第54話 いろんな小説の書き方

 最近、カクトモの神楽耶夏輝さん(通称ナツくん)からこんなことを聞きました。

「若月ひかるさんは、ウケるかどうかを検証するために、タイトル、キャッチ、序盤だけかいてアップして読者のうごきを見てから続きを書くそうですよ。ウケが悪かった作品は、続きは書かないんですって」*この記述については、誤解があります。追記に訂正文を書いているのでご参照ください。申し訳ありません。


 ほええええ。


 ナツくん自身も言ってたんですが、これ、商品開発などでよくやる手法ですよね。プロトタイプとも言えないような簡単なプロトタイプを作って、その商品が欲しい人がいるかどうか、まず市場調査をする。


「売れるかどうかを検証するために、中身は無くてもいいから通販サイトだけ作る(ナツくん談)」とかは、私も仕事でやったことがあります。


「コンセプトを紙に鉛筆で書いた時点で誰かに見せなさい」と言う人もいますし、とにかく、商品やサービスのアイディアが浮かんだら、まずは『それを欲しい人がいるか』調査するというのが、一般的な商品開発の手順かなと思います。


 小説も、売るとなると商品ですから、若月ひかるさんのようなベテラン売れっ子作家さんが、商品開発と同じ手順をふむのも納得です。こういう書き方をされている作家さん、インターネットで手軽に市場調査ができる今では特に、けっこういらっしゃるのかもしれません。


 これと対照的な話をされていたのが、『星のカービィ』シリーズなどを開発された、ゲームクリエイターの桜井政博さん。桜井さんは、自分の頭の中で完全に世界観が固まるまで、誰にもゲームのアイディアを話さないそうです。


 意外でした。ゲームは、小説と違って、一人で作品を完成させることはできません。開発費用も莫大です。なので、絶対に誰かと自分のアイディアを共有しないといけない時が来ますよね。


 なので、私はアイディアの段階から、チームでブレインストーミングなどをするんだろうな、と想像していたんですよね。おそらく、そうやって最初の段階からチームと相談しながら作っていくクリエイターが多いと思うんです。桜井政博さんのインタビュアーの方も驚いていらっしゃいました。


 桜井政博さんいわく、アイディアの段階で人に話してしまうと、『作りたい』という内圧が減ってしまうから、どういうゲームなのか自分の中できっちり決まるまでは話さないことにされているそうです。


 似たようなご意見で、アメリカの人気SF作家アンディ・ウィアーさんも「アイディアやプロットの段階では、絶対に人に相談しない」と最近耳にすることがあってびっくりしました。プロの作家さんであれば、プロットの段階で編集者と相談するのが普通なんだろうと思っていたので。


 しかも、その理由が桜井政博さんとすごく似ていました。「アイディアの段階で人に話してしまうと、書く意欲が失せるから」


 アンディ・ウィアーさん、小説家なのに、文章を書くのが嫌いだそうです。


 アイディアを練っている段階と、最終的に作品が完成するのが好きで、その間にある、実際に小説を書いたり、改稿したりする作業は、苦行でしかないそうです。なので、書く時は一日のノルマを決めて、それが達成できないとYouTube観ちゃダメとか、他の趣味をやっちゃダメとか、アメとムチを上手に使って、『めんどうくさいけどやんなきゃいけないタスク』としてこなしているとおっしゃってました。


 書くのが好きで好きでたまらない作家さんや、書かずにいられない作家さんも多いので、書くのが嫌いな作家さんもいるんだなと、しかも、そこ正直にバラしちゃうのが性格いいな、と新鮮でした。


 もう一つ、綾束乙さんお勧めの指南書『Save the catの法則』を読んだのですが、「まず、どんな話なのかを簡潔に表現するタグラインを作り、それをいろんな人に見せて感想を聞きなさい」的なアドバイスがあります。同著は、売れる脚本を書くための指南書ですが、小説を書く際にも非常にためになる本だと思います。一気に三冊も書籍化が決まった乙さんがおすすめされるのも納得です。


 その後に読み始めた指南書『書きあぐねている人のための小説入門』では、逆に「一言で説明できるような小説は、小説とは言えない」(←ごめんなさい。うろ覚えです)的なことが書いてありました。こちらの本は、売れるための指南書ではなくて、『小説を書くとはどういうことか』を掘り下げる、哲学的・芸術的な要素の多い本だと感じます。こちらも、カクヨム発書籍作家さんのおすすめでした。


 いろんな人の様々の創作論を聞いていると、つくづく『これが正解』ってものはないのだなと感じます。それでも、いろんなセオリーやアドバイスに触れるのは勉強になるなと思います。一つのやり方がうまくいかなくても、他のやり方があると知っていると励みになりますし、いろいろ試しているうちに、その時の自分に合った方法が見つかっていいかなと。


 ここ最近、連続して相反するセオリーを耳にすることが多かったので、いろいろ思ったのでした。


 今日はオチがなくてすみましぇん。


*追記:こちらのエッセイで紹介した、若月ひかるさんの小説の書き方は、私が誤解していたようです。神楽耶夏輝さんから以下のような訂正コメントをいただきました。


「若月ひかるさんは、あくまでもウェブ小説でバズる方法、みたいなことで、実証としてなろうでこの方法を試した、みたいな内容で動画投稿されていただけです。こうしたらウェブ小説バズるよ、みたいな感じです。

この方法で、常に小説を書かれているわけではありません。

書いては捨てて、という事を指南されているわけではないです。

ちゃんと、作品を大事にされる作家さんのはずです。」


若月ひかるさんにも、神楽耶夏輝さんにも、申し訳ないことをしてしまいました。誤解を招いてしまってごめんなさい。


 

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