第27話 指輪の真実

 三人が同じ目的地に向かって走っている最中、エイドが先程までの経緯をフミルに少しだけ説明していた。ただ、途中から参戦した彼に詳しい事情は分からない。それでも、少女の方は状況をほとんど理解していた。


「……なるほど。ムルーガーさんに、そのアンデッドが憑依していたんですね」

「そうなのか?」

 エイドがやっとその事実に辿り着く中、少女は顔を向けずに頷く。


「全ての状況がそう物語っています。それなら、全ての辻褄が合いますし……」

「じゃあ、こいつが戦っていたのは?」


 彼が背後に親指を向けながら何気に尋ねていたが、フミルは首を横に振っていた。

「そこまでは分かりません」

(……分かったら困ります……)


 メリアが内心で呟く。誰かに今の自分の現状を知ってほしいという願意も確かにあったが、王族のこの失態を庶民に知られることは避けたかった。


 フミルが続ける。

「とにかく、結論から言います」

『!』

 他の二人が息を呑む中、フミルは簡潔に述べていた。


「ムルーガーさんに憑依していたそのアンデッドは、例の指輪をスキル・マイスター達に配っていましたが、それこそが最大の布石だったんです」

「……どういうことだ?」

 よく分からなかったエイドが詳細を促すと、フミルもすぐに対応する。


「例の指輪を調べました。その結果、その内で時間系のスキルが円環していることが判明したんです」

「時間系?」

「はい。吸い取ったデフォッグを未来に飛ばしていたんです」

『!』


 その結論に他の二人が言葉を失う中、フミルはさらに語っていた。

「表面上は、デフォッグが消滅したように見えます。でも、本当は未来に負債を押しつけていたんです。人間でいうと、無計画な借金といったところでしょうか」

「それで……その後はどうなるんだ?」


 エイドが何やら不穏な空気を感じ取っていると、少女の方も重苦しい口調に変わる。

「……問題は、座標です」


 次いで、街道の先に鋭い視線を向けていた。

「例の指輪は正確に未来の一点を指し示していました。それはもうすぐの時間であり……私達の目的地でもあります」


 これを聞いて――

『――ッ⁉』

 他の二人も、おおよその見当がつく。その反応を確認しながら、フミルは絞り出すように続けていた。


「……もし、大討伐広場の一点に大量のデフォッグが一気に集まったらどうなるでしょうか? あそこは魔の王と呼ばれた唯一の存在――グリミナスが没した場所。因縁の地です。なんらかの怨念が残っていても不思議ではありません。そこに、触媒となりうる欠片でもあれば……」


「……おいおい……ヤバい予感しかしないぞ……ッ!」

 エイドが焦燥感を募らせるが、少女は無視してなおも詳しく語る。


「……本来、定着種であるオーガの群れは、アンデッド勢と同調しません。おそらく、配下のアンデッドが子供を浚うとかの方法で、ウエナ村へと誘導したんでしょう。その工作により、王都から実力のあるチームを引っ張り出す……」

「!」


「同時に、その討伐行動から大量のデフォッグを確保する。一石二鳥の作戦です。指輪のことは私にも無造作に渡してくれましたが、解析される前に事を起こせると踏んでいたんでしょう。私がその前に気づいてしまいましたが」

「自慢してる場合じゃねーぞ!」


 横槍が入ると、そこでようやくフミルは相手に顔を向けていた。今までに見たことのない厳しい表情で。

「分かっています! だから、こうして急いでいるんです! 事は一刻を争うので、人を呼んでいる暇もありません! 手遅れになる前に、私達でなんとかしないと!」


 その直後のことだ。

「――メルマーク⁉」

 エイドが自分の真横を駆け抜けた大きな影に驚く。そのトロル・ロードは一気に二人を追い越し、先導するように速度をさらに上げていた。


(……冗談じゃない……!)

 メリアはとにかく我武者羅に突き進む。

(御先祖様が守り抜いたこの王都……ここを再び戦火に晒すことなんて……ッ!)


 実際に祖父の顔を見たことはないが、自分はその遺志を受け継いでいるのだ。それこそが彼女の最大の誇りであり、生きる意味そのものだった。


 やがて、三人の視界に目的地が入ってくる。

 その刹那――

「――あれを!」


 フミルが大討伐広場の上空を指差していた。

『⁉』

 他の二人も気づく。それまでは星も見えていた静かな夜空の情景だったが、それを覆い隠すような暗い漆黒がそこにわだかまり始めていた。

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