第59話 宝石店の人間ドラマ

 ひっそりと新作の長編を進めています。年始に取りかかってうまくいかなくなって断念したプロットは、いったんお蔵入りです〜。別のプロットで挑戦しています。


 今書いてるのは、ある飲食店にやってくるお客さんたちと店主と店員さんの織りなす人間模様を描いた短編連作です。一話二万字くらい × 五話で、群像劇みたいにできたらいいなと思っています。


 構成としては、あるあるです。人が集まってくるところのドラマ。飲食店じゃなくても、弁護士事務所とか病院とか学校とか葬儀屋とか、いろんなネタでありますよね。深夜食堂とか、精神科医・伊良部一郎シリーズとか、金八先生とか、シックスフィートアンダーとか(例えが古くてごめんなさい)。


 宝石店も、ドラマの宝庫だなと思います。高級ジュエリーを買うのって、ほとんどの人にとって特別なイベントですから、どうして宝石店に足を運んだのか考えるだけで、いろんな人生が思い描けます。


 で、気づいたんですよ。私、イギリスの宝石店で働いてたことあったわ! いろんな人間模様、見た見た!


 ってことで、前置きが長くなりましたが、今日は宝石店にいた愉快な面々について、ご紹介したいと思います。


 奥様のお誕生日プレゼントに高級ジュエリーをお買い上げされた男性。

 翌年、担当した店員さんが気を利かせたつもりで「もうすぐ奥様のお誕生日ですね。奥様のお好みに合いそうなお品が入りましたのでご連絡しました」というお手紙を、新商品のカタログと一緒に送ったら……。「私の誕生日は三ヶ月前に過ぎましたけど、どういうことですか?!」と奥様から怒りのお電話が。

 愛人へのプレゼントを奥様用って店員さんにウソついてたんですね〜♪


 それから、Tシャツ、短パン、サンダルに、大きなビニール袋を持って来店された初老の紳士。一千万を超える品物を選んで「これがいい。現金払いでいい?」と。ビニール袋からは札束の山が!

 一定の金額を上回る現金の支払いは、偽札やマネーロンダリングの可能性があるので、店側は大慌てです。

 店員二人がかりでお札を偽札探知機にかけ、数えるだけでも三時間以上かかったのだとか。その間、もう一人の店員さんが、お客さんの身分証明書を確認しつつシャンパンでおもてなし。

 短パンにサンダルの紳士は、終始にこやかで上機嫌に帰っていかれました。


 後から店員さんに聞いた話だと、「お金持ってなさそうな格好の人ほど、びっくりするような大金を持ってることがあるよ」とのことでした。


 上記のようなお客さんのおもしろエピソードは、店員さんから聞いたものですが、店員さん自身もおもしろい人が多かったです。


 例えば、台湾出身のチェンチェン。目鼻立ちのはっきりした、アイドル風美人。出会った頃は二十代前半でしたが、美人というより美少女と言うほうがいいくらい若々しい女性でした。


 ただ、しゃべり方がちょっとアホっぽい……ゲフンゲフン。首をちょこんとかしげながら、舌ったらずな発音で「とってもかわいいですね〜♪」なんてお客さんに言う姿は、かわいいんだけど、もう成人してんだからさ……って私は若干ひいてました(爆)。


 が! このチェンチェン、実は凄腕のセールスレディーで、一千万とか二千万とかするジュエリーをポーンと売ってくるんですよ。成績は常にトップ。


 チェンチェン、アホっぽい雰囲気で、人の警戒心をガーンと解いちゃうんですよね。でも、しゃべっているうちに実は賢いことがわかって、そのギャップにやられる頃にはすでにガッチリ人の懐に入ってるっていう。天然もしくは無意識だったと思うのですが、もしも狙っての演出だったらすげえ、というか恐ろしいですね。


 他にも、キャラの立った店員さんや、社員さんの宝庫でした。


 いろんな裏事情も垣間見たし、飲食店じゃなくて宝石店の話を書けばいいのでは……って、今ちょっと思いました。

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