願い

「日花。…。」

名前を呼んで唖然とした。確かに僕の目には日花が映っていた。いや脳が勝手に作り出した映像に過ぎない。そう考え僕は確認した。僕の手は透き通る。

「私だよ。信じて健司。」

そう僕が作り出した日花は言っている。僕は耳を貸したかったが貸さなかった。でも何かしらの間違いで日花だったらと期待していた。あんなに過去は振り返らないって決めていたのに僕は質問をした。

「一年前僕たちが約束した事は。」

気がつけばまた涙を流していた。好きな人の目の前で。

「私と出掛ける約束。桜綺麗だったね。それに私が好きなポピーありがとう。嬉しいよ。」

日花はそう言って笑みをこぼした。間違いない日花だ。僕がどうしようもなく会いたかった人だ。

「ねえ。私の為に悲しまないで。その事を伝えたかったの。」

僕は涙をを止めた。もうこんな情けない顔を見せられないので。

「日花。ありがとう。でも僕は日花がいない日常は辛いんだ。もっと同じ時を過ごしたかった。もう叶わないし女々しいと思われると思うけど。」

「私もだよ。ずっと隣に居たかった。けどもう叶わない。けれども私は幸せだったよ。だから私の事は忘れて幸せになってほしいの。」

日花は少しだけ曇った笑顔でそんなことを言った。

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