第18話 許嫁の妹

 現在、銀次寿司というところへ来ている。

 銀次寿司はランス王国内でも指折りの高級店だ。

 出てくる品は魚を米に乗せただけの簡単な代物なのに、美味いと評判だ。

 値段もそれなりで貴族御用達のお店でもある。

 その為、店内には明らかに貴族専用の部屋があるが、平民は個室ではなくカウンターに座る。

 私とフォーリンはまごうことなく貴族だが、私はともかくフォーリンもなにやら事情がある様で貴族であることを隠していた。

 そのため、個室ではなく、カウンターに着く。


 1ゴルでも貯めたいこの時に、どうして高級店に来たかというと、エイニがうるさいからだ。

 何やら故郷を感じるとか……

 エイニの記憶が戻ればいいが……


「へいらっしゃい。何をお出ししましょうか?」


「お任せを頼む」


「彼女さんは?」


「え!? あ、私もお任せで……」


 店員は皆渋い顔をした男達だった。

 しかし、出てきた料理は一口サイズの繊細なものだった。

 本当にこんなものがうまいのだろうか?

 

 どうやら素手でつかんで口に運ぶものらしい。

 店員に言われた通り、寿司とやらを口にする。


「うまい!」


 衝撃だった。

 魚をご飯に乗せただけだと馬鹿にしていたが、先ほどの非礼を詫びようと思う。

 魚は口に入れた瞬間溶け、米はふわふわしていて魚と絶妙にマッチしている。

 昼は大したものを食べていなかったのでかなり腹が減っていた。


 それもあってか今まで食べた料理の中で一番うまいのではないかと思った。

 フォーリンも同じだったのか、次々と出てくる料理を口に入れるたび、感動していた。


「いい顔で食べてくれて嬉しいねぇ、ほら嬢ちゃんサービスだ」


「ありがとうございます!」


 フォーリンは食いっぷりが気に入られてサービスまで貰っていた。

 先程の悲しみに満ちた顔とは正反対だ。

 存分に食べた後フォーリンは口を開いた。


「あの、レイク様、ここお高いんですよね? 私、少しだけですけど……」


 そう言って白い高そうな財布の口を開けようとした。


「いい、ここは奢る。それよりニーナのことについて聞かせてくれ」


 そう言うと、フォーリンは分かりやすく表情が暗くなった。


「私、お姉様が大変な時にこんな美味しいものを食べて……」


 また泣き出してしまった。

 エイニが(やーい泣かせてやんの)と煽ってくる。鬱陶しい!


「泣くな。気持ちはわからなくはない。ただ今は自分がここにいる事を喜べ。ニーナもお前が泣いていることなんて望んではいない」


「ぅっはい……」


 とりあえず泣き止んだ。

 俺はすぐ泣く奴が嫌いだ。

 俺は泣くことを許されなかった。

 泣くくらいなら泣かないよう努力をしてきた。


「とりあえずここから出るぞ」


 いつの間にか閉店時間を過ぎていた。

 その為周りには俺たち以外には店員しかいない。

 店員は俺たちに気を遣って、帰れと言わなかったみたいだ。


「会計を頼む。フォーリンは先に外にいてくれ」


「わかりました」


「はいよ、えー合計7万ゴルね」


 まじか……稼ぎが綺麗さっぱり消え去った。

 確かにフォーリンは沢山食べていた気がする。

 しかしこんなに高いとは思わなかった。

 この世界の食事は1000ゴルもあればお腹一杯食べれる。


 外に出ると、申し訳なさそうな顔をしてフォーリンが待っていた。


「あの……本当によかったんですか?」


「あぁ大丈夫だ」


 嘘だ。

 全く大丈夫ではない。

 これでは宿にも泊まれない。


「それよりどこか話のできるところへ行こう」


 ギルドならまだレバゾアがいるだろう。

 あそこなら知らないやつに聞かれずに話ができる。


「閉まってる……」


 しまった……ギルドでそのまま寝ようとも思っていたが、使えないとなると今日は野宿か。

 私ともあろう者が野宿をするときが来るとは……


「あ、あの、話をするだけなら私の宿に来ませんか?」


 それは願ってもない申込みだ。

 話を聞いてそのまま部屋を貸してもらおう。


「わかった。向かおう」




ーーー




 宿は少し高そうなところだった。

 流石は貴族といったところだろう。

 一階にはシャンデリアがあり、娯楽ルームまであった。

 2〜4階が客室みたいだ。


「ここが私の部屋です」


 部屋に入ると、ほんのりといい匂いがした。

 懐かしい匂い、ニーナの香りだ。

 部屋の中は片付いている……というかものが極端に少なかった。

 その為より広く感じた。


「遠慮なく座ってください」


「わかった」


 この部屋の備え付けの椅子に腰掛け、フォーリンと対面になる。


「あ、今お茶淹れますね」


「頼む」


 数分待たされたのち、フォーリンはお茶とお茶と菓子を持ってきた。

 こいつ、先程あれだけ食べたのにまだ食べるのか……


「で、話しなんだが、何があったか詳しく話せ」


 持ってきたお茶と菓子に手をつけず早速話を切り出した。

 それだけ不安なのだ。


 一方フォーリンは菓子を口に運ぼうとしていたが、恥ずかしそうに戻し、何があったかを話し始めた。

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