第11話 再出撃

 家に戻ると、おいしそうなにおいがした。

 どうやら夕食を作っているらしい。

 なんてグッドタイミングなんだろう。

 マーチルはいつも俺が帰るタイミングで夕食を作っている。

 まるで、俺の帰りが予知できてるかのように……


 俺を理解しているということだろう。

 そうだ! 嫁にしよう。

 許嫁? もうアレンシュタットでない俺にそんなものはいない。


「ただいまー」「おかえりー」


「先にお風呂行ってきて。あと20分くらいで出来上がると思うから」


「おいっすー」


 これはもう夫婦と言っても過言ではないだろうか。

 冒険者として安定してきたら籍を結んでしまうのもありだろう。

 マーチルは現在15歳、この世界は男女共に16歳以上であれば結婚できるらしい。

 つまり来年になれば結婚できるということだ。


「よう、お前さん妙に浮かれてんな、いいことでもあったかい?」


「うわっ!」


 風呂に向かう道すがら、久しぶりにいつぞやの覗き魔に声をかけられた。

 実に一か月ぶりの再会だったが、最初の印象が濃かったためかすぐに思い出せた。


「どうした、幽霊でも見たか?」


「別に、何でもないです」


「堅苦しいなぁ、俺とはタメでいいぜ」


「わかった。んでいつぞやの覗き魔さんは今日も覗きに?」


「酷いなぁ俺のことは気軽にキールでいいぜ。今日は単純に癒されにだ。ここぐらいだぜ? こんなにでかい風呂があるの」


 風呂にはいつもとは違くて人数が多かった。

 今日はいつもより早い時間帯だったからだろう。


「風呂は心も体も裸にしてくれる。裸の付き合いは大事だぜ? レイク」


 ん、俺はキールに名前を教えたっけ?


 風呂場に出るとキールは真っ先に例の覗き穴を確認しに行った。

 残念だが、あの穴はすでに封じられてる。

 なんで知ってるかだって?

 言わずともわかるだろう。


「ちっ、おやっさんたら仕事が早いやい」   


「おっキール、お前また覗きかい? お前も懲りないねえ」


「やかましいやい、これは男の性だ!」


「いい覗き穴見つけたらまた教えてくれよ」


「もちろんお代はいただくぜ?」


 キールが風呂場に来ると、風呂場にいた人達から次々と声がかかる。

 どうやら有名人らしい。

 少し羨ましいと思ってしまった。


「キールには気をつけな。あいつは地獄耳のキールって巷ちまたじゃ有名なんだ。会話しているうちに情報を抜き取られるぜ」


 体を洗っていると隣に40歳ぐらいのおじさんが座り、俺にそう耳打ちしてきた。


「おいおい、聞こえてるぜ、誰が地獄耳だって?」


「ほらな。ガッハッハ!」


 これは想像以上だ。

 周りは適度にガヤガヤしていて、しかも小声で耳打ちしてくたのにも関わらず今の会話を聞かれていた。


「お、いい反応だね。そう、地獄耳のキールってのは俺のことさ。どんな情報も値段次第で教えてやるぜ」


 なるほど、俺の名前を知っていたのもどこからか聞いたということか。

 だとしたら怖いな。

 ほかにも俺のあんなことやこんなことがばれてるのか?

 今度ルディさんのおっぱいの大きさでも調べてもらおう。


 それからもキールとおじさん達の下世話な話を小耳に風呂を満喫した。


「じゃ、彼女が飯作って待ってくれてるので先上がるわ」


「ちょい待ち、彼女ってあの赤毛の子だろ?」


「? そうだけど……」


 どうしてそんなことを聞いたのだろうか?

 少し引っかかる。


「いや、何でもない。お熱いねフューフュー!」


 キールに続いておっさんたちも汚いヒューヒューを飛ばしてきたが、気にせず俺は愛するマーチルの元へ戻った。


 部屋に戻ると丁度いいタイミングで食事が運ばれてきた。

 なんてタイミングのいい子なのだろう。


 食事中は今日あったことをたくさん話した。

 ゴブリン退治に行ったこと。

 そこでゴブリンロードにあって危なかったこと。

 その他etc……


「で、その魔法使いの女とはどういう仲なの?」


 話の流れでルディさんの話になった。

 妙に食いついてくる。

 なんた嫉妬か? 可愛いなおい。


「どういう仲も何もただの仲間だよ。もしかして妬いてる?」


 冗談混じりでそう言ってみた。


「だって、頼りになって、スタイルも良くて、大人なお姉さんでしょ? ねえ、私の方が大事だよね?」


「そりゃもちろん。マーチルが一番だよ」


 マーチルにそう言うとわかりやすく照れてきた。


「じゃ、明日も早いから先に寝るね」


 ベットに入ると1分もたたず寝てしまった。


 朝の流れは大方同じだ。

 マーチルが食事を用意してくれてそれを食べてレバゾア商会へと向かう。

 昨日とは違い、ルディさんとマストさん、レバゾアさんが揃っていた。


「みなさん、おはようございます」


「あぁおはよう、あとはエレンだけだね」




ーーー




「ったくあの野郎、時間通りきやがれってんだ」


 だんだんとマストが苛立ちを覚えてきた。 

 その気持ちはわからなくはない。

 なんでったってもうかれこれ1時間が経とうとしている。


「悪い、遅れた」


「悪い、遅れたじゃ無いわよ! 昨日時間しっかり伝えたわよね!」


「あー、ちょっと調べることがあってな」


「調べることって何!? どうせまた、くだらないことなんでしょ!?」


「またってなんだよ、この前のスライムの繁殖方法は全然くだらないことじゃないだろ! 実際お前も話に食いついてたじゃないか!」


 昨日までのお姉さんっぷりとはガラッと変わり、やけにエレンさんにくらいついているな。

 ははーん、感のいい俺は察したぞ。


 ルディさん、エレンさんのこと好きだな?


「な、レイクも気になるだろ、スライムの繁殖方法!」


「ちょっと、レイクを巻き込まないで頂戴!」


「あはは、どちらかというと気になります」


「ほらな! 俺の勝ち!」


 何に負けたのかわからないが、ルディさんは、いい歳だろうが可愛く拗ねた。

 それに耐えかねてエレンさんから折れた。


「…ごめんごめん俺が悪かったよ! 今度飯奢るから」


「ウマシカ亭ね」


「は? あそこって……」


「じゃないと許しません!」


「……わかった。はあ、今日の報酬はパァか」


「約束だからね。ほら、みんな揃ったことだし行きましょう!」




 わかりやすく機嫌を直したルディさんに連れられ、再度ゴブリンの住まうマグル村へと向かうのであった。

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