第9話 文の才能

 昨夜 19時


 普段なら自宅に到着している時刻。


 花牟礼の母親は、娘のスマホに連絡をするも電話には出ず。


 20時30分頃、帰宅済だった父親が彼女の通学路を車で捜索。


 23時 警察に連絡


 

 これらのタイムテーブルを確認した禅野文の感想は――――


「なんと言うか、随分と……判断が良い。早い行動だ」


 辛うじて、花牟礼の両親の行動を『手際が良い』と言うのは堪えた。


(それは、あまりにも印象の悪い評価だ。まるで俺は彼女の両親を疑っているかのような)


「もしかして、過去にも同じような事があったのか?」と朋に訪ねる。


「あったらしいわ。でも、それは礼が小学生の時、大人の人に車で連れ回されたそうね」


「なるほど、それは過保護になるね」


 2人は、礼の通学路を歩いている。 そして――――


「ここが礼のカバンが落ちていた場所らしいの」と朋。


「横には公園。夜は人が少なそうではあるが……」


 文は、周囲を見渡す。


「ここじゃなさそうだ」


「え?」


「犯人は、別の所で礼を連れ去らい。後からカバンをここに放置した……そういう感じだね」


「どうして、それがわかるの?」


「なんとなくわかるんだよ……いや」と文は続ける。


「ここまで歩いて来た間に何人か警察らしき人間を見かけた。おそらく周辺の聞き込みだと思うが、ここが中心じゃなかった」


「もっとも警察の分析力が精確ならって条件付きだけどね」と文はお道化て言う。


「なんで……いえ、なんでもないわ」と朋。


(文くんの言葉、それは見ただけで警察を判断できるって意味だけど、本人は気づいて言っているのかしら?)


 2人は少しだけ来た道を戻る。そして――――


「ここだね」と文は足を止めた。


「ここ!?」と朋は驚く。 


 そこは住宅街。少し先にはコンビニの光が照らしている。  


 人通りは、決して少なくない。


「……よかった」と文。


「よかった、なにが?」


「この犯人は冷静だ。 自暴自棄になって目撃者が多い場所でも構わない。逮捕されても構わない。そんな奴の行動は推測が取れない。しかし、コイツは違う」


「ここも、目撃者が多そうだけど?」


「いいや、住宅街は壁が死角になる。それも19時前後……少々の騒ぎなら問題にならない」


「そう……なの?」と朋は疑問そうだった。


 文自身も、それは感覚的なものであり、言語化するのに抵抗があった。


 文が持つ感覚的なものは、『なんとなく、ここで簡単に殺人が行えそうだ』というもの。

 

 殺人鬼として才能センス。それが犯罪者を追い詰めている。




 

 




   

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