冷たい部屋

頑張れ


実に残酷な言葉だと思う。この世に頑張っていない人間なんてもの存在しない、彼は私に一方的な解釈を強要する。自身を正当化するために彼は頑張っている。

うんざりするなぁ。

彼の唱える世界が真であるならば私は人間ではない。そして私は人間である証明を頑張ろうとはしない。

確かに「頑張れ」は残酷な言葉だとは私もそう思う。その言葉は誰かに限界を超えさせるための呪詛であるからだ。事実うつ病の人間にかけてはいけない言葉の一つらしい。

私が頑張らない人間だと分かればみんな諦めて、「頑張れ」なんて言わないと思っていた。

しかし、毎日のように誰かが私を訪ねて「頑張れ」「諦めちゃいかん」「すぐに良くなるよ」何を根拠に期待させるようなことを言うのだろう。私には分かっている。もう頑張る事は出来ない。

彼は今日もいつものように、みんな頑張っている、だから自分も頑張っている。そんなことを言う。

しかし、ある日突然目に涙を浮かべ、「生きたい!もっと長く!もっと頑張らなくちゃ、もっと!真っ白な部屋で目を覚ましたくない!もっと外で生きたいんだ!」棒切れの如に細くシワだらけの腕で私の肩を痛いくらいに掴む。


次の日、彼は死んだ。


今思えば彼を訪ねてくる人は皆看護師か医者のどちらかであった。

彼にかけられる言葉は採血などの検査結果や病気の進行等の事務的なものだった。


彼は何回この天井と目があったのだろう。ひとまわり、ふたまわりも歳下の私に対して生を懇願した憐れな姿が脳裏に焼き付いている。


やっぱり私は人間なんだな。

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