第20話 フォーリン・バレットスター2
「フォーリン! 逃げて!!」
「お姉さまぁぁ!」
それは、いつもと変わらない日常の中に起きた悲劇でした。
いつもと変わらない夜、いつもと同じ時間に私とお姉さまはいつもと同じ部屋で寝ていました。
そして気が付くと私とお姉さまは外にいて、誘拐されてることに気づきました。
そして誘拐したのが、信頼していた執事のセブルスだったことにも。
何とかして、お姉さまはセブルスの腕を切り落として、私を解放させてくれました。
腕を切られたのに血が流れてないことからして、セブルスは人族ではなかったのでしょう。
なんで……
今日はいつもと何ら変わらない日常だったはず。
朝ごはん食べて、魔法のお勉強して、お昼ご飯食べて……
私は今、家から数キロ離れた森に放置されています。
戻るか、それとも、進むか……
私は自分でいうのも気が引けますが、かなり箱入り娘だと思います。
外に出てもうまくやっていける自信がありません。
ですが、その不安を押しのけるほど外の世界に憧れがあります。
迷う。
もしばれたらとても怒られてしまうでしょう。
私のお父様はとても怖いんです。
迷う。
私のお母様はとても優しく、お母様の作るチェリーパイは世界一おいしいのです。
そして、私たちがいなくなったら三日三晩泣いてしまうことでしょう。
迷う、迷う、迷う……
そして私は迷った末にーーー外の世界に飛び出すことにしました。
ーーー
トリス王国近隣の領地バレットスター領を抜け出し、早5日。
ようやくアレンシュタット領から最も近いランス王国へと辿り着きました。
今日はここで休もうと思います。
野宿はもうこりごりです。
バレットスター家はかなり有名です。
理由はいくつかありますが、主な理由は、治癒魔法の術式を最初に解明した家というのが大きいと思います。
バレたらお父様に報告がいってしまう恐れがあったので、人が住んでいるところは避けてきました。
流石にお隣の国だったら私のことを見て、バレットスター家だとわかる人は少ないでしょう。
予想正しく、私の顔を見ても声をかけてくれる人はいません。
宿はランス王国へ着いて最初に目についたここにしようと思います。
宿の外観は綺麗な装飾がしてあり、中に見える人も優しそうです。
そして、明日、アレンシュタット領に向かおうと思います。
レイク様……お姉さまの許嫁。
どんな方なんでしょうか?
お姉さまはつまらない男と言っていましたが、顔が赤くなっていたことは見逃していません。
ーーー
次の日、私は早朝からレイク様に会う為アレンシュタット領のアレンシュタット家に向かいました。
「いない……ですか?」
アレンシュタット領の中央にあるお屋敷のドアを叩くと、とても美人な方が出てきた。
どうやらレイク様の母様らしいです。
とてもお綺麗な方です。
母様曰く、変レイク様は立派な男になる為に今は外で修行中だとのこと。
流石お姉様の許嫁といったところです。
常に勇往邁進している姿勢に尊敬の意を唱えます。
やはりレイク様を辿ってよかった。
レイク様ならきっと姉様を助けてくれる。
「それより貴方、もしかしてヨハン君の娘かしら?」
「あ、はい。フォーリン・バレットスターです」
ヨハン……父上のことでしょう。
ヨハン・バレットスター。
君付けということは仲がいいんでしょうか?
「やっぱり〜! ヨハン君に似てて美形ね! さ、お家入って!」
「あ、お邪魔します」
屋敷の内装は貴族に相応しくとても素敵です。
見た限るメイドがいないようですが、この状態をレイク様の母上様が保ってるのでしょうか?
私は屋敷に入ってすぐ客室に案内されました。
客室には大きな絵画が一枚飾ってあります。
家族写真の様です。
家族は四人、お父上とお母上の間に男の子と女の子が挟まっているほのぼのしい絵画です。
このかわいらしい少年がレイク様でしょうか?
そしてそのお隣のかわいらしい少女は……
「ヨハン君は元気?」
写真に見惚れていると、横から優しい声がかけられました。
「はい、父は毎日忙しそうにしていますが元気だと思います」
「そっか〜久々に会って昔の話をしたいなー」
「あ、ごめんね。ヨハン君とは昔いろいろあったの。ウフフ」
少し気になる情報だけど、さっそく本題を切り出すことにしました。
「あ、あの」
「あ、ごめんなさい、今お茶菓子持ってくるわね」
本題を切り出す前にお茶菓子を取りに離れて行ってしまいました。
そういえばさっき外から何かを打ち付ける音が聞こえます。
ガラス張りの大きな窓を覗くと、庭で大人の男の人と、身長が私と同じくらいの男の子が木剣をぶつけ合っていました。
私は剣術を知らないけど、レベルが高いということはわかりました。
男の子はレイク様の弟様でしょうか?
しかしあの絵画にはほかに男の子は……
もしかしてあの写真の女の子が男装させられてる?
