第77話 オーストラリアンな子どもたち、日本の小学校に潜入してます

 イギリス生まれ、オーストラリア育ちの長女(小学五年生)と長男(小学二年生)。日常会話程度の日本語なら理解はできますが、日本語で話したり、日本語での読み書きは小学生以下な二人。


 今回初めて、日本の小学校へ通わせることにしました。全部で六週間の超短期留学です。


 実家が小学校から徒歩で二分ほどのところにあるのですが、私も小学生の頃はそこへ通っていました。子どもたちが、私のかつての母校へ通ってくれるのは、感慨深いものがあります。


 初日は一緒に学校へ行き、校長先生や教頭先生、担任の先生方とごあいさつをしました。もうその時点でカルチャーショックな親子です。だって、学校が始まるのが朝八時なんですもん〜! (オーストラリアは九時に始まります)

 日本の小学校がそんなに朝早く始まるなんて、もう忘れ去ってましたよ。


 しかも、朝は七時二十分から学校に児童を預けていいことになってます。どういう仕組みなんですかね、これ? だれがそんな早朝から児童を見てくださってるんでしょう。


 オーストラリアで、学校が始まる前に児童を学校へ預けたい場合は、有料サービスを利用しないといけません。大抵の場合、学校が委託している民間企業を利用することになります。所得に応じて補助金が出ますが、平均的な所得の家庭だと、補助金分を差し引いても一回千円〜千五百円くらいかかります。


 日本の小学校で、早朝から児童を無料で預かってくれるのは、働く親には大助かりだろうなと思う反面、先生方にシワ寄せがいってんのかな、という懸念もあります。日本の小学校ってブラック企業なイメージがあるんですよね……。


 ま、そんなことはさておき、初めての学校で右も左も分からない子どもたち。いつもはギャーギャーうるさいくらい活発なのに、学校へ着いたら全くしゃべらず、体をちーーーさくして硬直してました。


 夫は娘に付き添い、私は息子に付き添って、教室での様子を五分ほど見てから退散したのですが、息子は緊張のあまり、目にうっすら涙をためていました。

 夫によると、娘も同じようにオドオドしていたそうです。


 日本語があまり上手とは言えない夫。妻(私)の故郷では、会話についていけないガイジンという立場に甘んじているわけですが、子どもたちの混乱と不安が手に取るようにわかるらしく、夫まで涙ぐんでました。


 授業はついていけなくてつまんないだろうな〜。給食や掃除はどうだったかな。クラスの子どもたちと仲良くなれたかな。


 そんなことを考えながら、子どもたちが学校にいる間じゅう、ソワソワして過ごしました。


 帰りの時間になりお迎えに。朝とは打って変わって生き生きとした顔になってました。

「学校どうだった?」と聞くと「楽しかった」と二人とも答えてくれて、親の心配なんて不要だったなと安心しました。


 子どもたちによると、クラスの子どもたちはみんな親切で、とりわけ世話好きな子が数人いるらしく、あれやこれやと助けてくれるらしいのです。


 中でも感動したのが、息子のクラスメイトの男の子(仮にソウくんとします)。息子は、日本語は聞き取れるけど、日本語で話すのが難しいいんです。でも、大抵の大人は、息子は日本語が理解できないのだと思って(私が『日本語は理解できます』と言っていても)、ブロークンな英語でなんとか話そうとするそうな。


 でも、ソウくんは息子が日本語が理解できると察知して、他の子と同じように普通に日本語で話してくれて、息子が意思を伝えられるように、イエス・ノーで答えられる質問をしてくれたり、息子のつたない日本語を、みんなもわかりやすい文章に言い換えたりしてくれるのだとか。なんて人の気持ちのわかる優しい子なんだろう、と感激しました。


 カタコトの長女と長男を日本の小学生は受け入れてくれるかな、と少し心配していましたが、とても優しく受け入れてもらったみたいです。

 娘のクラスには、お父さんがカナダ人の女の子がいますし、息子のクラスでは、以前にオーストラリアから短期留学生を受け入れたことがあるそうで、時代の流れを感じました。


 ウチの学校では、給食を学校内で作るんですけど、すごくおいしいんですよ。食器も有田焼きです。長女も長男も、初日から給食が気に入ったようで、毎日おかわりをしています。


 給食の配膳や掃除など、オーストラリアにはない習慣も、すぐに慣れたみたいです。まわりのみんながやっているから、あまり疑問にも思わないのかもしれません。子どもって、けっこう空気を読むし、順応性が高いなぁと感心します。


 息子は放課後のサッカーチームに入れました。短期間なのにあっさり「大丈夫ですよ」と受け入れてくださって、今週の月曜日から参加しています。地元ではそこそこ強いチームだそうで、息子も「オーストラリアのチームよりも上手い子がいっぱいいる!」と興奮してました。


 サッカー小僧の息子は朝は七時二十分に登校し、学校が始まる前にサッカーをしています。まさか、毎日嬉々として早朝から登校するなんて思っていませんでした。


 対して娘は、朝早く起きるのが苦手で、ギリギリまで寝ています。学校へ行く前は必ず「授業がつまんない」と文句を言い、しぶしぶ登校します。そりゃそうだよね〜って私も思いますが、「今日は給食でケーキがあるよ」とか「今日は二時間も図工があるよ」とか、あの手この手でなだめすかして登校させてます。


 二人ともホームシックになるだろうなと思ってたんですよ。ストレスで腹痛や頭痛になったりするかもとか、「学校行きたくない」と泣くかもとか、いろいろ心配してました。


 でも、息子はルンルンと学校へ行き、娘も文句は言いつつもそれなりに楽しく元気にやっているようで、よかったーーーーーー! と諸手を挙げて喜んでいる私です。


 こんな機会はもう二度とないかもしれないですからねぇ。ポジティブな経験になったようで本当によかったです。


 日本の田舎って、食べ物も空気もおいしいし、人は親切だし、いいな〜って思います。

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