8. キマズイ失恋

 歌い始めると緊張はない。

 元々、歌うのは好き。

 余裕があって、客席見たら。

深森ふかもり…?)

 深森の隣で古江ふるえに視線を送っているのは、

(彼女…?)

 深森と腕組んで、友達ではない、よな。

(何だ、この胸のモヤモヤはっ!!)

 気になる。気になる。

『どうした?』

 ベースソロの時に、すれ違った古江が意外と痛いトコロを突いてきた。ツラい。

『楽しいよ』

 笑顔で。

 昔から、悲しいときやツラいときほど笑顔が出る。

『……仕方ないなぁ』

 客席から、黄色い悲鳴が。

(やりやがったな…)

 何事もなかったかのように定位置に戻る古江を睨み、

(誤解だからっ!!)

 目を伏せた深森が、

(え…?)

 古江に向かい、指を立てていた。

(グッジョブからの…)

 古江を見たら、ヤケに挑発的な顔で、リズムを刻んでた。

(何だ、このバトルは…)

 でも、楽しい。

 この空間は、皆で作り上げるものだから。

 最高だよ。

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