第43話 オーストラリアの出版事情

 こころ様から、以下のような質問をいただきました。ご質問うれしいです。ありがとうございます。


オーストラリアの出版事情とか知りたいです。

やはり、日本と同じ出版不況なんでしょうか?

子供の活字ばなれに、政府はどんな対策してます?


 ちゃんとしたデータなどはないのですが、私が個人的に感じる範囲で答えさせていただきます。


 インターネットが普及したあたりから、オーストラリアも出版物は右肩下がりです。一番打撃を受けたのは、新聞・雑誌のように見受けられます。本屋さんもたくさん潰れましたし、News Agent と呼ばれる、新聞・雑誌・宝くじを主に売る小売店も、ずいぶん少なくなりました。


 紙媒体がインターネットやストリーミングサービスにシェアを取られていった経緯は、程度の差はあれ、日本とあまり変わらないと思います。


 出版に詳しいお友達がいるんですが、その人の話だと、オーストラリアで最も本が売れる場所は、空港だそうです。飛行機の中の暇つぶし、もしくは、休暇中のお供に本を購入する人が多いんだとか。


 空港で買える本はだいたい相場が決まっていて、二時間くらいで読めるビジネス書や自己啓発本、それからミステリが多いです。あとはまあ、なんか賞を取ったとか、話題のベストセラーとか。基本的には、ささっと読めて楽しめる・ためになる系の本ですね。「オーストラリアで売れてる本=空港で買えそうな本」という方程式が成り立ってるらしいので、つまり、オーストラリアで売れる本というのは、ささっと読めてエンタメ小説か実用書なのでしょう。あと、レシピ本も比較的売れるそうです。


 オーストラリアでは、五千部出たら「ベストセラー」だそうです。日本だと十万部以上からとネットに書いてあったので、「少な!」って思います。それでも、五千部出るのは、ビジネス書かレシピ本くらいで、無名作家の小説が、オーストラリアで五千部出ることは、ほぼないと聞きました。


 日本と比較すると人口が少ない(日本の五分の一)ですし、本を読む人口も少ないんだと思います。本を読む層と読まない層が、日本よりはっきり二分化してる印象があります。


ただ、英語圏なので、アメリカやヨーロッパにも販路がある出版社を選べば、グローバル展開ができます。そうすると日本語の出版物よりもはるかに市場は広く、当たればすごーく大きいです。


 例えが古くなりますが、日本でも話題になった「ダヴィンチコード」は発行部数が1000万部を超えたらしいです。日本で歴代一位のベストセラー「窓際のトットちゃん」が580万部 、2022年に一番売れた本「80歳の壁」が53.5万部だそうなので、こうやって比較すると英語圏マーケットは広いですね〜。


 英語圏では、文庫本のように小さいサイズの本がなく、単行本はどれも重くて大きいですし、ペーパーバックと呼ばれる軽いバージョンも、日本の本と比べるとむちゃくちゃかさばります。


 にもかかわらず、電車の中などで本を読んでる人をちらほら見かけます。文庫本サイズに慣れてる私からすると、あんなにアホみたいにデカい本をよく持ち運べるなと感心します。っていうか、文庫本便利なのに、なんでもっと本を小さくしないんだろう……て疑問です。技術的な問題もあるのかしら。


 オーストラリアで本を出そうと思ったら、出版社に持ち込むか、自費出版かのどちらかが主流です。


 ビジネス書を出したお友達に、書籍化にいたった経緯を聞いてみました。こんな感じだったそうです。↓

1.出版社の担当編集者に本のアイディアを売り込む。

2.編集部が興味を持ってくれて、編集者さんからメールの返信が来る。

3.何度かミーティングして、コンセプトや本の構成などを合意してから契約。

4.出版社から著者へ前金の支払い。前金は「本が出たらどのくらい売れるか」という予測のもとに支払われるのですが、彼女の場合は一万部出るという予想で、二万ドル(約180万円)だったそうです。

5.原稿を書く

6.編集、推敲、装丁などを経て、めでたく出版♪(編集さんと最初に会ったときから出版まで、一年半かかったそうです)


 この場合、一万部以上売れたら、それ以降は印税がもらえます(一万部売れない限り印税は入ってきません)。印税について日本と違うのは、刷った部数ではなく、売れた部数のぶんがもらえるところです。しかも、定価のパーセンテージではなくて、売り上げのパーセンテージが支払われるので、セールで半額で売られてしまうと、著者に入るお金も半分になります。


 ほとんどの書籍は、オーストラリアで一万部も出ないので、「優雅な印税生活」というのは、ものすごーく限られた人しかできません。ベストセラー作家さんでも、昼間は会社員なのが普通です。五千部でベストセラーですしね……。


 子どもの活字離れに対する政府の対策についてですが、幼稚園・保育園のころから読み聞かせが奨励されています。子どもが三、四歳になると、無料で絵本を配布してもらえますし、図書館にもかなり投資してる感じがします。小学校では、宿題がないかわりに、低学年では音読、高学年では読書を、毎日することが求められます。


 うちの子どもたちは、フツーの公立の小学校に通っていますが、学校のおかげなのか、まわりに本好きが多いからなのか、二人とも本が好きになってくれました。YouTubeも見ますし、テレビゲームもやりますが、本も読んでくれるので、活字が好きな子に育ってくれてよかった〜って思います。


 あちこち話が飛んで、質問の答えになったのかどうか怪しいですが、現場からは以上です♡

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