第71話 悲しい時にかける言葉
最近、同僚の一人がご両親を立て続けに亡くされました。数年間ガンで闘病されていたお母さまが、とうとう他界されたのですが、そのお葬式などで会社を休まれていました。
二週間以上経っても会社に復帰されなかったので、彼女の直属の上司である同僚に「大丈夫? まだ帰って来れなさそう?」と聞いてみました。そうしたらなんと、「お母さんが亡くなられたと思ったら、今度はお父さんまで亡くなってしまって、お父さんのお葬式の準備だとかで復帰が遅くなってるんだよ」とのこと。
そんな彼女が昨日から会社に復帰されたのですが、リモートワークでオフィスも違うので、直接会う機会がありません。
彼女の上司である同僚は「僕は、もうご両親ことは何も言わずに、普通に仕事の話をしたよ。お花もカードも送ったし、本人も仕事をして気を紛らわせたいって言ってたから、何事もなかったみたいに振る舞うのが一番いいのかなと思って。それが正解かどうかはわからないんだけど」と言っていました。
復帰してきた彼女に、何て言ったらいいんだろう……ってものすごく迷いました。彼女の上司は「何事もなかったように振る舞った」と言ってましたが、そして、どうしてそうしたのかもすごく分かるのですが、私はやっぱり一言、なにか言葉をかけたほうがいいかなと思ったわけです。
そういう時に、英語でとても便利なフレーズがあります。
「I am sorry for your loss」
直訳すると、「あなたの喪失を残念に思います」といった意味になりますが、家族や恋人、友人などの大切な人、またはペットが亡くなってしまった時によく使うフレーズです。
「お悔やみ申し上げます」「ご愁傷様です」とほぼ同義と思いますが、違うのは、「お悔やみ申し上げます」や「ご愁傷様です」は仏教用語なので、宗教の違う人にはあまり使えないこと。それから「I am sorry for your loss」は普段から使っている単語でできているので、堅苦しくなく気持ちがこもりやすいところです。
復帰してきた同僚が、悲しい気持ちを誰かに話したいと思っているかもしれないし、職場では感情的になりたくないと思っているかもしれない。ものすごく辛い思いをしているかもしれないし、意外と気持ちの整理がついているかもしれない。
職場のチームメイトがどういうふうに振る舞うのが、彼女にとって一番負担が少ないのか、まわりは憶測しかできません。なので、やっぱり迷いますよねぇ。
その時に思い出していたのは、ある男性の手記です。幼い娘さんを殺害されて、大きなニュースになった被害者の方なのですが、「あの事件があってから、近所の人が目を合わせてくれなくなりました。僕に何を言っていいかわからないので、道で会っても気づかないフリをするんです。自分も同じ立場だったらそうしたかもしれません。気持ちは分かるのですが、そのことがとても辛かったです」
それから、もう一つ。流産をしたお友達が言っていたのですが「安定期になる前だったから、妊娠したこともほとんど誰にも言っていなくて。自分にとってとても悲しいことが起こったのに、誰にも話せなかったのが辛かった」
シャレにならないことって、話しにくいんですよね。話してて感情的になるというのもありますが、まわりの雰囲気が激変するじゃないですか。
「肩こりが最近ひどいのよ〜」みたいな話だったら、「私も〜」とか「このストレッチが効くよ」とか、カジュアルに話がはずみますが、「両親が続けて亡くなったんだよね」なんて言ったら、その場がシーンとなります。
とても悲しいことって、話す機会が案外なかったりするなと思います。
義母の住んでいる町がひどい山火事に合った後、政府がカウンセラーを送ったらしいんですが、そのカウンセラーさんには、「山火事の話を住民がしていたら、熱心に聞いてあげてください。何度も同じ話をするかもしれませんが、何度でも聞いてあげてください。誰かに聞いてもらえるということが、トラウマから回復するのに最も大切なんです」とおっしゃっていたそうです(義母談)。
とまあ、こういうことがグルグルと頭の中を巡って、例の同僚さんにどうアプローチするべきか、迷いに迷いました。
結局、短いメールを送ることにしました。「II am sorry for your loss」から始めて、「(ご両親のことについて)もし話たかったら、いつでも話を聞くからね。でも、話したくなかったら、話さなくても大丈夫。チームのみんな、あなたがいなくて寂しかったよ。復帰してきてくれてうれしいです」的なメッセージを送りました。
「ありがとう」とハートのいっぱい付いた返信がきましたけど、今でも、あれが正しかったのかどうかはわかりません。かえって気を使わせてしまったかもしれません。
悲しい出来事があった人にどんな言葉をかけたらいいのか、これが正解というものはないと思うので、難しいなと思います。みなさんも、きっと同じような経験があられると思うのですが、自分が悲しかった時に「こういう言葉をかけてもらってうれしかった」みたいなエピソードがあれば、ぜひ教えてください。
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