第19話 フォーリン・バレットスター
フォーリン曰く、攫われたのは2週間前。
執事の中の1人に悪魔が紛れており、寝静まった夜にニーナとフォーリンを攫おうとしたらしい。
しかしニーナの抵抗によりフォーリンだけが逃れたとのこと。
10年も前からいた執事なだけあって、全く警戒していなかったみたいだ。
フォーリンの目でもいい執事として忠実に仕えているように見えたらしい。
その分、ショックが大きかったみたいだ。
そして現在ここにいる理由だが、自分も攫われたことにして外に出ているらしい。
その為バレットスター家は大騒ぎの真っ只中だと言う。
名前もここではリンと名乗っているみたいだ。
それもそうだ。
貴族であるフォーリンが一人で外に出れるはずがない。
私は例外だが。
しかし魔獣ではなく悪魔……
魔獣であったならそれは十中八九マーチルの手筈だろう。
そうであったならついでに助けるということができた。
しかし別々となるとどちらかが遅れることになる。
マーチルを早く倒したい……
そして、妹を助けなければ。
悪魔……
何か引っかかる。
脳裏にちらつくこの白い髪は何だ。
「わかった。その悪魔の居場所はわかるか?」
「……すみません。まだわかってないんです。」
「そうか……」
くそ、わからないのか……
これでは倒しに行く段階にも立てていない。
マーチルの居場所はキールが知っている。
ならば確実に倒しにいけるマーチルを優先すべきだ。
だが、せっかくこっちまで来た手前、手を出さないのは気が引ける。
「お前が予測しているとこはどこだ?」
「えと、ガラハ王国とトリス王国の間あたりだと思います。」
「その根拠は?」
「以前からそのあたりに下級悪魔の目撃例が多発しています。」
確かにそれはおかしいことだ。
悪魔は基本、魔大陸デスフィールドに住んでいる。
魔大陸とは大陸自体が汚染されていて、魔力を常に放出し続ける大陸のことだ。
悪魔は生きているだけで魔力をかなり使う為、魔大陸の様に魔力に満ちている場所でしか生きていけないはずだ。
つまり、魔力を供給する方法が何かしらあるということだ。
魔力が出るときというのは、一般的に魔法を使った時だ。
大魔法を使った後などに悪魔が湧きやすいのはそれが理由だ。
そのためか、魔力をもとに生きている悪魔は魔法に長けている。
しかし悪魔の使う魔法は普通の魔法とは違い、使っても魔力は発生せず消失する。
それがこの世に魔力が溢れない理由だ。
つまり、下級悪魔が湧くということは、そこに魔力の供給源があるということ。
ということは魔力が濃いところに行けば自然と悪魔の巣窟に辿り着けるはずだ。
「そうか、気になったのだが、その執事はどうやって生きてきたんだ? 魔力がないと体を維持できないはずだ。」
「それが私にもわからないんです。最初は私たちが魔法の訓練で使った時に出る魔力かと思いましたが、それでは余りに微弱なので維持はできないと思います。」
これも謎だ。
魔力を必要としない悪魔など聞いたことがない。
魔力ではなく実体をもつ悪魔がもしいるとしたら。
たしか魔女もそんな感じの存在だったはずだ。
それだったら辻褄が合う。
「待て、まず、どうしてニーナが攫われたんだ?」
悪魔側になんのメリットがあるのだろうか。
10年も潜伏していたということは計画的な犯行と断定していい。
攫って身代金を要求する?
いや、違う。
悪魔に金は必要ないはずだ。
計画的な犯行をする奴がただの快楽殺人であるわけがない。
何かしら目的があるはずだ。
「ん……わかりません。」
フォーリンの方にも心当たりがないみたいだ。
駄目だ、まるで目的がわからない。
まあいい。
俺は勇者だ。
つべこべ考えず助けに行かなくては。
「まあいい、明日から行けるか?」
目的の場所までは500キロは離れている。
かなりの長旅になるだろう。
(おい、明日のエレンさん達との約束はどうするんだ?)
許嫁が攫われているのだぞ! それを優先するに決まっているだろう!
(……宿の修理費はどうするんだ?)
1ヶ月の猶予がある。それまでには払う。いざとなったらまたあの女を騙す奴をやればいいだろ
(今、勇者とは思えない発言があったぞ。)
とにかく、私は行くぞ
「あ、あの、申しにくいのですが、数日待っては貰えないでしょうか?」
「その、私一昨日この宿の備品を壊してしまいまして……その、30万ゴルの弁償があって……払わないと詰所に入れると言われてまして……その、すみません」
「お前もか!」
「え、ってことはレイク様もですか?」
やばい、衝撃のあまりつい声に出してしまった。
てか、どうして嬉しそうなんだ。
仲間を見つけたみたいな顔をするな。
「あぁ、ちょっとあってな」
「そうだったんですね。因みに何をしちゃったのか教えていただいても……」
「そんなことより、その借金どうするつもりだ?」
「あ、今はこの宿のお手伝いをしています。」
「いくらもらえるんだ?」
「1日1万ゴルです……」
「そんなんじゃ1ヶ月もかかるだろう!」
「だって、してくれって頼まれちゃって……」
頼まれたらなんでもするのかこの女。
貴族としての威厳を感じられない。
変な男について行ってしまいそうな危うさがある。
「はあ、わかった。フォーリンは魔法が使えるんだよな?」
バレットスター家は代々魔法を得意としている家系だ。
嫁ぐ運命にあるとはいえ、自己防衛できる程度の魔法は教わっているだろう。
「はい」
「治癒魔法はどうだ?」
治癒魔法を使えるものは少ない。
だが、ニーナは確か使えると言っていた。
であるならば、フォーリンも使えると踏んだ。
フォーリンは小さな胸を張り、自慢げに
「得意です!」と言った。
これは朗報だ。
ルディは治癒魔法を使えない。
ヒーラーが一人いるだけで前衛の安心感は変わる。
「明日から私の依頼を手伝ってもらう、いいな」
「え、はい。あ、でも宿の人に聞いてきます」
慌ただしいやつだ。
私の許嫁のニーナはこんなにバタバタしている人ではなかった。
とても大人しく貴族としての振る舞いも完璧だった。
「わかった。さっさと行ってこい。」
「はい!」
元気よく返事したと思えば、宿主に報告するため、急いで外へ出て行った。
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