第19話 迫る危機
フリーダム・ナイツ所属のその男性は仲間に事情を簡潔に説明すると、他のメンバーにも同じことを伝えるため、この場をすぐに離れていた。それと同時に、ザイアムが他の三人に向き直る。表情は真剣そのもので、状況が非常に逼迫していることを確かに証明していた。
「――と、いう訳だ。俺はすぐ遠征の準備に入る。しばらく戻ってこないかもしれないから、親父達にはそう伝えておいてくれ」
フミルが無言で頷いていると、ベイスも危機感を露わにする。
「フォグ・モンスターの大群の襲来……ですか。それが人里を通過してこちらに向かっている、と。これは穏やかではありませんね」
すると、ここでフミルが首を傾げていた。
「……オーガ・キングを少なくとも三体含んだ大群が村を襲撃したってことですが、それっておかしくないですか?」
これを聞いて、ザイアムが頷く。
「ああ。人に憎しみを向けるフォグ・モンスターは、上位の存在ほど大きな街を狙う傾向にある。オーガ・キングの一派であれば、あの程度の村落は無視するはずだ。なのに、三体とも同じ行動を取るというのは解せないな」
「何か理由があるんでしょうか?」
「分からないな。単に、進路上にあっただけかもしれない。何か裏があるとすれば、上位の存在が率いている場合だが……それだと、全てのフォグ・モンスターを統率する能力を持っていたグリミナス並みの実力が必要になる……」
『!』
他の三人が緊張感を高めていると、ザイアムは渋面になって呟いていた。
「王女様もいない時だし、こいつはちと厄介な状況になってきたな……」
この発言に沈黙が流れていると、ここでエイドが空気を無視する。
「ん? 俺の出番か?」
フミルが無言で意味深な視線を向ける中、ザイアムはそれには気づかない様子で小さく苦笑していた。
「さすがにそこまで手駒がない訳じゃないぞ。今回は俺のチームの他に、王都最強のワイルド・ウィンドを含んだ上位チームが複数参戦する。戦力的には充分だ。それに、今回はその指輪がある。スキル・マイスターが全力を出せる条件が整っているんだから、ここに迫る前に壊滅させてやるさ」
自信満々で語っていたが、フミルが懸念も示す。
「でも、それだと王都の方が手薄になりませんか?」
だが、これにもザイアムは明言していた。
「心配ない。昔と違って、スキルによる連絡網が整っている。これが仮に囮であったとしても、他の勢力に攻め込まれる前に転進して戻ってこられる距離だ。王国軍も時間稼ぎぐらいはできるだろうし、城壁もあるしな」
「ならいいのですが……」
フミルが納得していると、急に傍の男子が口を開く。
「そういえば、襲われたウエナ村って例の銅像があるとこだよな?」
「銅像?」
少女がオウム返しで確認すると、エイドは腕を組んで頷いていた。
「ああ。旧世界の遺産で、一匹の猫を連れてるやつだ。近辺にあるダンジョンの方が有名だが、あそこも観光名所じゃなかったか?」
「……猫? 私は犬だと伺いましたが……」
フミルが自身の知識を思い出すが、彼の方は聞く耳を持たない。
「猫だろ? ギリカ・ナムサスの像もそれを参考にして造られたはずだぞ」
「いえ、違うはずです。確か、その従順な様から忠犬だと結論づけられたはずですよ。風化で確かに判別は難しいようですが」
「だったら、猫でもいいじゃんか。そういうことにしておいてくれ」
エイドの一方的な言動に少女が閉口していると、ここでザイアムが脱線している話を元に戻していた。
「その犬猫論争に終止符を打つためにも、万全を期す必要がある」
『!』
再び注目が集まる中、ベイスに向き直る。
「ムルーガーさん。さっきの話、うちのチームに合流しながらしましょう。他の連中はここにはいなくて、今は拠点にいます」
「でしたら、一度支店に戻ってアビス・リングを補給しましょう。時間が省けます」
「それが最善ですね」
即座に方針を決めると、ザイアム達は揃って移動を始めていた。
「そういう訳だ。それじゃ、親父達によろしくな」
「頑張ってください」
フミルの短い激励に、相手は片手を上げて応える。その姿が建物の外に消えると、少女はエイドに向き直っていた。
「さて、私はこれからしばらくお籠りです」
「は?」
彼の方が思わず間抜けな反応をしていると、フミルは回れ右をしていた。
「エイド君の面倒は見られなくなるので、あとは自己責任ということで」
「おい、待て。誰がお前に保護者を頼んだんだ?」
エイドが不機嫌な顔で詰問するが、少女は気にせずザイアム達の背を追う。
「では、そういうことで」
そのままアカデミーの方へと向かってしまい、一人だけ取り残されてしまっていた。
エイドはしばらく渋面でその場に立ち尽くしていたが、ずっとそうしている訳にもいかない。
「……俺の方は修練でも積んどくか。いつも通りに……」
すぐに方針を決めて動き出していたが、ふと本来の目的を思い出し、慌てて身分証を受け取りに戻っていた。
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