第66話 なぜかイラっとくる美容師さん その2

 会うたびになぜかイラッとくる美容師さんに、先日カットしてもらいました。やはりイメージ通りですばらしいです。仕上がりが丁寧なのに、手際がよくてむちゃくちゃスピーディーなんですよ。迷いなくザクザク正確に切っていかれる姿は本当にカッコいいです。


 こういう、誰が見てもわかるくらい技術を極めてる人って憧れますねぇ。ポロポローンと即興で楽器が弾けたりとか、明らかにプロな包丁づかいとか、ササっと似顔絵が描けるとかね。


 で、件の美容師さん、腕もスタイリングの相性もピカイチなので、なんとかイラッとしないような会話をしたいなと思い、今回は何がいけないのか分析しながら、普段よりもっと気をつけることにしました。


 わかりましたよ、微妙にイラっとくる原因が。

 ズバリ、彼女が「〜ですよね」と世間話で同意を求めている時に、ぜんぜん同意できないんですよ。


 例えば……


美容師さん:「海外に長くいると、日本に帰ったときに、自分はまわりの日本人と考え方が微妙に違うなぁって、感じたりしません?」


私:「あ〜、わかります(←これは本当に共感できる)」


美容師さん:「地元で仲良かった友達と話が合わなくなったりしますよね」


私:「……え、あ、そうなんですか?(←ぜんぜんそんなことはない)」


美容師さん:「海外に一度出た人のほうが、やっぱり話が合うんですよね」


私:「そうなんですね〜(←ぜんぜん共感できない)」


美容師さん:「でも、海外に住んでる日本人って、みんなクセが強いですよね」


私:「え、そうですか?(クセの強い人って、どこ行っても一定数いるけどなぁ。海外組が特にクセつよ軍団とも思わんが。っていうか、あなたが思う『海外に住んでるクセが強い日本人』の中に私も絶対入ってますね(笑)?)」


 とまあ、こんな感じで。「わかります〜。私もそうです〜」って共感しといたほうが角が立たないんだろうなぁっていう話も、どうがんばっても同意できないので、お互い煮え切らない会話になっている模様です。


 私のほうは、微妙にイラっときても、カットの仕上がりが抜群にいいので別にいいかなと思っているのですが、先方もイラっときてたら申し訳ないなと。美容師さんはお客を選べないので「ああ、またあの微妙にイラってくるまりこさんが来る……」って毎回ウンザリさせちゃってたら嫌だなーと思います。


 でね! 聞いてみたんです。


「嫌いな人が常連になったり、変なお客さんになつかれたりとかしません?」


 この質問をした時の美容師さんの反応が、ク◯おもしろかったです。


 みぞおちにパンチくらったみたいに「グハッ」という顔になり、こんな時なんて言ったらいいんだろう、とグルグルグルグルっと高速で考えて二秒くらい処理落ち。からの「ブハッ」と破顔。


「嫌いなお客さんって、私はいないんですよ〜」と笑いながら答えてくださいました。すばらしい模範解答。


 あの「グハッ」には「痛いとこつかれた!」っていう心理が見えたんですけど、考え過ぎでしょうか。すなわち、「嫌な常連って……私になつく変な客って……お前だよ!」みたいな衝撃が。私の被害妄想でしょうか。


 いやそれとも単に「お客さんにむかって他のお客さんの悪口を言うのはアウト」っていうプロ意識と「なんでそんな質問ふるんだよ!」っていう疑問の狭間で、反応が追いつかなかったんですかね。一瞬、明らかに挙動不審になられました。


美容師さん:「私、波長の合わないお客さんとは、すぐに心を閉ざしちゃうんで、あんまりそういうことにならないです。あと、お客さんのことを、嫌いだとか思わないようにしてます。お客さんが来るたびに憂鬱になったりするのってイヤじゃないですか〜」


 さすがプロです。その言葉に偽りはないのだと思います。一年に何百・何千人も相手にするお仕事ですもんね。えらいなぁ。まあ、そうは言っても、本音のとこでは「嫌だな」とちょっとくらい思うお客さんっているんじゃないかなと思うんですけどね。


 何はともあれ、反応に困る質問しちゃったな〜と、むっちゃウケまし……(ゲフンゲフン)申し訳なかったです。


 別に美容院でディープな話をしたいわけでもないんですけどね。もっと当たり障りのない話題だけにするとか、むしろしゃべらないでいるとか、すればいいのに自分、って思うんですけど。先方もおしゃべりなんですよ! アレ、私がおしゃべりだから合わせてくれてんですかね。


 とまあこんな感じで、お互いに気を使い合う微妙な心理戦(?)、これからも続きそうな予感です。不謹慎ですが、前回エッセイのネタにしてから俄然楽しくなってきました。またなんかあったらご報告します。え? いらない?

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