レイク様が修行に出てるからその埋め合わせで……?
「あの子は養子のマルコスよ」
「ひゃい!!」
びっくりした。
「はい、今朝ケーキを焼いたの!是非食べて!」
「あ、ありがとうございます」
渡されたのは苺が乗った生クリームたっぷりのケーキです。
こんな高級なもの実家でもお祝い事でない限り食べることができません。
早速口にします。
美味しい! 口当たりがふんわりしていて生クリームもしつこくなく、苺の甘酸っぱさと絶妙にマッチしています。最高です!
「よかった〜 うちの主人は食べても感想の一言もくれないのよ!」
「とても美味しかったです。ありがとうございました」
「いいえ〜美味しそうに食べてもらえてよかったわ」
「あの、本題なのですが……」
「お姉ちゃんのことよね?」
「え、あ、どうして知ってるんですか?」
「そりゃレイクの許嫁ですもの。ヨハン君から連絡が来たわ。もちろん貴方のこともね」
しまった。
それもそうです。
アレンシュタット家に連絡が来ないわけがありません。
これで私は父上に連絡され家に戻される……
短い旅でした。
「すみません」
「どうして謝るのかしら?」
「勝手に家出してここまで来てしまったので」
「凄いことじゃない! お姉ちゃんが心配で私達のところへ助けを求めに来たってことでしょ?」
「まあ、でも親を心配させるのは減点ね」
「お父様に言いますか?」
お父様は少し怖い。
いやかなり怖い。
常に忙しそうにしていて私達姉妹に構ってくれることが少なかったのもありますが、一度姉妹喧嘩した際、鬼のような形相のお父様を見てトラウマになりました。
その為、私たち姉妹のいつも遊び相手は執事だったのです。
その執事の一人が今回の件の主犯なのですが、今も信じられません。
「フォーリンちゃんはどうしたい?」
「言われてもしょうがないと思います。多分とても怒られるとは思いますけど……」
「じゃあ言わない。これはフォーリンちゃんの為じゃなくて、ヨハン君への嫌がらせ。礼とかは要らないからね」
「あ、でも強いで言うなら、また私の焼いたケーキを食べに来て頂戴」
「はい! ありがとうございます!」
なんていい人なのでしょう。
お父様には悪いけど、もう少し外の世界を楽しみたいと思います。
一人でお屋敷を出るのは初めてでした。
常に誰かの監視があって自由がなく、外の世界に憧れていました。
今も少し怖いです。
だけどそれ以上のわくわくがあります。
お姉様が攫われていて不謹慎ですが、私が家出したのは自分のためだったのかもしれません。
そしてレイク様の母様に見送られ、ランス王国へ戻りました。
ランス王国に戻りさっそくレイク様探しを再開しました。
貴族の証である性を頼りに探せばすぐ見つかると思ったのですが、皆口揃えて『アレンシュタットなんて知らない』と言います。
3日間探しましたが手当たりがありません。
もしかしたら、ランス王国にはいないのかもしれません。
そうと決まれば次はアグラ王国へ向かおうと思います。
思い立ったらすぐ決行。
お父様から常々言われていました。
迷う暇があったら突き進め。
その日の内に私は荷物をまとめて、宿を出ようとしました。
『パリンッ』
やってしまいました。
背中にかけていた杖が宿の廊下に置いてあった壺に当たってしまい割ってしまいました。
とても怒られました。
泣いて……ないですよ!
ちょっと大人の男の人の大きな声にびっくりしただけです。
壺の値段は金貨50枚。
そんなお金ありません。
とりあえず払える分払いました。
そして今日から宿で働くことになりました。
ですが心は前向きに。
まだランス王国にレイク様がいると信じて、空いている時間をレイク様探しに充てました。
そして1週間程経った頃、ランス王国に魔獣が現れる事件が起きました。
私は興味本位で現場を見に行きました。
そしたら謎の行列ができていました。
なんの行列かわかりませんでしたが、行列の根源であろう人が『すみません。今並んでいる人で最後でお願いします。』と言っていたので、どうせならと思い並びました。
並んでいる途中で気づいたのですが、どうやらこの列は、少々いかがわしいことをされる為に並んでいる列のようです。
このまま並んだら私も見ず知らずの人からいかがわしいことをされる……と思いましたが、この人気ぶり、どんな顔をしている方なのか気になったので並ぶことにしました。
私は決して面食いではないですよ。
ただ少しだけ絵本に出てくる王子様に憧れているだけですよ。
少しうきうきしつつも私の番が来ました。
そして目の前には、あの絵画の方。
レイク・アレンシュタット様がいました。
「あ、あの、悩みは何ですか?」
レイク様は私にそう聞きました。
ですが、私はようやく見つけた感動でついその言葉を無視してしまいました。
なぜなら、体に電撃にも似た感覚が襲ってきたからです。
「レイク・アレンシュタット様……私はあなたを探していました」
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