第17話 お悩み相談

 やばい、寝床を失った。

 所持金0、借金100万いや、110万ゴル。


 しょうがない、ここはエレンかルディの宿にお邪魔させてもらおう。

 幸い、まだ視線の先にエレンとルディが並んで歩いている。

 しかし俺はその2人の元へ走ろうとしたのだが、体がいうことを聞かない。

 原因は一つ、エイニだ。エイニが俺の動きに抵抗している。


 おい、どうして止める!?

 (お前、馬鹿か!? あの2人の発言聞いたらわかるだろ!)

 何か言っていたか?

 (ルディさんが、明日連れてくるって言ってただろ!)

 それがどうした? それとこれとは関係ないじゃないか。


 (大ありじゃ! つまり今日はその、エレンさんとルディさんは一緒にいるってことだ!)

 そうなのか? ……だったら都合がいい。私も同伴すれば明日は全員揃ってギルドに向かうことができるだろう。

 (あー! もう! お前は馬鹿なのか天然なのか!? お前には恋愛というのがわかっていない! あの2人の様子を見ればわかるだろ! あの2人は確実にできてる! 今お前はそれを邪魔しようとしていたんだぞ! そうすれば確実に2人から恨まれる。しかもあの2人はまだお互い好きというのがわかっているのにあと一歩が踏み出せない、そんな一番楽しい時にいると見た。2人の恋路の邪魔は俺が許さん!)


 そういうものなのか……済まない危ういところだった。だが、宿はどうする?

 (そうだな、宿に泊まれる金を作るしかないだろ。)

 どうやって? もうギルドは使えないぞ。

 (俺にいい考えがある。)




ーーー




「はい、次の方〜」


「はい、私最近子育てやら家事やら頑張っているのに、夫が冷たくてーーー」


「よしよし、君は偉いよ。夫だってきっと気づいているさ。ただ今は恥ずかしくてつい冷たく当たっちゃうんじゃないかな。今度2人っきりの時に後ろからハグしてみれば昔を思い出して、愛が戻るかもしれないよ。」


「ありがとうございます! あ、あの、ちなみにどんな感じでハグすればいいでしょうか?」


「こう、後ろから優しく」


「はうぅ〜ありがとうございまふぅ」


「はい、次の方〜」


「私、最近ーーー」


 私、いや俺が今しているのはお悩み相談だ。

 悩める人々の悩みを聞いてあげ解消させてあげる立派な慈善活動だ。

 初めはレイクがやっていたが、正論をぶつけにぶつけ客をぶちギレさせたので今は俺が表に出ている。


 そのおかげか口コミが口コミを呼び、現在30人待ちと大繁盛だ。

 価格は一回1000ゴルだ。でもこの人気ならもうちょっと取ってもいい気もする。


 これもこの見た目が大きく関わっているだろう。

 まったくこれだからイケメンは辛いぜ。


 こんな半分ホストみたいなことをして、レイクは怒らないのかって?

 レイクも背に腹は変えられないと言って了承してくれている。

 ま、これは決してやらしいことではないからな。

 アレンシュタットの名もギリギリ汚さないだろう。

 ただ悩みを聞いてあげて、ちょっとハグしたり頭を撫で撫でしてあげるだけだ。


 客層はもちろん女性が多い。

 中にはちょっとやばめの男もいるが……

 まあ女性の中にはかなり美人の方もいて、その時は平静を装っているがかなり息子が暴発しそうになる。


 だが、大半はマダムだ。

 やたらスキンシップを求めてきて少し気持ち悪い。

 金を払っているのだからこれくらいいいだろうという魂胆が丸見えだ。


 これがキモ男につけられるキャバ嬢の気持ちか……

 まあ、前世で一回も行ったことはないんだが。


 しかし困ったことになった。

 行列に終わりが見えない。

 想像以上の人気っぷりだ。

 もう30分以上やっている。

 おかげでお金がわからないくらい溜まっている。


 10万ゴルぐらいは溜まったんじゃないだろうか。


 なあ、このままこの商売で100万ゴル貯めね?

 (駄目だ。俺は冒険者だぞ。こんなことで稼いだだなんて一生の恥だ)

 夜のお仕事の人達に謝れ!

 (とにかく駄目だ。残りの客も捌いてさっさと宿を取るぞ)

 へいへい、わかりましたよー


「すみません。今並んでいる人で最後でお願いします」


 最初は反感が来ると思っていたが、案外すんなりと列は解消された。

 そして最後のお客さんは異彩を放つ人だった。

 純白のローブをつけていて顔ははっきりと見えない。


 お客さんとして並んでいたんだよな?

 ローブの人は俺の前に立って一言も話さない。

 見た目からは男か女かはわかりにくいが、ほんのりと胸の辺りが膨らんでいるためおそらく女だろう。


「あ、あの、悩みは何ですか?」


「レイク・アレンシュタット様……私はあなたを探していました」


 そう言ってフードを外し顔を見せた。

 長い白髪に白い肌。

 整った顔に薄い緑の綺麗な瞳。

 とても可愛い。

 もし、耳がとんがってたらエルフと間違えられてもおかしくない美貌の持ち主だった。


 そして俺の名前を知っている。

 知り合いみたいだ。


 おい、レイク、お前の知り合いが来ちゃったぞー

 (……知らない……俺はこんな目立つ女見たことがないぞ)

 酷いやつだな。一度会った女を忘れるなんて

 (違う、俺は生まれてからずっとアレンシュタット領にいた。領地の民の顔は皆覚えている)

 ってことは本当に知らないんだな?

 (あぁ、嫌な予感がする。逃げろ!)


 こんなかわいい子に何か悪い予感がするか?

 せっかくハグできると思ったのに……

 まあ仕方ない。

 俺も厄介ごとは避けたい。


「すみません。僕、君のこと知らないので、あ、お代は結構です。それでは」


「待ってください!」


 離れようとしたが服の袖を掴まれた。

 それを振り払おうとしたがなかなか力が強く振り払えない。


「やめ、やめろー!!」


「やめません!」


 その騒ぎに周りの視線が集まる。


「知らなくて当然です。私が一方的に知ってるだけですから」


 なるほど。

 だからレイクが知らなかったのか。


「そもそも君は誰なの?」


「私はフォーリン・バレットスターと申します」


 (バレットスターだと!?)

 なんだ? やっぱり知っていたのか?

 (バレットスターは許嫁の性だ)

 まじか、こんな可愛い子が許嫁なの? やべ、興奮してきた

 (違う、性は同じだが名が違う)


「姉、ニーナ・バレットスターの妹です」


 (ニーナ……私の許嫁だ。そう言われてみると似ている。わざわざランス王国に来たということは……ニーナに何かあったのか!?)

 俺に聞かれても……変わってやるから話を聞いてやりな


 人格の入れ替え型は簡単だ。

 裏の人格が変わりたいと思い、表の人格がそれを了承する。

 これだけだ。


「何があった?」


「え、あ、はい。ニーナお姉様が……悪魔に攫われました」


 フォーリンはいきなり人格が変わったことに少し戸惑いつつも重要な事を告げた。


「私はお姉様のおかげで助かったのですが、お姉様は、お姉様は……」


 今まで耐えてきたのだろう。

 口にして、実感が湧き涙を流した。


 バレットスター家はトリス王国付近にある割と大きな領地の領主だ。

 代々勇者を排出している家系だが、今代は男が生まれず、ニーナとフォーリンが生まれた。


 泣いている女の子をこんな道の真ん中には置けない。

 とりあえずどこか飲食店に入ろうと提案した。


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