第96話 初めてのオペラ
息子のクラスメートのお父さんがクラリネット奏者なのですが、最初に彼の職業を聞いた時、「クラリネット奏者って、家族が養えるくらい稼げるものなんだ!」と衝撃でした(←超失礼)。
他の国のことは何も知らないのですが、オーストラリアだと、有名どころのオーケストラなら、年俸制で正社員になれるので、割と安定した収入が得られるそうです。
そのお父さんが演奏するオペラのチケットが、お友達価格で入手できることになったので、初めてオペラに行ってきました。
オペラとは言っても、伝統的なものとはだいぶ違う、異色なものだと聞いていました。『キャンディード』という演目で、十八世紀に書かれた小説を元にレナード・バーンスタインが作曲し、1956年に初演されたロングランのオペラらしいので、観たことのある読者さまもいらっしゃるかもしれません。
下ネタ盛りだくさんで、オペラあるあるをネタにしたようなジョークもあり、衣装や演出も含め、いろいろとぶっ飛んだオペラでございました。
爆笑の連続だったのですが、下ネタが
パッと見、オーストラリアの出演者で五十人、歌手が三十人くらいいて、休憩をはさんで三時間のショーでしたが、オケ演奏もダンスも歌も、完璧に合っていてすばらしかったです。
きっと何カ月もかけて練習をしたんだろうなと思って、クラリネット奏者のパパ友に聞いてみたら、「練習期間は数週間。リハーサルはオケだけで二回、全体で二回、の四回のみ」だと聞いてびっくりしました。
いわく、オーケストラの演奏者は、どんな音楽も初見でササっと弾けるのが当たり前。リハーサルは一回目から、最初から最後まで弾ける前提だそうです。ほえええ。
オケの演奏者は楽譜があるのでまだいいですけど、歌手はセリフも歌詞も動きも全部覚えないといけないわけで。たった数週間であの完成度って、人間業じゃない! と驚愕でしたよ〜。
しかも、公演はたった三回しかないという話。
人気のミュージカルなんかだと、何年も、ものによっては何十年も同じ演目をやってたりするじゃないですか。あれだけの人数を集めて、衣装も舞台装置も用意して、大きな舞台を作り上げるわけですから、できるだけたくさんの人に観てもらって、コストを回収して設けを出したいですよね?
今回のパフォーマンスも、オケと歌手全員で八十人くらいいて、衣装も舞台装置それなりに凝っていたので、たった三回の上演なんてもったいない! と思いました。
そんなことをパパ友に言ったら、「いやいや、二千人以上入るホールで、三回公演できたら御の字だよ。それ以上やっても、チケットが売れないから」という世知辛い答え……。
こういう事情もあって、リハーサルに時間かけられないんだろうなぁと思いました。リハーサルでも出演料が派生しますから、長く練習するとコスト回収ができないのだろうと推測します。
そんな世知辛いご時世でも、パパ友さんのような人が安定した収入を得られるかといいますと、クラシック音楽が好きな金持ちの寄付や政府の助成金に支えられているからだそうです。
クラシック音楽界というのは、たった一つのことを、小さな頃から何十年と、延々と練習し続けた人たちで成り立っている世界です。そうしないと達成できないレベルの技術を磨き上げた人たちの中でも、さらに頂点に立っている人の演奏だけが、お金になるんですよね。
ものすごい勢いで変わり続けるショービジネスの世界で、何世紀も受け継がれてきた分野ですが、圧巻のパフォーマンスを観て、これからもがんばってほしいなと思いました。
だいぶ歪な世界だなと思うのですが、その歪さが信じられないクオリティを生み出しているのかもしれません。
ただ観ている分際の私としては、人間ってすごいなぁと思うばかりでした。
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