第10話 私小説ってなんだ

 カクヨムのゆうすけさんが、エッセイで、ご自身のある過去作を「クソ面白い」と自画自賛していらっしゃいました。なんでも、ご自身がタロット占い師だったころの私小説だとか。


 えー! むっちゃくちゃおもしろそう。知ってる方の私小説ってだけで惹かれますけど、「タロット占い師だった」って、なんですかそれ。反則でしょう。ということで、読んでみたら、クッソ面白かったです〜。ビューティースリープを犠牲にして一気読みしてしまいましたよ。


 まず、一エピソードにつき、タロットカードを一枚ずつ紹介していく構成がすばらしい。タロット占いの勉強になりつつ、ストーリーはキュンキュンの青春物語です。登場人物たちもそれぞれ非常に魅力的で、リアリティーがすごいです。読んだ方も多いかと思いますが、未読の方、オススメです。

「あのころ僕は占い師だった  ―― 僕とあの人と22枚のカード」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888291217


 私小説って、日本独特のジャンルだとか言われますが、その点については眉唾でした。私小説っぽい外国文学もあるやーんと思って、パッと思いついたのが、エリザベス・ギルバート著の「食べて、祈って、恋をして」。世界累計1,500万部突破のベストセラーです(Amazonより)。


 本屋大賞と直木賞をダブル受賞した奥田陸著「蜜蜂と遠雷」が、累計発行部数が文庫版(上下巻)を含めて150万部ということなので(Jiji.comより)、ベストセラーの桁が一つ違いますね。うひゃー。


 ちなみに、戦後最大のベストセラーと言われる黒柳徹子著「窓際のトットちゃん」は、世界中に翻訳された総部数が約2,371万部だそうです(Wikipediaより)。


 で、「食べて、祈って、恋をして」は、自伝的エッセイとしてあります。私小説ではないんですね〜。


 その次に浮かんだのは、マルグリット・デュラス著「愛人ラマン」。フランスで150万部のベストセラー(Amazonより)。映画も有名です。こちらも、自伝的エッセイとありました。


 んー……。自伝的エッセイと私小説って、どう違うんだっけ? と検索してみました。チラッと検索しただけの知識によると、私小説は自分の経験した物語に脚色を加えたもの。つまり、だいぶ盛ってるってこと? 体験談に自分の妄想を好きなだけ織り込んでオッケーなジャンルってことでしょうか。


 自伝的エッセイも、絶対、少しは盛ってるんじゃないかなーって思います。著者本人の記憶で書くわけですから、現実をいかようにも解釈して物語として紡げます。例えば、1970年代に携帯電話を使ってたら、時代考証的にアウトですけど、冴えなかった元カレを、イケメン風に書いても許されると思うんですよ。


 私小説は、著者にも読者にも「ベースは事実ですけど、めっちゃ盛ってますから!」という公認のお墨付きをもらったジャンルなのかなと解釈するに至りました。外国ではシレッと盛ってるんだけど、そこを公認にしたジャンルを作ったのが日本独特なのかしら。「エッセイじゃなくて私小説ですから」って言えば、いろいろ逃げられそうですしね。いやたぶん、ちゃんとした文学的な分析・考察があると思うんですが。スミマセン。


 話がちょっとだけ変わりますが、私が好きで聞いているポッドキャストに、一般人が自分の経験を話すパフォーマンスがあります。例えば、警察官が瀕死の赤ちゃんを救った話とか、退役軍人がPTSDと一緒に生きる話とか。ヘビーなものだけじゃなく、日常のほっこり一コマ的な話も、爆笑自虐ネタもあります。小さな劇場やパブみたいなところで、スピーチのような形で、自分の経験を話すのですが、そのレコーディングを、ポッドキャストで聞けるんですよ。


 特にポッドキャスト版は、いいものを選りすぐって集めてあるので、どの話もむちゃくちゃ面白いんです。誰だって、「自分は話すに値する経験なんてしてない」と思っている人でも、他人が聞いたらクッソ面白い物語を持っていると思います。っていうか、ポッドキャストでも、それを繰り返し唱えています。でも、本当にそうだと思います。


 こういう話のおもしろさって、二段階あると思います。まず、本人に本当に起こったことだから、リアリティが面白い。作り話では出せない、豊かなディテールがあります。それから、「こんなことが本当にあったんだ!」という面白さ。「事実は小説よりも奇なり」と言いますが、小説よりも奇なる事実を小説として書いたら、「こんなの、ありえないでしょ」で終わるんですよね〜。ありえないことが、本当にあったから面白いのですよね。


 私小説って、前提が「本当にあったこと」だから、さらに面白さが増すんじゃないかなと思います。読んでるほうも、どこまで本当なんだろう……と想像しながら読むのが楽しかったりしません? 著者は、書いてるうちに嘘と本当が曖昧になって、記憶が改ざんされることもありそうですが、どうでしょうね。


 私も、自分の冴えなかった青春を、もりもりに盛った私小説にして、記憶を改ざんしてしまおうかしら。イケてない記憶を掘り起こして、「こうだったらよかったな〜」という妄想を加えて混ぜてみる。そうすると、なんということでしょう! 甘酸っぱい思い出に仕上がっているではないですか! なんてことができそうですね。(他の方の私小説が、そうだと言っているわけではありません)


 私小説を書いてキュンな記憶の捏造、いつかやってみたいです。

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