第53話 ラマダン その2

 先週、ラマダンについてのエッセイを書きましたが、いただいたコメントを読んで、「どうやら、ラマダンの断食ばかりにフォーカスを当てて、しかも辛い面ばっかり強調してしまったかも……」と反省しました。


 イスラム教徒の多い地域に住んでいるので、ラマダンの習慣自体は、私には割と身近なんですよね。なので、全く馴染みのない方にとっては、けっこうインパクトのある行事なんだってことを、失念しておりました。


 ということで、今回はテイク2です。


 ラマダンがぐっと身近になったのは、2010年にロンドンに移住してからです。イスラム教徒の多い地区の近くに住んでいたのですが、ある夜、「いつもにも増して通りが賑やかだな〜」と思ったら、「ラマダン中だから」と教えてもらったのです。


 その当時、私は「ラマダン=断食」という認識しかなかったので、実は意外と「食べる」行事だってことを知りませんでした。


 ラマダン中は、日の出から日没まで断食をしますが、日没後に家族やお友達と一緒に断食を破ってご飯を食べます。先ずは一杯のお水とデーツという果物を食べるのが伝統だそうですが、その後はご馳走が並びます。屋台で外食する人も多いです。


 ラマダン中、屋台でワイワイ笑顔でご飯を食べている家族連れを見て、「ラマダンって、楽しい催し物なんだ」とびっくりした記憶があります。


 朝は、早起きをして日の出前にしっかり朝ご飯を食べます。夏のロンドンなど、日照時間がむちゃくちゃ長い地域・時間に、ラマダンの期間が当たってしまうと、この時間配分が難しくなるわけです。逆に、日照時間が短ければ、朝も夜も十分にご飯を食べる時間があります。


 前回は、肝心の「ラマダンはどんな意味があるのか」という部分を書いていなかったので、そこも書いておこうかと思います。


 ということで、お友だちのイスラム教徒の女性にインタビューしてみました〜♪ 以前、二軒隣に住んでいた女性で、ユダヤ人と結婚した方ですが、昔のエッセイに書いたことがあるので、覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。


「ランダムなお願いがあるんだけどさ……」と前置きしてから、「ラマダンについて質問があるんだけど、15分くらい電話で話してもいい?」とメッセージを送ったところ「マジでランダムだね」という返事が返ってきました(笑)。が、快く引き受けてくださいました。


質問1:「毎年、ラマダンの時期がやってくるのって、憂鬱? 楽しみ? それとも両方?」


回答:「若い頃は両方だったかなぁ。ラマダン中はタバコも吸っちゃだめなのに、『断食してるからタバコはオッケー』みたいに都合良く解釈して吸ってたし、断食の後、夜ご飯を食べたらクラブに繰り出したり。今思えば、ラマダンの趣旨に思いっきり逆らった参加の仕方してました。でも、もっと大人になってからは、ちゃんと自分と向き合うようになって、楽しみになったよ。もちろん大変だけど、毎年、よしがんばろうって思います」


質問2:「ラマダンって、あなたにとって個人的にどんな意味がある?」


回答:「精神のクレンジング。ラマダン中は、お祈りや瞑想も、いつもよりちゃんとがんばるし、断食中は貧しい人の立場を疑似体験して、謙虚な気持ちになれる。積極的に、募金だとか、他人のために善行を積む期間でもあるから、普段よりも優しい気持ちになれる。自分と向き合って、コーランの言葉の意味を考えて、神様と近くなれる、大切な時間です」


質問3:「ラマダン中は、イスラム教徒同士の絆が深まると思う?」


回答:「もちろん。世界中の同志が、同じ挑戦をしてるんだと思うと、すごいことだなと思う。ラマダン中は、街を歩いてても、スカーフ被ってる人を見かけると『断食中だよね? 喉かわくよね? 午後になると頭ふわふわして、手足冷たくなるよね。 わかるよ〜!』って心の中で話しかけてます(笑)」


質問4:「もし、イスラム教徒ばかり住む地域に住んでたら、ラマダンの断食もしやすかったと思う?」


回答:「それは間違いなくそうだと思う。家庭でも仕事でも、みんな断食してたら、自然に断食できるだろうし、お祈りも、モスクに行くのも、もっと頻繁にできると思う。自分だけでやるのは、やっぱり大変。だから、他のイスラム教徒と交流し合うのは、すごく大事です」


 とまあ、こんな感じで楽しくおしゃべりしました。一般的に、イスラム教徒は家族ぐるみでイスラム教徒なんで、ラマダンも一緒にやるんですが、この女性はユダヤ人と結婚した珍しいケースなので、「家庭内一人ラマダン」を毎年実践しています。毎年よくがんばるなぁって感心しきりです。


 このエッセイを投稿している今日は、ちょうどラマダン明けのイードのお祝いです。きっと、たくさんの人たちが、大切な人たちと一緒に、充実した時間を過ごされていることと思います。


 イスラム教徒も、非・イスラム教徒も、それぞれ幸せな時間を過ごされていますように。Eid Mubarak!(イードおめでとうございます!)

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