夫婦生活に定石なし

シヨゥ

第1話

 こうあらなければならない。なんて教義のように絶対守らなければならないものはないはずだ。

「おはよう」

「おはよう」

 だから僕ら夫婦は別居をしている。家庭内別居ではなく完全に別居だ。

「今日はこっちで?」

「うん」

「そう」

 具体的には彼女が気分次第で僕の部屋で過ごしたり、自分の部屋で過ごしたりしている。性格上の問題を彼女が抱えているのは付き合いだしだ時にカミングアウトしてくれた。

『ひとりじゃないと心が休まらないの』

 その言葉通りで、疲れた彼女を気分転換に旅行に連れだした時にはあと一歩のところまでいったほどだ。

「そろそろ散らかっていると思ったし」

「助かるよ」

 この暮らし方を他人に話すと『そんなの夫婦じゃない』とか『夫婦なんだから同居しないと』とか言われる。言われることはごもっともなんだけど、『そんなの誰が決めたんだ』と思う。別に別居している夫婦が罰せられる法律なんてないし、好きあっていればそれでいいじゃないかという話だ。お互いがそれで納得していて、それで暮らしが成り立つならそれでいいじゃないか。

「あと君の手料理を食べたかったし」

「了解。何を作ろうかな」

 こうあらなければならない。そんなものはない。それを実感するのが夫婦生活。そんなのものだろう。

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夫婦生活に定石なし シヨゥ @Shiyoxu

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