第72話 怪しい占い師さんに占ってもらいました

 全盛期をだいぶ前に過ぎて、ちょっと廃れた感じのアーケードが近所にあります。そこで、占いの館の看板を発見しました。


・星占い

・手相占い

・人相占い

・恋愛占い

・商売占い

・悪い気の浄化

・カルマの浄化

・黒魔術の浄化

・呪いの浄化

・家族・親戚・人間関係のお悩み


 全部読むのも一苦労するくらい、『とりあえず全部ブチ込んでみました』的なメニューです。


 和食も中華も洋食もやりますよ、っていうレストランと似ている気がします。見た瞬間に「どれを頼んでもあまり美味しくないのであろうな」と確信を抱くメニュー。


 今の家に越してから四年、このアーケードには何度も足を運んでいるのに、初めてこの看板を目にしました。


 日曜日の昼下がり。子どもたちはお友達の家に遊びに行ってしまい、夫は日曜日なのに持ち帰った仕事しないといけなくて、小説も短編の初稿を書き終えて一息ついたところだったので、ぽっかり時間が空いていました。


 これって運命なのでは!? と怪しい看板を前に閃きましてね。あまりにも怪しいので、逆にものすごく見てもらいたくなりました。


「ご予約はお電話で。マスター・サムパットまで」

 という言葉の下に携帯電話の番号が書いてあります。


(予約してまで見てもらいたいっていうんじゃないんだよなァ)と思いつつ、とりあえず占いの館の前まで行ってみました。店内は薄暗く、ドアが半分、開いています。


 中をちょっとのぞいてみたら、サンドイッチっぽいものを食べてる男性と目が合いました。ジーンズをはいたアラサーとみられる男性です。男性は目があったとたん、ニッコリ笑って、手招きします。


 うへえ。入っちゃう? 入っちゃうの? と一瞬迷いましたが、先方が全力で『入ってこいよ』念力を出してきたので、

「お食事中のところをお邪魔してすみません」と言いながら、怖々中へ入りました。


「もう食べ終わりましたから、どうぞ座ってください」と促され、小さな館の椅子に座りました。


「マスター・サムパットです。今日は、なにを見て欲しいのですか?」

 え? あなたが占い師? まるっきりその辺にいるにーちゃんですけど。

 しかもいきなり本題です。予約してないのに。暇だったんでしょうね。


 館の中は、クリスマスツリーに飾るような赤と緑の電飾が、壁にぐるりと一周飾られていて、インドの神様っぽいイラストのポスターが所せましとベタベタ貼られています。座った席のテーブルの上にはココナッツの殻やバナナ、色とりどりのお花が、こんもりと盛られていました。


「占いを始める前に、値段と時間の確認をしたいのですが」と言ったところ、一回30分〜1時間で$50という、まあオーストラリアだったら妥当(もしくは安め)かなと思われる値段でした。


「$50、どう考えても無駄になりそうなんだが、この人の話、めっちゃくちゃ聞いてみたい。エッセイのネタにしたい」という気持ちが99%でしたが、1%くらいは、「もしかしたら本当に当たるかもしれない」という希望もありました。


 その昔、一度星占いをしてもらったことがあって、その時はけっこう当たったんですよ。もともと、未来を見てもらいたいというよりは、心のマッサージをしてもらいたいと思って行ったんですが、「あなたはこういう性質だから、こういうことすると運気が上がるよ」と言われたことをやってみたら、本当にラッキーが重なったんですよね〜。


 インド出身の熟練占い師、マスター・サムパット(チラシにそう書いてあった)。もしかしたら、もしかするかもしれないじゃないですか。


「結婚していて子どもが二人いるのですが、家族みんなの今の運勢と、未来のことを見てほしいです」

 と言ったところ、目をつむってウンウンとそれらしくうなずくマスター・サムパット。


 彼の指示通りに、名前と生年月日と生まれた場所をノートに書き、両手を開いて見せ、貝殻を八個くらいカシャカシャと振ってテーブルに置くというのを三回繰り返しました。


 マスターは、ノートに記号や数字を書いて、真剣な顔で一人で納得しています。よし、と分析が終わったらしい彼は、まずは私のラッキーカラーやラッキーナンバーを教えてくれました。それからズバリ一言。


「お子さんは三人ですね!」


 さっき、二人って言ったやんけ!


「二人です」

「流産しませんでしたか?」

「してません」


 出鼻をくじかれたマスターは、おっかしいなァというように首を振ります。


「あなたね。すごい幸運の持ち主なんですよ。自覚あります?」

 なぜか今度は詰問調のマスター。


 非常に平和な人生を歩んできた自覚はあるので、

「えーっと。はい。まあ、そうだと思います」と私。

「結婚運、金運、仕事運、健康運、全てすばらしいです!」

「……はあ」


 誤解のないように補足しておきますが、私は本当に平均的で、容姿も所得も十人並。


 でも、生まれて一度も飢えた経験がないし、二人の子どもにも恵まれて、家族全員ずっと健康に生きてきたので、そういう意味では、文句を言ったらバチが当たるくらい幸運なのだろうなと思います。


 なので、ふむふむと、マスターが私の運勢を絶賛するのを神妙な顔をして聞いていたわけですが、そこでマスターは気になる発言をしました。


「人に話しちゃダメですよ」

「えっと、何をですか?」

「自分が幸運だとか、どんな家に住んでるとか、家族と何をしたとか、車はなんだとか、自分の生活を表すようなこと全てです」


 え〜! 私は自分のことをペラペラとしゃべるタイプだし、カクヨムのエッセイでむっちゃ私生活をさらしまくってますけど?!


「あなたね、まわりのみんながいい人だと勘違いしてるけど、そんなことないんですよ。あなたの幸運を妬んで陥れようとする人や、あなたをだまして利用しようとする人が、世の中にはいるんです。思い当たる人はいませんか?」


 思い当たる人……。いない。


「女です!」

 ビシーッとノートにペンで線を引きながら続けるマスター。

「あなたに嫉妬してあなたを陥れようとしている女がいます。親戚の一人です。本当に思い当たる人はいませんか?」


 女? しかも親戚? 誰?


「その人は、あなたの前ではいい人なんです。でも、陰でずっと悪いウワサを流しています。誰ですか?」


 誰ですかって聞かれても。知らんがな。


「黒魔術はご存じですか?」

「えーっと、はい」


 ここへきて、話が大きくなってきたな。


「その女が黒魔術をかけてます。その黒魔術を解くことが、未来の幸せの鍵です。ご家族のためにも、放っておいてはいけません」


 あ!


 もしかして、こっから『その黒魔術を解くにはこの壺を買わないといけません』的な話になんのかな〜ってドキドキしていたら。


「$300で黒魔術をお祓いできます」

 って早速言ってきました。w

 時計を見たらキッカリ30分経過。こういうのも、プロフェッショナルと言っていいんですかね。


「夫と相談して決めるので、また来ますね」

 と方便を言って、$50だけ払って帰りました。


 占い部屋の写真撮っていいですかと聞いたら、ムッとして「不敬です」と言われたので、すんません、すんません、と謝って帰りました。あのギラギラな電飾とか、撮っておきたかったんですけどね〜。


 こういうのって、バレたってお互いに分かっても、最後まで芝居を続けないとダメな気がするんですよね。それも商品のうちというか。こんなことに無駄金を使って怒られそうですが(誰に?)、なかなか面白い経験になりました。


 当たり前の日常が一番ありがたいのだな、と思えましたし「心のマッサージ」的には大成功だったかもしれません(笑)。


 みなさまも、占いに行ったこととかありますか?


 

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