第10話 惨敗
レバゾア商会で働き始めて1ヶ月近くが過ぎようとしていた。
初任務に行ったゴブリン退治といった討伐依頼というのは、基本的に戦闘に長けているガストさんやマストさんなどに振られている。
俺みたいな新人は薬草採集やキノコ採集、卵採集に魚採集。
まるで某なんとかーハンターのランク1のクエストのようなことばかりしていた。
しかし、今日は久々の討伐依頼。
内容は1ヶ月前の内容と殆ど同じ。
ゴブリン討伐だ。
どうやらランス王国から10キロばかり離れた農村にゴブリンの群れが住み着いたらしい。
メンバーも前回と一緒の俺とルディさん、ガストさんにマストさんの4人だ。
「今日の依頼は昨日言った通り、マグル村のゴブリン退治だ。情報によると、数は30近く、今のところゴブリンロードは見つかっていないが、この数の群れなら十分にいる可能性がある。心してかかれ」
レバゾアさんが今日の依頼の説明を再度確認してくれた。
しかし、ゴブリンロードか……強そうだな。
ま、とは言ってもゴブリンだ。
この一か月、ゴブリンロードは二回倒されている。
そのため、俺は感覚がマヒしていたのだ。
「それじゃ行ってきます」
ーーー
マグル村の近くまでやってきた。
しかし遠目からはゴブリンの姿が見えない。
「見えませんね」
「ええ、おそらく家の中に潜んでいるんでしょう。皆、耳を塞いで」
言われた通り耳を塞ぐ。
「サウンドボム!」
ルディさんが杖を振ると、突如すざましい轟音が響いた。
ゴブリンは音に弱いために選んだ方法だろう。
しかしこちらにも被害が及んだ。
耳を塞いでいたのにも関わらず耳鳴りが止まらない。
ルディさんが何やら喋っている。
しかし耳がやられていて聞き取れない。
だが、徐々に回復していき聞こえてくるようになった。
「見て、音に驚いたゴブリンがゾロゾロと外に出てきたわ!」
ルディさんは何やらはしゃいでいるが、その様子はまるでマンホールにゴキジェットをかけたときのようで、面白いような気持ち悪いような複雑な気持ちになった。
「それじゃガストとマストのペアで乗り込んで頂戴。私は遠くから魔法でやるわ。レイクは私の護衛ね」
「「おう!」」 「わかりました!」
俺の仕事はこっちに来るゴブリンを倒すこと。
しかし、ガストさんとマストさんの獅子奮迅の戦いでこちらに来るゴブリンは一体たりともいない。
今回の任務も無事終わりそうだ……そう思ったのが良くなかったのだろう。
「ぐはっ!」
突如成人と同じぐらいの大きさの丸太がガストさんに衝突し、ガストさんが吹っ飛ばされた。
そう、ゴブリンロードだ。
どうやら家の中に潜んでいたみたいだ。
「ぐおー!!」
ゴブリンロードが雄叫びを上げる。
マストさんはその隙にガストさんを連れてこちらへ戻ってきた。
しかし、ゴブリンロードはその巨体をもろともしないすざましいスピードでこちらへ来るマストに向かって走ってきた。
マストさんはガストさんを俺の方へ投げると、ゴブリンロードと対峙した。
ガストさんは意識はあるがとても苦しそうだ。
どうやら左腕が折れているみたいだ。
「ガスト、少し我慢して!」
ルディさんがそう言うと、ガストさんの左腕を無理やり真っ直ぐに伸ばし、ポーチあった本を腕に押し付け包帯で巻いた。
ガストさんは無理やり腕を伸ばされたのにもかかわらず声を出さず耐えていた。
流石は冒険者だ。
俺だったらさっきの音と並ぶ音を出す自信がある。
マストさんはゴブリンロードと互角の戦いをしていた。
「ロック」
ルディさんがそう言うと、ゴブリンロードの動きが少し止まった。
その隙をマストさんが逃すわけもなく、ゴブリンロードの胴に大きな一本線を描いた。
そしてゴブリンロードは雄叫びと鮮血と共に倒れた。
「早く帰りましょう。ガストの怪我を早く治さないと」
「お前ら、伏せろ!!」
突如、マストさんがそう叫ぶ。
しかし俺とルディさんはその言葉に即座に反応できなかった。
しかし、ガストさんが骨折しているにも関わらず、俺とルディさんの頭を持って地面に無理やり伏せさせてくれた。
その瞬間頭上を何かが通った。
後ろを見ると、緑色の大きな足……2体目のゴブリンロードだった。
ゴブリンロードは続け様に棍棒を振ってきた。
やばい、死んだ……と思ったらガストさんが身を挺して攻撃を受けてくれた。
「レイク、剣を持って!!」
ルディさんにそう言われ、剣を持っていないことに気づいた。
俺は剣を持ち、ゴブリンロードの腹を目がけて突いた。
しかし、その突きはゴブリンロードの左手に受け止められた。
しかし、いつの間にか来ていたマストさんがゴブリンロードに斬りかかろうとしていた為、ゴブリンロードは俺たちから距離を取った。
「ったくガスト、お前無茶しすぎだ」
「うるせえ、あいつの攻撃なんて屁でもねえぜ」
ガストさんはそう言うが、さっきの攻撃を受け止めたことにより、その部分が肌の色が青黒くなり、足元には血の池ができていた。
「駄目よ、今は一旦引き上がりましょう。ガスト、貴方死ぬわよ?」
ルディさんはそう言うと、ポーチから巻物を取り出し、それを開けた。
「テレポート!」
ーーー
気がつくとそこはレバゾア商会だった。
中には誰もいず、おそらく別の依頼に行っているのだろう。
「私、神父呼んでくる。それまでに死なないでね」
そう言うと、ルディさんは外へ出て行った。
神父とは無料で治療してくれる冒険者の味方だ。
どうして無料かだって?
