関わるということ
「暴力…?」
確かにここ最近のニュースでは家庭内暴力での問題が度々上がっているが、
まさか自分の身近な人にいるとは思いもしなかった。
「うん。殴られたり、蹴られたり、そんなことを毎日毎日されてたらさ、私なんて生まれてきた意味なかったんだなって思って。だから自殺しようって思ったの。」
「警察とかに相談は?」
「相談して助けてもらえてたらこんなこと考えてないよ。」
そう言った彼女の横顔はとても悲しそうだった。
「そっか…ごめんつらいこと言わせて。」
「全然大丈夫だよ。もういなくなるんだから。それよりも柊くんだっけ?君は何で
「僕は自殺なんてできないよ。ただ、ここにいるとなんだか落ち着くんだ。空を見上げて寝っ転がると全部がどうでもよくなるんだよ。」
「なんか昔の作家みたいなこと言うね。柊君。」
「思ったことをありのまま言ってるだけなんだけどな。」
自殺なんてする勇気僕にはない。
「でも確かに、こうやって寝っ転がると落ち着くね。」
彼女は寝っ転がりながら空を見て言った。
「私さ、何でもできるんだよね。」
「え、いきなり何。」
嫌味か?
「何でもできるから一人でいないといけないんだろうなって。」
「え?」
「人ってさ何でもできる人に憧れるでしょ?だからその人が持ってる辛さや痛みなんかを無視して全部丸投げしてくるんだよ。石崎さんなら。って。」
「うん。」
どうやら彼女が悩んでいる理由は暴力だけではないらしい。
「だからね。私はいつも一人なんだよ。いついかなる時も、石崎結衣は人の期待しか背負ってないから。」
「うん…」
何も言えなかった。僕とは違う次元に住んでいる人の悩みだった。
僕は人から期待されることなんてなかったし、自分もそんな人間ではないこともわかっていた。
「ごめんね。最後にこんな話をして。おかげで決心がついたよ。じゃあね。ありがとう。」
彼女は起き上がってもう一度柵の方に歩き出した。
彼女が自殺するしないは本人の自由だ。僕には関係ない。
でも、自分の前で死なれるのだけは困る。
「待って。」
前に行こうとする彼女の腕をつかんだ。
「何?私を止める権利、君にはないと思うけど?」
「確かにないよ。ないけどならなんで君は泣いてるの?」
「え…」
彼女は自分の頬に涙が流れていたことに気づいていないようだった。
「足も震えているし、本当は怖いんじゃないの?」
「そん…なこと…」
気がつけば足だけではなく声も震えていた。
「人は本当に自殺するとき自殺したいなんて言わないよ。言うってことはまだ生きてたいってことだよね。」
「だって私はもう何のために生きればいいかわからないの!いろんな人に期待されながら生きていくのはもう嫌なの!」
「なら今度は人の目なんて気にせずに生きればいいんじゃないかな?」
「簡単に言うね。そんなのどうやって!」
「せっかくこうして知り合えたんだから
「何それ…カッコつけてるだけでしょ。」
「石崎さんの期待を少しでも軽減できればと思って。」
というと彼女は
「馬鹿じゃないの。でも、死ぬ前に話を聞いてもらってスッキリしてから自殺をするのも悪くないかもしれない。」
「でしょ?」
これは僕が自分の自己満足で彼女を引き留めたのだ。
自殺されてしまっては元も子もない。
「とりあえずやってみるだけ。ダメだったら私はすぐにでも飛び降りるから。」
「頑張って止めたのに物騒なこと言わないでよ。本当に。」
「柊君が持ちかけたんだからちゃんと話聞いてよね。」
「それはもちろん。じゃあこれからよろしく。石崎さん。
こうして人と関わることを拒絶することを望んでいた石崎さんと自分勝手な関わりを持った僕とのよくわからない関係が出来上がった。
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