影おこし

カメレオン俳優

「ただいま失踪中の人気俳優但木直人さんは依然として、足がかりを掴めないままとなっております。何か情報がある方はこちらまでお越しください。次のニュースです。先月から続く都内連続失踪事件は……」

テレビのニュースで流れてくるのは但木直人の失踪事件ばっかりだ。実力派カメレオン俳優として人気絶頂の中、突如として姿を消してしまったのはなぜなのか、次のドラマ出演が決まっていたということもあってテレビ局が大慌てしている。

俺も一ファンとして彼の安否が心配だ。

「また、このニュースか。こんなに話題になることかね？芸能人が重圧に負けて失踪するなんてよくあることだろ？」

「何言ってんすか！但木は今やドラマ・映画になくてはならない存在なんすよ！？」

「あえ、そうなのか？」

「当たり前っすよ！どんな難しい役でも完璧に入り込める但木に業界も世間もメロメロなんですよ。」

但木は短期間で役と自分を完璧にシンクロさせ、どんな作品でも存在感を残してきた。彼の凄さの例を挙げるとするならば、LGBTの中学生役、発達障害の青年、歌手、作家と多岐にわたる。特に歌手と作家を演じた時はすごかった。映画の主題歌を歌えば、その年のレコード大賞を取り紅白に出場。撮影期間中に執筆した作品が芥川賞を受賞。役になりきるというよりは本当にその役が憑依したという表現がピッタリ。

「はえーそれは凄いな。俺も次出るってドラマ観てみようかな。」

「それが但木が失踪したから撮影出来ないんすよ。俺原作の小説も好きで読んでたのに残念です。早く帰ってきてくれないかなー。」

「そういうことか。そういや、但木は何の役やるんだ？」

「完全犯罪を実行する連続殺人犯の役です。」