第92話 お酒なしで踊るとカルトっぽくなる話

 毎年夏休みに、夫の古い友人(というか、ほぼイトコのような関係)宅に泊まりに行くのですが、彼女はちょっとヒッピーっぽいんです。前にも彼女の話をエッセイに書いたので、覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。今回は仮にニナさんとします。


 今回訪ねた時、ちょうどニナさんがDJをやるイベントと重なりました。


「一緒に来る?」と誘われて、二つ返事で「行く行く〜」と応えた私。音楽はテクノとディスコに、先住民音楽とアートハウス系映画のサントラを混ぜたような不思議なミックスでとっても私好み。


 イベントは、夜八時〜十時のきっかり二時間だけ。お酒はなし。場所は町の公民館(ニナさんはヒッピー率の高い田舎町に住んでいます)。最後にチャイが振舞われるらしい。


「音楽に合わせて自由に体を動かす時間なの。とっても癒されるよ」とニナさん。


 うわぁ、めっちゃスピリチャルな感じやな、と思いました。この時点で、夫は興味を失い、ニナさん家でお留守番することになりました。


「◯◯ちゃん(←娘の名前)も一緒に来る?」とニナさんに聞かれ、どうしよっかなぁとしばし悩む娘。娘はニナさんが大好きなので、誘われてうれしいのですが、子どもが行っていいのかわかりません。


「子どもも何人かいると思うよ」と言われて、娘も半信半疑で同行することになりました。


 イベントに行くとまず「靴を脱いで」と言われました。裸足で踊るらしい。この時点で一気にスピリチャルな感じになりました。


 今回気づいたのですが、靴を脱ぐだけで会場の雰囲気が一変するんですねぇ。武装が解けるというか、とても無防備な気持ちになります。


 公民館の一室(4平方メートルくらい)に50人くらいが集まってました。5歳くらいに見える子どもから推定70代のお年寄りまで、様々な年齢の人がいて、クラブなどにありがちな「盛ってる」感じが一ミリもしません。


 オシャレしてる人もお化粧してる人もいましたが、基本的にはナチュラルで動きやすそうな格好の人ばかり。十代に見える人はごくわずかで、平均年齢は四十歳以上な感じでした。


 ぶっちゃけ、ちょっと異様な雰囲気で、娘はドン引きしてました(笑)。


 ニナさんがまず、ゆっくりしたテンポの音楽をかけます。そうすると、会場のみんなが楽しそうに、思い思いに体を動かし始めました。


 私はスピリチャル系にオープンな方で、せっかく来たからには楽しんで帰りたかったので、一緒にゆっくり踊り始めました。


 娘の緊張を解こうと手を繋いだり、一緒にストレッチをしたりしましたが、娘の顔はどんどん強ばって行きます。


 帰ろうにも車がないと帰れない場所で、しかもニナさんの車でやって来たので帰れません。


 仕方がないので、娘を別室に連れて行き、そこにあったソファに座らせて「十時になったら終わるからさ、ちょっと待っててね。もし気が向いたら踊りにおいで。ちょこちょこ様子見にくるから」と言い置いて、自分だけで参加することにしました。


 音楽はクライマックスに向かってどんどん盛り上がり、アップテンポになっていきます。それに合わせて、踊るほうも動きが激しくなり、後から来た人もいて、人口密度が高くなっていきました。


 夜でしたが、夏なので気温は高め。人の熱気で室内の気温が上がり、ドアや窓を開け放って、外に出て踊る人も出て来ました。最終的には100人くらいで踊ったんじゃないかと思います。


 娘の様子を見ながらだったので途切れ途切れでしたが、時間が経つにつれて恥じらいの気持ちなんてどこかへ飛んで行き、どっぷり音楽に酔いながら思い切り踊りまくりました。


 いや〜。気持ちよかったぁ。楽しかったです。最後にチャイが振舞われて、さっきまで踊ってた人たちとおしゃべりもでき、いい憩いの場だなと思いました。


 娘はというと、終始ものすごーく帰りたそうでした。

「なんか……。うまく言えないんだけど。怖かった……」と青い顔をしてました。


 娘の反応のほうが普通なのかなと思います。中学校の授業で創作ダンスをさせられて、「風になったつもりで動いて見ましょう」と言われた時、「え? マジで?」って思った記憶が蘇りました。


 盆踊りやフォークダンスなど、型が決まってて、みんなで同じように踊りますよね? なんなら、ヘビメタのヘッドバンキングも、「型」みたいなものじゃないです?


 ああいう型というものは、踊る人の「ちょっと恥ずかしい気持ち」をなくす仕掛けなんじゃないかと思うんです。


 お酒もしかり。クラブからお酒をなくしたら、ビジネスが成り立たないですよね。みんなの前で、音楽に合わせて自由に踊るなんてこと、シラフでできる人口ってすごく少ないのでは。お酒が「ちょっと恥ずかしい気持ち」を和らげ、「俺・私ってけっこうイケてるのでは」という気持ちを放出するからこそ、若者が集いたくなる場所になるんじゃないかな〜って思います。


 会場の照明や雰囲気なども、「ちょっと恥ずかしい気持ち」を除く装置として機能しているのかもしれません。


 クラブからお酒と若者と雰囲気を除くとカルトっぽくなるのか……と発見したイベントでした。


追記:昨今の若者もクラブって行くんですか? ご存じの方、教えてください〜。


 

 

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