第15話 記憶2
私の体が私の意思に反して動いている。
そしてここはどこだ?
見わたす限り一面の木々。
全く見覚えがない。
「これ、うまいんかなー」
明らかに毒キノコだとわかるキノコを持って、そんなことを言っている。
「まあいいや、こんだけいろんなキノコがあれば、一つくらい変なの混じってても気づかないだろ」
なんて適当な奴なんだろう。
確か今入れたキノコは、インフルデスタケと呼ばれるものだ。
繁殖力がほかのキノコと比べて段違いに高く、ほかのキノコをも食らいついてしまうことから別名キノコ食らいと呼ばれるものだ。
ものの数分でほかのキノコがインフルデスタケに代わることだろう。
食えば体の中にも繁殖し、体の中の養分を吸い尽くしてしまう恐ろしいキノコだ。
冒険者ならあたりまえの知識なのに、そんなこともわからないのか。
(おい、お前はだれだ!? どうして私の体を使っている!?)
「今日はキノコ鍋にしてもらおう」
くそっ、私の言葉が通じない。
はあ。
これは紛れもない事実だ。
アレンシュタットたるもの、常に冷静に対処をしよう。
まずは記憶を振り返れ。
私は確か……
ーーー魔獣災害から3週間前のこと
私の記憶で真っ先に思い出せたのは、アレンシュタット領で行われた勇者選抜だ。
父上の修行の甲斐もあって苦戦することなく優勝した。
そのあと、私はどこに何をしに向かったか……
確か、とある家族で殺人が起きて、現場に向かってーーー
アレンシュタット領は父上の手腕あってこういった事件は珍しかった。
だから息子である私が直接向かったのを覚えている。
現場には女の子が一人いた。
赤毛で年は私より3歳ばかり幼かっただろうか。
殺されたのはどうやらこの子の両親らしく、家の周辺には痛々しい血痕が散らばっていた。
死体は近隣の住民が埋めてくれたみたいだ。
「レイク様!」
赤毛の少女が私を見つけた途端、抱き着いてきた。
両親を失った直後で心が傷ついているに違いない。
領民のメンタルケアも領主の役割だ。
私は少女のメンタルケアに全力を注ぐことにした。
少女曰く、突如魔獣がやってきて、両親を襲ったらしい。
その証拠に散りばめられた大きな羽を見せてくれた。
魔獣というのは、大量の魔力を吸い込んだ獣のことを指す。
魔力を吸いすぎると、体が大きくなり、大きな羽が生えるらしい。
今回の事件は誰かによる殺人の線はなくなった。
領民にそんなことをする者がいないことに安心した。
しかし、どうして魔獣がきたのだろうか?
この領周辺は普通の魔物すらほとんど現れない。
あらわれてもゴブリンやコボルトといった下級魔物しかいないというのに。
父上に頼むとして、私の方でもいろいろと調べよう。
ーーー
例の事件から2週間が経とうとしていた。
そこで2つの疑問ができた。
それは、どうしてあの少女が魔獣の特徴を知っている?
それに、どうして少女だけが助かった?
獣は例外はあれど、総じて人間の匂いに敏感だ。
たとえ隠れていたとしても、見つかるのは時間の問題。
それに、家の方は壊されていない。
それどころか、他の領民に危害が一切起きていない。
これじゃまるで、少女の両親だけが狙い撃ちされたみたいだ。
少女の家族について調べた。
少女の両親はごく普通の羊飼いだ。
そして少女は二人の実の娘であるようだ。
しかし、少女を昔から知る子供からきいたところ、少女は少し変わっているらしい。
誰とも群れようとせず、動物とばかり話していたようだ。
本人を知るもの曰く、動物と話せるらしい。
それも相まって距離を置いていたとのこと。
魔獣騒動に、同部と話せる少女。
もし、話せる動物の中に魔獣が含まれているとしたら……
可能性はゼロではない。
直接聞くしかないな。
ーーー
実のところ、毎日少女のところへ通っていた。
少女がそれを望んでいたし、私も人に頼られる感覚に酔っていたからだ。
勇者候補になってから、私は父上に断りを入れずに行動することが認められている。
そして初めて起きた事件。
少女には悪いがわくわくしていた。
しかし、それが功をなした。
おかげで、怪しまれずに探ることができる。
「レイク様、今日はサンドウィッチを作ったの。食べてみてください!
来るたび少女は手料理を作ってくれる。
今回はスクランブルエッグと野菜を挟んだシンプルなものと、ハムとチーズと野菜を挟んだこれまたシンプルなやつだった。
私は、最初のころは手料理を拒んでいた。
しかし、食べなければとても悲しそうな顔をする。
そのため、私は食べるようになった。
ちなみにだが、味は普通においしい。
そのため、私は警戒など微塵もしていなかった。
ーーー
目が覚めると、そこには少女と白い髪を靡かせた長身の男が立っていた。
ここはどこだ?
私は確か少女の家に来て、いつも通り手料理を振舞われて……
そうか。
睡眠薬でも盛られたのか。
何たる失態。
父上に合わせる顔がない。
あたりは薄暗く、二人の顔ははっきりとは確認できない。
少女の方はおそらくあの少女だろう。
しかし、男の方は全くわからない。
白髪は珍しい。
もし見たことがあるなら覚えているはずだ。
「ごめんなさい。でも、これは仕方ないことなんです」
何を言ってるんだ……
怒りが沸いてきた。
しかし声を出そうにも口に何か詰められていて話すことができない。
手足も縛られている。
「あっ今外しますね」
そうして簡単に拘束を解いてくれた。
今は装備がないが、素手でもこの女を屠ることくらい造作ない。
しかし、隣の男には恐ろしい力を感じる。
おぞましいような、落ち着くような……
私の力が通用しないことは本能でわかった。
「何が目的だ!?」
「来るべき時を待て。いづれレイクはーーー」
私の記憶はそこで途切れている。
男は何を言っていたんだ?
何か大事なことを教えられた気がする。
しかし、認めたくはないが、私はこの声に魅せられていたのだった。
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