それは優しいから……ではなく、日頃から税金を払っているからだよ。
ガストさんの容態は傍目から見て死んでいてもおかしくない。
腕はパンパンに膨れており、体は血まみれだ。
ここまで酷い状態になったのは俺のせいだ。
あの時無事な俺が動いていれば……
「おい、レイク、お前、俺のせいだとか思ってんじゃねえだろうな?」
ガストさんは、血まみれで今にでも死にそうなのに目は全く死んでいなかった。
「はい、実際俺が動いていれば……」
「戦いに誰かのせいなんて考えるな! そんなくだらないこと考える暇があったらそれをどうやって返すかを考えろ!」
「ちなみに俺は今、猛烈に酒が飲みてえ」
「は、はい!」
「ガストのくせにいいこと言うじゃねえか。ま、そういうこった。後ろばっか見てたら目の前の敵ですら倒せなくなるぞ。俺は肉が食いてえ」
「はい! え、ありがとうございます!」
「よう、おかえりさん。今回はこっ酷くやられたみたいだな」
レバゾアさんが帰ってきた。
ガストさんがこんな状態なのにもかかわらず、レバゾアさんは笑っている。
それは馬鹿にしているというわけではなく、二人の仲ゆえの行動だとわかる。
「こりゃゴブリンの返り血だぜ、レバゾアさん」
「ガッハッハ、そうか、ところでルディは?」
「私ならここにいるよ。すまないね、大方駆除したけど、ゴブリンロードが2体出てきてテレポートで戻ってきたわ」
ついさっき出たと思ったがもう戻ってきた。
隣にはいかにも神父って人がいた。
「テレポート使ってきたのか、関所に報告しなくちゃいけないじゃねえか」
テレポートを使うと関所に報告しなくちゃならないらしい。
理由は密入を防ぐ為だとか。
王国に張ってある結界がテレポートを感知して、関所に報告が行く仕組みらしい。
「悪いね、頼むよ」
「しょうがねえ、ちと行ってくるぁ」
レバゾアさんはそう言うと外へ出て行った。
ルディさんは魔法使いだが、回復魔法は使えないらしい。
その為、大怪我をした時は神父を呼ぶ。
「はい、頭骨のひびと、両腕、あと肋骨3本無事治しました。ですが、治りたてなので3日間は無理はしないように」
「よっしゃ、毎度ありがとな神父のおっさん」
「はい、どういたしまして。では、私はこれで失礼します」
「ありがとね。また頼むよ」
ルディさんが小さく手を振る。
神父は小さく礼をし、外へ出て行った。
「ってことは次にゴブリンオークを倒しに行くのは3日後ってことになるんですか?」
「いや、明日また行くよ」
「でも、ガストさんは3日間は冷静にしろって……」
「代わりにエレンを連れてくことにするわ。私の方から呼ぶから今日はもう帰りな」
「わかりました。お疲れ様でした」
正直めちゃくちゃ疲れている。
しかし、ガストさんとマストさんに肉と酒を買わなくては……
「ガストさん、マストさん、どこに行きましょうか?」
「いや、やっぱりオークロードに怯える村民がまだいるってことを考えたら酒なんて喉に通らねえやい」
「お前、オークロードをぶっ倒した後に食う肉の方が美味いって知らねえのか?」
「それもそうですよね! 明日ぶっ倒して上手い酒と肉をいただきましょう」
そう約束し、俺は愛するマーチルの元へと帰った。
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