第5話 モブキャラのサブちゃん

 むかーし昔に会った人のこと、何かのタイミングで急に思い出すことないですか?


 私が十八歳くらいの頃の話なんですが、大学の先輩に片思いをしていました。

 先輩に全然相手にしてもらえなくて、恋の悩みを相談していた男友達がいました。あだ名がサブちゃん。本名はもう忘れてしまいました。


 サブちゃん、ものすごくいい人で、私の話を「うん、うん」って聞いてくれて、「男心とは」的なアドバイスを、思いつく限り教えてくれて、たまに「元気出しな」ってケーキとかおごってくれたりしました。


 ある日、別れ際に、大学ノートの切れ端を折り畳んだものをくれました。後から開いてみると、サブちゃんの手書きで「がんばれー!」って一言、大きく書いてありました。


 サブちゃん、思い返すも、なんていい人なんだ!


 私は当時の自分に説教をしたいです。サブちゃんこそ王子様だったのに、お前の目は節穴か、と。


 理系で頭良かったし、話を聞くのが上手で、本当に優しい人でした。


 ああもう、それなのに私ったら、なんでサブちゃんをモブキャラの「いい人止まり」設定して、恋のレーダーから外してしまってたんでしょうね。当時夢中になっていた先輩のほうは、色気のあるワイルドな感じの人で、今の私だったら「やめとけ」認定してたと思います。若さとは、時として愚かなことよ……。


 今ごろ、サブちゃんが、私の二十倍くらい美人で気立ての良い才女と結婚してるといいな。賢くて優しいサブちゃんジュニアが三人くらいいて、幸せな日々を送っているといいな〜って思います。うん、きっとそうだ。


 本名を忘れてしまったので、ソーシャルで探すこともできないんですよね。今さら会いたいとか思わないんですけど、サブちゃんの幸せな姿を影からそっとのぞいてみたいとは思います。


 なんで急に思い出しちゃったんだろうなぁ。

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