」
「すみません。作り直します!!」
おいおい、また哀れな目玉焼きを作るつもりか?
食材がもったいない。
「いい、まだ材料はあるか?」
「あ、はい、下の棚に入ってます」
下の棚を覗くと空気がひんやりと冷えていた。
氷がある。
魔法で作り出し、生ものの腐敗を防いでいたのだろう。
私は下の棚にある食材を使って、簡単な朝飯を作った。
フレンチトーストに目玉焼き、そして肉の腸詰めを炒めたもの。
我ながらうまくできた。
作っている間、ずっとフォーリンに見られていたのもあるかもしれない。
「美味しいです!」
「そうか、食ったら早く行くぞ」
「はい!」
ーーー
レバゾア商会に着くと、既にエレンとルディが揃っていた。
「あら? 隣の可愛い子は誰かしら?」
私はフォーリンを優しく叩き、挨拶と自己紹介をするよう促した。
「リンです。レイク様に誘われてこの度の依頼に同伴することになりました」
「あぁ、ヒーラーが必要だと思って誘っといた」
「よう、お前ら早いな!」
マストがやってきた。
もしかして私たちの4人目のメンバーとして誘われていたのだろうか。
しまった。
これではパーティが5人になってしまう。
強敵を倒す際、仲間が多いのはいいことだ。
しかし、その分一人当たりの報酬も減る。
今は何としてもお金を稼がなければならない。
マストには悪いが帰ってもらおう。
「あ、ごめんなさい、マスト。誘っといてなんだけど、レイクがヒーラーを連れてきたの。だから今日はいいわ」
ルディが冷たくあっけない言葉をマストにぶつけた。
私でも肝を冷やす冷たさだった。
「なんだよ! 俺よりそんなロリっこがいいのかよ! もういいよ。今日はガスト誘ってゴブリンにでも八つ当たりしてきてやる!」
マストには悪いことをしてしまった。
後で酒でも奢ってやろう。
「あの、本当によかったのでしょうか?」
先程のやりとりを聞いて、原因であるフォーリンは心配そうに聞いてきた。
「いいの。あとでお酒でも奢れば機嫌直るでしょ」
ルディがフォーリンを心配させまいとそう言った。
「それより、リンはどれくらい治癒魔法が使えるんだ?」
「一応上級までは師匠に教えられました」
「凄いじゃない! その歳で上級を使えるなんて!」
確かにそれは凄いことだ。
魔法には初級、中級、上級、超級の四つのランクがある。
初級には私が先程使ったウォーターボールや、昨日フォーリンが使ってくれたヒールといった、制御の簡単な魔法がある。
中級になると威力も上がり、魔法学校を卒業する際の一種の値とも言える。
上級にもなると、使える人と使えない人がはっきり分かれる。
歴代の勇者でも上級が扱えなかった人がいる程だ。
超級を使える人は10年に1人現れるか現れないかといったレベルだ。
超級には腕の欠損すらも治す魔法もあるらしい。
フォーリンはその上級までが使えると言っていた。
つまり、生まれながらにして魔法の才能があったということだ。
「へぇ、これはルディより頼りになるぜ」
「うっさい!」
「いでっ!!」
エレンがルディをからかうとルディはエレンの足を思い切り踏みつけた。
「んで今日は何の依頼をやるんだ?」
「今日は、ギガントベアーの毛皮採集だ」
ギガントベアー……名前の通り大きな熊だ。
その巨体から振り下ろされる腕は岩をも砕くと言われている。
「報酬は?」
「60万ゴルだ。いわゆる塩漬けクエストってやつだな。今までに何人もの冒険者が受けてきたが、皆返り討ちにあっているらしい。」
60万ゴル、一人当たり15万か。まあ、この地域は安全のため、危険な依頼がないのだろう。
「わかった。向かおう」
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