第12話 魔獣の羽
道中はサクサク進んだ。
魔物が元から少ないというのもあるが、エレンさんの持っているスキル、敵感知がとても役に立っている。
スキルというのは先発性と後発性の2つがある。
エレンさんの敵感知は後発性の方だ。
後発性の特徴は、その多くが誰でも獲得できるという点だ。
つまり俺でも覚えようと思えば覚えられるらしい。
先発性は簡単に言うと才能だ。
生まれながらにして持つ能力。
マーチルの持つ動物と会話できる能力や、キールの持つ地獄耳などが先発性に当たるのだろう。
現在、マグル村の前にいる。
しかし昨日とは違い、村の外に数匹の武装したゴブリンが巡回していた。
おそらく見張りだろう。
「ルディ、俺に匂い消しの魔法を」
「わかった。スメルエリミネーション!」
「俺が中の様子を見てくる。俺が合図したら来い。」
そう言うと、ひとりでに巡回しているゴブリンに近づく。
「あれじゃバレバレじゃ……」
「安心しな、エレンの姿はあのゴブリン達には見えてねえ。あいつのスキルでな」
正体が見えないスキルだと!?
ぜひとも習得したいものだ。
理由は男なら言わずともわかるだろ?
「どんなスキルなんですか!?」
「隠密ってスキルだ。どうやったらそんな便利そうなスキルが取れるのかね」
マストさんはなぜか自分のことであるが如くエレンさんのスキルを教えてくれた。
「どうせ覗きでもしてたんでしょ」
「ははっ違えねえ」
そうこうしているうちに、見張りの処理を終えたエレンさんがこちらに合図を出してきた。
「いくわよ」
作戦はこうだ。
エレンさんの敵感知でゴブリンロードのいる場所を見つけ、待ち構える。
そして、ゴブリンロードをルディさん魔法で動きを止め、止めたところを3人で攻撃して倒す。
単純だが確実な作戦だ。
「待て、何かおかしい。俺の敵感知が反応しない。この村にいない可能性がある。俺が潜伏で周りの様子を見てくる。お前らはそこで待ってろ」
「待って、それは危険よ。貴方の潜伏も万能じゃない、1人で行くのは危険だわ」
「大丈夫、いざってときはとっておきを使うさ」
「……わかった。10分で戻ってきて。戻って来なかったら私も行くから」
「あぁ、じゃ、ちょっくら行ってくる」
ーーー
「そろそろ10分経ったんじゃない?」
「ルディさんまだ5分しか経ってないですよ」
「おいおい、心配なのはわかるがあいつが今までに約束を破ったことが……たくさんあるな……」
「マストさん、不安になるようなこと言わないでください」
約束から10分が経過した。
「10分経ちました」
「行くわよ!」
「おっとギリギリセーフ。もう行く必要ないぜ」
約束通り10分でエレンさんが戻ってきた。
そして、その手には一際大きいゴブリンの頭があった。
もしかしてこんな短時間で倒してきたのか?
「1人でやっつけちった……って言いたいところだが、俺が見つけた時には既に殺されてた」
「どういうこと?」
「わからない……が、こいつの死体の近くにこんなもんが落ちてた」
「羽?」
それは成人男性の腕の長さ台の大きな一枚の羽だった。
「この大きさの羽、おそらく魔獣クラスだろう。これは俺らの手には負えない。もっと上の冒険者に依頼を横流すようレバゾアさんに頼もう」
どうやら魔獣が来ていたらしい。
ここ最近魔獣の痕跡が相次いで見つかってる。
嫌な予感がしつつも、エレンさん指示に従い俺らはレバゾア商会へ帰った。
ーーー
「何!? 魔獣が住みついてるだあ? 確か4ヶ月ばかり前にどこかで魔獣災害があったって聞いたな。その残党が住み着いちまったか。まあ、ゴブリンの討伐依頼は達成したって事で報酬を役所からぶんどってくるぁ」
そう言ってレバゾアさんは外へ出て行った。
「レイク、この後時間ある?」
レバゾアさんが出て行ってすぐ、ルディさんから声をかけられた。
現在時は16時、宿に戻るには少々早い。
何だろうか?
もしかしてデートのお誘いだろうか?
でも、俺にはマーチルがいるし、まあ、どうしてもっていうならやぶさかではない。
「2時間程度なら」
俺はキリッと答えた。
「そう、貴方の歓迎会を開こうと思ったのだけれどどうかしら」
そういえば、レバゾア紹介に来て一か月経つが、歓迎会みたいなことはしていない。
まず、前世でもそんな経験をしたことがなかったので失念していた。
どうしようか。
職場の付き合いはとても大事だと、前世の父親はそれを言い訳にしょっちゅう飲み会に行っていた。
その度母親から嫌味を言われていたのを記憶に覚えている。
ま、今後も一緒に依頼をしていく仲。
今日くらいいいだろう。
「わかりました。ですが、宿に同居人がいるので一声かけてから行きます」
「わかったわ。場所はここね。準備をしとくから同居人に伝えてきなさい」
ーーー
宿に戻ると部屋の鍵が閉まっていた。
どこか出掛けているのだろう。
受付にいるお爺さんから鍵を受け取り部屋に入る。
やはりマーチルがいない。
しょうがないので、置き手紙をしていくことにした。
装備を脱ぎ捨て早々にレバゾア商会に戻る。
「お、早かったじゃねえか。」
「ほら、主役の登場だぞ!」
既に出来上がっていた。
まてまて、俺が宿に戻ってここに来るまで30分も経ってないぞ。
「ほらお前も飲め飲め!」
「いや、俺未成年ですし……」
「ミセイネン? 何言ってんだお前。俺の酒が飲めないってのか?」
この世界には成年未成年という概念が存在しないのだろうか。
「ちなみにお酒って何歳から飲めるようになるんですか?」
「酒に年齢は関係ねぇ、子供も大人も老人も飲みたい時に飲む! これが酒だ!」
俺は前世でもほとんど酒は飲んだことはなかった。
父親の飲むビールをちょっと盗み飲みしたことがあるくらいだ。
理由は簡単、飲む機会がなかったからだ。
高校の同級生達はイキって未成年なのに飲んでSNSにあげたりしていたが、俺には理解し難かった。
だが、今は〇〇じゃないレイクだ。
意を決して渡された黄金色の液体を喉に流し込んだ。
何だろうこの感覚は。
苦い、が何故か喉がそれを求めている。
程よく冷たく、程よい炭酸が口内を刺激し、喉を刺激する。
この世界は冷凍技術が未発達だ。
しかしどうやってこの冷たさを……端目に一生懸命氷を作っているルディさんが見えた。
「おっいい飲みっぷりだね!」
空になったジョッキに新たに注がれるビール。泡が溢れてジョッキから漏れる。しかし構わず喉に流し込む。今回はジョッキの半分程度まで飲んだ。
「ぷはあ!」
その後も酒を楽しみつつガストさんとマストさんの喧嘩から、ルディさんの一発芸などを楽しみつつ、この世界に来て最も楽しいと思える時間を過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます