第14話 本物

「レイク、お前は誰だ?」


 レバゾア商会に帰る道すがらエレンが私に向けて言ってきた。


「私は私だ。レイク、レイク・アレンシュタットだ」


「アレンシュタットって、貴方、貴族だったの!?」


 ルディが驚いた顔で今更なことを言う。


「そうか。もう一度聞く、お前は誰だ?」


 エレンがも一度聞いてきた。

 こいつは何かと鼻がいい。

 下劣な獣人だからか。


「何が言いたい?」


「お前は今まで自分のことを言う時は、アレンシュタットを名乗らず、ただのレイクと言っていた。だが、お前は自分の本当の名前を明かしている」


「貴様等は一つ勘違いしている。私が本当のレイク・アレンシュタット。そして今まで会っていたのが偽物のレイクだ」


「どういうこと……?」


「説明している暇はない。私はやることがある。では」


 そう。

 全ての元凶であるあの女を始末しなくてはならない。

 今はまだ気づかれていないだろう。

 名前はわからないが、俺を利用していたやつに賞賛をやろう。

 いろいろと好き勝手してくれたみたいだがな。


「ルディ、レイクのことは俺から話そう。実は調べていたことっていうのが、4ヶ月前にアレンシュタット領であった魔獣災害のことについてだーーー」




ーーー




 俺はランス王国へと戻ると真っ先にいつも使っている宿に戻った。

 そこにやつはいる。


「おかえり、今日は早いね。じゃ、今日はーーー」


 俺ははマーチルの話を遮ってマーチルの首筋に剣を当てた。


「レイク……?」


 何をとぼけた顔をしている。

 その顔が余計腹ただしくさせる。


「見苦しい! 貴様は全て見ていただろう」


「え、何のこと? とりあえず剣を下ろしてくれないかな?」


 この状況でまだ白をきるつもりか!?

 今すぐその細い首を刎ねたいところだが、こいつにはきかなくてはならないことがある。


「さっきのは貴様の仕業だな! 答えろ!」


「何のこと? レイク怖いよ、落ち着いて、ね?」


 もういい。

 話すつもりがないのならやるしかない。

 ここを逃せば次の機会はいつになることか。


 しかし体が動かない。


 (やめろ、マーチルに何してるんだ!)

 黙れ、貴様は見事に騙されていたようだな。

 (騙されていたって何のことだよ!? 適当なこと言ってんじゃねえよ!!!)

 貴様はこいつが日中何をしているのか知っているのか?

 (俺のために何かいいことをしてるんだろ!? いつも俺の為に美味しい料理を作って掃除洗濯もしてくれているんだから!)

 じゃあ教えてやろう、こいつがしていることを。


「貴様は動物と会話できる、間違いないな?」


「うん、でも、動物だけで魔獣とは会話できないよ!!」


「魔獣? どうして魔獣なんて言葉が出てくるんだ?」


 簡単に簡単にボロが出たな。

 見た目通り頭脳も幼いみたいだ。


「え、それは……」


 わかっただろう、さっきの魔獣はこいつの仕業だ。

 そもそも剣を当てられているのにこの落ち着き様、どうにかできる算段があるに違いない。


 (……)


 こいつは今ここで殺す。

 わかったら抵抗はやめろ。


(何か理由があるはずだ)

(俺たちに魔獣をぶつけた理由が……)

(それを聞かずに殺すことは認めない!)


……わかった。では聞いてやろう。

こんな奴にまともな理由が存在するわけがない。


「どうして魔獣をぶつけた? ことによっては今ここで貴様の首を刎ねる」




「……」




「あと5秒以内に応えろ。さもなくば切る」


「……だって、あの女レイクに色目を使ってたんだもん」


「……」


 どういうことだ?

 (俺に聞かれても。女ってルディさんのことか?)


「もちろんレイクは殺すつもりなんてなかったよ! ただちょっと看病が必要なくらいな怪我は負ってもらおうとは思ったけど……そうすればしばらく一緒にいられるでしょ!? ここ1ヶ月レイクは私のことなんて二の次で仕事ばかり」


「そんなことで……人を殺そうとしたのか?」


「そんなことって何!? 私にとってレイクは私の命より大事なの! やっと手に入れたのに、周りはレイクを奪おうとする奴ばかり。私のなのに。私が手に入れたものなのに!」


「私が貴様のものだと? 勝手なことを言うな! 第一、私には許嫁がいる」


「だから?」


「貴様よりも気品があり、美しい許嫁がいる。貴様と比べるのも甚だしい」


 マーチルの顔が見る見るうちに暗くなっていく。

 これは地雷を踏んだ。

 以前のレイクはこの話を避けていた。

 絶対に不機嫌になるとわかっていたからだ。

 しかし今のレイクにはそれがわからない。

 しかも許嫁のいい特徴を言うという追い討ちまでしてしまった。


 突如首筋に構えていた剣が弾かれた。


「きゃー!!」 「うわあ!!」 「助けてくれー!!」


 それに合わせてか何やら騒がしい。

 外から悲鳴が聞こえる。

 窓から外の様子を除くと、魔獣たちがここに近づいているのが見えた。



「私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のレイク私のーーー」


 やばい。

 早く首を刎ねなければ。


「おいっ! 抵抗はやめろ!」


 私の中の私が抵抗していて、腕が動かない。


 そして魔獣が宿の屋根を突き破りこの部屋へ侵入したかと思うと、すぐマーチルを連れてどこかへ飛んで行ってしまった。


 逃してしまった……

 まずいことになった。


「レイク! 大丈夫か!?」


 騒ぎを聞きつけエレンとルディが部屋に入ってきた。


「ここに帰る途中、魔獣がランス王国へ向かっているのを見かけてもしかしてと思ってな」


「エレン、今までお世話になった。私には向かうところができた。レバゾアにそう伝えてくれ」


「待て、何を焦ってる?」


「止めるな! 私は気が立っている」


「まあまあ、かっかしてちゃ見えるものも見えなくなるぜ? レイク」




 ドアの前に、いつの間にか地獄耳ことキールが立っていた。

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